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いざ、敵陣へ


 少し開けたところには、小さな湖があり、馬に水を飲ませて休ませてやれる場所となっていた。

 雪もその一帯だけ積もっておらず、優しい陽だまりが溢れてる。

 ここには魔物が寄ってこない、人間にとって聖域と呼ばれるエリアらしい。

 魔物の討伐や素材の採取などで、森に入る事が無ければ、知らないエリアだ。


 楓はずっと力を入れて、しがみ付いていたから、変に体が凝り固まってしまって痛い。

 膝を曲げ伸ばししたり、軽く足を揉んだりして、痛みをやり過ごす。

 シロも同じだったようで、ストレッチを念入りに行なっている。


「慣れない事の連続になってしまって……」

「謝るなっての!」


 シロはアレクライトの謝罪を一蹴する。もう何度目かわからない。


「いい加減、そのやりとりにも飽きてきた、謝るな!」


 シロは更に言葉を繰り返す。オマケの文句も入れて。

 水筒のジンジャーティーをくぴりと1口飲んで、ほっと一息吐いた楓も、頷き同意する。


 ゼランローンズとアレクライトは、馬に強壮剤を与え、もう一踏ん張り頼む、と愛馬を撫でた。

 馬も任せて! と言わんばかりに(いなな)き、鼻息を荒く吐いていた。


 聖域は、中間地点くらいに位置しているとのこと。

 此処からは王都側なので、騎士団による魔物の討伐も行われているので、比較的魔物は少ないそうだ。

 危険度の高いエリアを危なげなく抜けれたので、あと少しだという。


「王都でボンクラと、鉢合わせするかも知れんな……」


 ゼランローンズの呟きを、アレクライトは拾って頷く。


 恐らく王子と聖女は、馬を変えながら安全な道を、休みなく進んでいる可能性が高いそうだ。

 馬車は王子が使うものなので、超高級品。座面にはフカフカのクッション、寝転がれるスペースもあり、揺れも最小限に抑える事が出来、魔導具を搭載し温度管理もバッチリ。


 疲れるのは御者と馬、そして王子の馬車に追従しないとならない、その他のお付きの面々たちだけ、だそうだ。


 森の中を突っ切れるのは、森に詳しく魔物の対処が出来る者くらいなので、王子と魔術士たちでは不可能だという。王族の警護をする近衛騎士は、対人剣術しか会得していないため、魔物への対処は厳しい。

 シロが蹴り倒した近衛たちでさえ、森を抜ける事は無理だという。


 ちなみに蹴り倒した人たちは、寒さが和らいでる神殿内部にいたので、目が覚め次第、適当に帰還するだろうとの事。


 アレクライトたち第一騎士団が、魔物の対処にあたる部隊。

 第二騎士団は街中の警邏。いわゆる、警察的な役割。

 第三騎士団は国境の警護。


 優劣は無く、其々に役割がある。

はずだが、近衛の連中は、他の騎士団を見下してる。

 王族の警護をするにあたって、失礼が無いよう貴族たちから選抜される。それを自分たちは"選ばれし者"と(おご)り、平民がいる他の部隊は、見下し対象になっているという。


 日本社会にいた中で、そういった法で分かれている身分制度は未経験なので、馴染みがないが、気分的に学生時代のスクールカーストみたいな雰囲気だろうかと、楓は眉間にシワを寄せる。

 カースト上位の、自称イケてるグループの連中は、自分が何をしても赦されると思い込んで、傲慢な振る舞いを多々行っていた。

 もし貴族社会も似たようなものだったら、かなり面倒だなと思った。


 シロにスクールカーストを訊いてみたところ、やはりあったらしい。

 孤児だったシロはイジメの対象になっていたそうだが、施設での虐待の方が酷いのと、シロが他人に興味を持つ事が少なすぎるが故の、無反応すぎる態度に、イジメ甲斐のない奴認定されて、すぐイジメは飽きて終わったらしい。


 どのくらい興味がないのかというと、シロは学生時代のクラスメイト、担任などの名前と顔を、全て忘れてしまったそうだ。


 重たい話をサラッと流せるあたり、シロはオトナなのだろう。と楓は感心したが、実際は、本当に他人に興味がなく、過去に飛んできた蚊、くらいの記憶でしかなく、まったく気にする価値もないものというだけだった。


 他愛無い会話で休憩した後、一行は再出発した。


 太陽はすっかり眠り、ふたつの月が目覚めて、夜道を照らし出す。

 その頃、王都を囲む高い城壁に一行は辿り着いた。

 そこで、シロはウィッグを被る。召喚された時に被っていたものだ。変装というよりは、元の姿に戻した状態だ。


 王子や聖女が覚えているかはわからないが、茶髪のウィッグ姿が、召喚時の頭髪だ。

 今の異世界に馴染んでるカラーリングでは、巻き込まれた人として認定されないかもしれない、と姿を戻していた。


 1日使い切りタイプの三白眼カラーコンタクトも、リュックサックに入っていたので、ポケットに1セット入れておいた。

 急に客先訪問が入った時は、三白眼コンタクトをつけて訪問するので、常に予備を持ち歩いていた。

 シロはコンタクトレンズ装着時、鏡を使わないので、城壁で身支度を手早く済ませる。

 コンタクトレンズはこの世界にないらしく、眼球に直接透明な膜を貼り付ける行為に、アレクライトとゼランローンズは目を見開いて驚いていた。


 楓はコンタクトレンズ愛用者なので見慣れた光景だ。

 だが、彼女はコンタクトレンズの予備は無く、眼鏡を掛けている。

 視力の悪い人は眼鏡をしているのは、この世界も一緒なので見慣れないアイテムではない、との事で安心して視界の良い状態で、挑めそうだ。


 城壁門にいる馴染みの人に、アレクライトが声をかける。


「お疲れ様、変わりはないですか?」

「アレクライト第1隊長! お疲れ様です! 異常ありません。日の入りくらいにボ……王子が聖女を連れて戻ってきた、と東門を通ったそうです」

「そうか、わかった」


 門をくぐり、王城を目指す。

王城付近の騎士の詰所にいた、下働きの人に馬を任せて、城門をくぐる。

 騎士団の隊長、副隊長というだけあって、顔パスだ。


 長い廊下を歩き、豪華で大きな扉の前に立つ兵士に声を掛けると、王は中にいて、王子と聖女が謁見してるというので、ちょうど良かった。とアレクライトは息をひとつ吐き出した。

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