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乗馬初体験(ハードモード)


 水筒は金属とプラスチックで、できているものだ。飲み物が入ってる筒部分は金属だから違和感がなさそうだが、蓋のプラスチックは、この世界には無いので隠せるようにしようと、休憩所の村で買って貰った布で、水筒ケースを作り、ふたを隠し、かつ携帯できるように針を動かす。


 裁縫道具は、シロのリュックに入ってたものだ。


「シロ……裁縫もできるなんて、万能すぎじゃ無い?」


 喧嘩も強い、マッサージも出来る、整頓力高い、裁縫バッチリ。

 出来ない事はない、と言わんばかりに、さまざまな特技を披露して行く。


「ん? 出来ない事沢山あるぞ? ……媚を売るとか、おべっか使うとか、空気を読むとか……上司を立てるとか……」


 処世術の類いは一切ダメらしい。

 人の手柄を奪い、ミスを押し付けてくる奴には、正面切って喧嘩する。お世辞が言えないので、何度も仕事で喧嘩も起きた。

 アレクライトは苦笑しながら、どこの世界も同じだ、と眉を下げる。


 シロだったら、納期を勝手に早めてデスマを生んだあの営業に、臆することなく立ち向かえただろうなぁと、過ぎ去った日の憎らしき記憶を、楓は掘り起こして、再び埋めた。


 予定通り次の町に着き、荷物を運搬屋に持って行き、配送の手配をした。

 そして、馬で最短ルートを使い王都を目指す。


「馬……デカくない?」


 楓がつい、言葉を漏らす。


 映画やドラマで見た事あるものより、明らかに大きい。

 見た事があるその場面は、馬1頭だけがいる訳ではなく、俳優が一緒にいたので、人間と馬の対比がわかるよう映ってるもの。その大きさより、どう見ても大きい。


 その大きい馬より、更にゼランローンズの愛馬は大きい。馬という名をもつ、別の種族にしか感じない。

 2人乗りをして、少し長めに走っても平気な、パワフルな馬だと言う。


「言われてみればデカイな……」


 シロも同意したが、朝の移動時は御者台にいたのに、全く気にしていなかったらしい。

 2人乗り用の鞍を着け、主が先に乗り、後ろに楓やシロが乗るらしい。

 通常の馬なら、後ろに乗る人に負担がかかってしまうが、この馬は、とても快適に走るらしく問題ない、と言われる。が、そもそも、馬の後ろか前かでの負担の度合いなど、知らなかったのでそう言われたところで、あまりよくわからない。


 楓の着ているスカートは、くるりと回ると、円形状に広がるフレアスカートなので、乗馬も問題ないらしい。防寒装備をバッチリ行った楓は、初めての乗馬に意気込むが、そもそも、乗れる高さではない事に気付いた。


 ゼランローンズが楓の後ろに立ち、失礼、と声を掛けて、脇の下に手を入れて持ち上げる。

 彼が腕を目一杯伸ばしたところで、馬に乗っていたアレクライトは体をひねり、楓を抱きとめて、後ろに乗せた。


この歳で、小さい子ををあやす時に行う"たかい、たか〜い"を、経験するとは思っていなかった。

 ゼランローンズが腕を目一杯伸ばすと、とんでもない高さになるので、すこし涙目になり、イケメンに抱きしめられて、心臓が超特急で動く。行く前から疲れそうだった。


 自分は馬に乗せて貰ったが、そうなるとシロはどうするのだろうかと、ゼランローンズたちの方を、楓は伺い見る。


 ゼランローンズは問題なく乗り込む。

 シロは(あぶみ)を片方借りて、足をかけ、ゼランローンズに手を伸ばし、彼はシロの手を掴み引き上げる。その勢いに乗じて後ろに座った。そして鐙から足を離し、彼へ返す。


「え、何で?」


 お互い初めての乗馬のはずなのに、乗るだけで差が出ている事に楓は混乱する。

 そもそも事前に言われたって、シロのような乗り方は、楓には無理だ。


「わたしは現場で高いところに上がったりするから、登るだけなら慣れてるんだよ」


 シロの現場とは、どんなところなのだろうか、異業種については想像するしかできない。

 というか、元々の身体スペックが違ってる。もうシロが万能すぎて、彼女はそういうもんだと、楓は思い込む事にした。


 そして、ゼランローンズたちが先行して、進んでいく。

 彼と彼の馬が持つ気迫は、魔物の多くに威圧感を与え怯ませ、魔物たちは逃げていく。

 その中でも、怯まず向かってくる魔物を、アレクライトが雷の魔法で気絶させて、魔物による脅威を取り払っていく。


 楓はアレクライトにピッタリしがみついているので、魔物が見えていない。

 乗馬のために眼鏡も外して、コートのポケットに入っているから、たとえ魔物だと言われても、色がついたぼやけた何か、にしか見えない。


 ゼランローンズは進行方向・位置に神経を尖らせてるので、向かってくる魔物に対しては、シロがアレクライトに伝えてる。

 進行方向を12時として、2時から4時方向、8時から10時方向を警戒している。これがゼランローンズの後ろにいるシロが伝えれる、精一杯の範囲だ。

 ここにいる異世界人は、実は楓のみなのでは? というくらい、シロが馴染んでる。


「シロ、大事ないか?」


 ゼランローンズは後ろを見る余裕は無いので、背中越しにいる女性の様子はわからない。

 自分の胴に回されてる手に篭ってる力は、僅かなもので、添えているに等しい。

 そこらの一般的な馬より乗り心地がいいとはいえ、初めて馬に乗るにもかかわらず、アレクライトのサポートにまで回ってる。


 なので、せめて時折声を掛けて様子を知りたい。そんな思いから、度々ゼランローンズは声を上げる。

 そんな彼の胴に、ポンポンと軽く叩いて、シロは返事をする。


「もう少ししたら、開ける場所に出るから一旦休憩だ!」


 ポンポンと、手による返事が来る。

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