初めてのおつかい@異世界
支度を終え、受付に鍵を預け、いざ初めてのおつかい@異世界をスタート。
現在地の宿屋は、大通りに面してる建物で、地図にも書かれてる。
おつかい先も目印が書いてあるので、それを見落とさないよう、進んでいけばよさそうだ。
・雪だるまが乗ってる噴水(左に緑の屋根のパン屋あり)を右折後、直進
・丁字路の突き当たりで左折
・左に公園(雪遊び場)、右に服屋がある交差点右折で、突き当たりの家
と、別添のメモに道順まで書いてある。
イージーモードのお使いに、胸を撫で下ろし進む。
メモの文字にも翻訳が働いてる。
この世界の文字っぽいけど、見れば頭の中に入ってくる。
何故か頭の中に"T"字路ではなく"丁"字路で入る。楓も月華も、"丁"字路で翻訳されてる。
「ファンタジー世界だから尚のこと、"丁"字路って訳が気になるわ……」
「これ、クマ兄さんが書いたんじゃね? 金髪兄さんなら"T"字路になったりして……」
「……ありえる」
硬い言葉で喋るゼランローンズと、丁寧で柔らかい口調のアレクライト……2人を比べるとそんな気がしてくる。
変な人に絡まれる事もなく、無事目的地へ辿り着く。
大きな建物だ。
宿屋です、と言われて納得できる大きさだ。
だが、建物の前には立派な門があり、見張りもいる。見張りに用件を伝える為に、2人で近づく。
月華が懐から手紙を出して、見張りに声をかける。
「すみません、こちらの手紙を預かってきたので、宛先の人に渡して欲しいのですが」
見張りは手紙の宛名を見て、うんうんと言いたげに、首を縦に振る。
裏返して名前を見て目を見開く。
そして、もう1人の見張りに、離れる事を伝え、屋敷に駆けて行った。
少し待つと、入口から年配の女性が現れた。お仕着せ姿なので、この家で働いてる人だろう。
女性は門を開けさせ、2人の前に立ち、一礼すると口を開く。
「ようこそおいでくださいました。どうぞお入り下さい」
「いえ。手紙を届けに来ただけなので。知らない人の家に入る気はありません」
月華が間髪入れず、すっぱりと断る。
ゼランローンズに頼まれた事は、手紙を届ける事だけだ。家人に会うのは含まれていない。
女性は目を見開いた後くすくす笑う。
「ここは、ゼランローンズ坊ちゃんの弟である、ディジニール様のお家です。シェリッティア家に行くための準備を行うため、貴女がたに来て頂いた形になります。なので、お入り下さい」
「え? 月華、聞いてた?」
「何もきいてないぞ……」
「ゼランローンズ坊ちゃんは、言葉が足りなさすぎる点は、変わっていらっしゃらないようで。客人をいつまでも外に居させるわけには参りませんので、どうぞお入り下さい」
郵便代行だけじゃないのか、とため息をつきたかったが、何とかこらえ、家に行くなど聞いてないので拒否をして、立ち去ろうと口を開いたとき、正面の大きな扉がバァンと開いた。
「んもぅ、レイニー! 遅いわよ! お客様凍えちゃうじゃないっ!」
割と低い声。
ゼランローンズと同じく赤銅の髪、だが、彼と違って長く伸ばしてあり、結われてる。背丈は月華と同じくらい。
そんな男が、扉から登場した。
すこし体は華奢に見えなくもないが、男性であろう体躯である。
だが、ドレスとまでは言わないが、可愛い服を身に纏ってる。
ミニスカートのワンピースドレスみたいな、カジュアルちっくな上の服。
スカートの下からは、ズボンが見える。スキニーのような感じで、割とピッタリしたズボンが、タイツの様にもみえて、遠くから見ればミニスカートとタイツのような服装だ。
耳には綺麗な細工が施されたピアスも揺れている。
その男……おネェは、ササっと2人の手を取り、屋敷に引っ張って行く。
明るく出迎えたおネェに圧倒されて、2人は家に足を踏み入れるしか無かった。
「アタシはディジニールよ! ゼラ……ゼランローンズの双子の弟よっ! よろしくね、カエデちゃんにツキカちゃん!」
「ふたごのおとうと……」
「楓……ゼランローンズって誰だ?」
「クマ兄さんって呼んでる人よ! まだ名前覚えてないの?!」
「クマ兄さんでインプットされたから、名前はアウトプットした」
「あははは、ゼラがクマ兄さん! いいわねぇ、アナタ!」
ディジニールは右手で楓を、左手で月華を引っ張りながら、サロンへ入ってく。
メイドさんたちにコート類を、あれよ、あれよ、という間に剥ぎ取られ、ソファに沈められた。
向かい側に、おネェがしゃなりと座る。
「ゼラからのお手紙の内容をサックリ伝えると、『実家に行くから旅支度任せた、支度の対象者は、訪ねて行く2人だ。彼女たちの分の旅支度をよろしく』ってとこネ」
「あの、ちょっと、クマ兄さん蹴り上げに行く急用が、たった今、発生したので、帰ります」
「あははは! やっぱいいわネ、あなた!」
「あ、えっと私、楓と申します。ディジニールさん……支度とは……」
とりあえず礼儀として、自己紹介して、家に入る事になった用事を把握しようと、楓は質問をする。
ディジニールは優雅にお茶を一口飲み、ソーサーに置くと、ニッコリ笑う。
「まず、貴女たちのお洋服を用意しましょ! ほぼ着の身着のままで、こっちに引っ張られてしまったなら、お着替え無くて不便じゃない? オシャレもしたいだろうし! お化粧品もアクセサリーだって!」
目の前のおネェは、自身も、他人のオシャレも、大好きなようだ。




