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偉い人って謝り方しらないのかな?


 扉の前の兵士が制止するのを無視して、アレクライトとゼランローンズは、扉を開けて中に入る。

 楓とシロもそれに続く。


「許可なく入りおって、無礼であろう!」


 青い髪の男が振り返り、怒鳴ってくる。

 だが物怖じせずに、皆歩みを止めず、近づく。


「王様、聖女の召喚に巻き込まれた者たちがおり、わたくしとゼランローンズで保護致しました事を、ご報告申し上げます」

「ヴォンクルー王子は、この者たちを捨て置け、と仰ったそうです。保護するという事を、王族でありながら失念するとは、どういう事でしょうな?」


 アレクライトとゼランローンズが、王に問い、王子を一瞥する。

 王と呼ばれた男は、40歳くらいの歳に見える。

 若くはないが、年老いてるわけでもない。あの王子の父親と言われたら、納得できる年齢の見てくれだ。


 王はため息を吐き、どういう事かと王子に問う。

 王子は、もう決めポーズなのかというほどのドヤ顔を作り、声高らかに答える。


「聖女がいれば、他の者など不要ではありませぬか! 魔物を抑制するわけでもない、ただの一般人など捨て置く事は、何も問題ありません!」


 楓がドン引きの顔を浮かべる。

 その横のシロをちらりと見れば、眉間にシワを寄せ、コメカミには青筋が浮いている。


「おい、人を勝手に攫っておいて、この言い草ブチかますなんて、どういう教育したら、こんなバカタレになるんだ? あぁ?!」


 ドスの効いた声で、シロが王様に怒鳴りつける。

 もちろんバカタレという時に、王子を指差すのも忘れない。

 指の指された王子は即座に言い返す。


「貴様! ワタシは王族だぞ! 不敬罪に値するぞ!」

「人拐いを敬う理由はねぇよ! バカか!」


 今までは、大きめの声など出さず、割と淡々と喋っていたはずのシロだったが、ただただ、怒りを溜めていただけだった。

 王は玉座のところから軽く頭を下げて、バカ息子がすまぬ、と言った。


「たけぇ所からすみませんって、謝る気ねぇだろ! 舐めてんのか! 王様だか何だかしらねぇけど、てめぇの息子が人拐いしたって状況、わかってんのか?!」


 楓やシロは、召喚という名の誘拐に、巻き込まれた被害者だ。

 勿論、聖女もそうではあるだろうが、初めて見た時の制服ではなく、可愛らしいドレスを纏って王子にピッタリくっついている。

 そんな彼女は、王子を責め立てるシロを睨んでいる。

 王は、人数が増えたので応接間の用意を、メイドの1人に言いつけ、他のメイドに案内を言いつける。


「一旦場所を整えるので、暫しお待ち頂きたい。準備ができ次第案内させる」


 そう言って王は、玉座の間を去っていった。

 シロは相変わらず青筋を立てたままだ。

 王子は、着飾った聖女の腰に手を回し、別室で待とうと甘く囁くと、聖女は頬を赤らめて微笑み、王子に寄り添って玉座の間を後にした。

 メイドが近くにやってきて、部屋の準備が終わるまで待っててもらう部屋に案内する、と言うので一同はメイドについていく。


「王の御前、失礼が過ぎますよ?」


 案内のメイドが、シロにチクリと嫌味を言う。

 シロはフッと息を吐き言葉を返す。


「てめぇのガキが悪さしたってのに、謝りにもこねぇで高い所から口先だけの謝罪をする奴に、嫌味のひとつ言って何が悪い。"王様"に会いにきた訳じゃなく、誘拐と遺棄を平気なツラして行う"クソガキの親"に文句言いに来たんだ」


 シロは堂々言い放つ。

 ゼランローンズが大きなため息を吐き零し、メイドに声を掛ける。


「口が過ぎるぞ、聖女共々保護されるべき方々だ。其れを放棄した王族こそ、苦言を呈されるべきだ」

「王への敬意は絶対です。身分を弁えるべきです」


 メイドも言い返す。

 ゼランローンズが怒りを滲ませた所で、アレクライトが声を掛ける。


「表面しか見えてない人を相手にしても、時間の無駄だ。双方の話を聞く気がない時点で、何を言っても結果は見えている」


 不穏な空気のまま、部屋に案内されメイドは一旦下がる。


「王様は絶対って感じですね……」


 楓は別世界に来た事を、じわりじわりと噛み締める。

 治まっていた震えが、再び浮かび出す。


 日本には王様は居なかった。

 王様を悪く言っても、咎められない。居ないのだから。


 日本であれば、国のトップである総理大臣が何かやらかせば、メディアが取り上げて、SNSには罵詈雑言の嵐になっている。

 この国でそんな事したら、不敬罪とやらになるのだろう。


「大丈夫ですよ、何があっても守りますから」


 アレクライトは、楓に向かって優しく微笑み、手を取り包み込む。そんなストレートに優しくされる事に慣れてない楓は、頬だけでなく耳まで赤くなるのを感じる。


「あ、あ、ありがと……ございます……」


 (ども)りながら、そう答えを返すのが精一杯だ。

 誠実なイケメンに「守ります」なんて、日本では言われた事がない。むしろ生きてきた史上、初な事だ。

 いろんな事で混乱しているのだから、これ以上はお腹いっぱい、と思いながらも、もたらされた甘い台詞を胸の奥で噛み締める。


 その様子を少し離れていた所から、ゼランローンズとシロが見守る様に見つめる。


「可愛らしいなぁ……くくっ」

「アレクがあの様な甘いセリフを吐くとは……」


 甘い空気を纏ってる2人に聞こえない声量で、呟き笑う。

 その甘い空気とは全く異なる空気が、扉から刺した。

 先程のメイドが扉を叩き、声を掛ける。


「王がお待ちです。ご案内致します」


 メイドは、シロを射殺さんばかりに睨み付けている。

 だが、シロはそのような殺気を含む視線を、まるっと無視してる。

 ゼランローンズの眉間にシワがよるが、シロが何も言わないので口を噤む。

 応接間に入り、案内し終わったのでメイドは退出した。

扉が閉まるまでずっと、シロを睨み続けていた。


「正面から喧嘩売ってくれなきゃ、買わないよ?」


 シロの呟きは、閉まるドアの音と共に消えた。

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