急がば回れ? 善は急げ?
アレクライトとゼランローンズが、行程の打ち合わせをする中、楓とシロはのんびりお茶を飲んで待っている。
「そういえば、ここって南半球なのかしら。南に行く方が寒いってアレクライトさんが言ってたんだけど……」
「いんや、影が時計回りに回ってるし、日の出は東で、正午は南に太陽がきてるそうだから、北半球っぽいよ? 方角はクマ兄さんに訊いた」
北が暖かいのは精霊の加護だと、この国の人は信じてるようだ。精霊は見えないらしいので、ロマンある話だ。
地球だったら地形や海流、風の割出しで、科学的に証明されてたかもしれない。ちょっとロマンに欠ける。
やはり、精霊のお陰にしておく方がいいな、と2人で笑い合う。
男たちの打ち合わせが終わったようで、楓とシロの方へ向き直る。
「この後の行程は、次の町に着いたら、馬車を変えて、疲れを溜めない様に休憩を入れながら、王都へ向かう。もしくは、荷物はゼラの家に送る手配をして、馬で王都まで一気に向かうか、の2択になりますね」
「両極端な2択を迫られてるのは、気のせいかしら……」
楓がやんわりツッコミを入れる。
ゆっくりで疲れにくいか、早く着くかという選択のようだ。
シロは、顎を抱える様に手を当て考える。
「情報が不足してます。日程の差と負担の度合い。前者と後者で発生する・しない事柄。それらまで伝えてから、選択を迫ってもらわないと」
シロは仕事柄、常に危険を予測して、対策を取る事を、仕事前に行う業界にいた。
注意力散漫になっていると、しなくてもいい怪我をしてしまう。危険性を考える事を行う事で、口に出す事で、注意力が深まる。
その為、何かの選択における詳細の確認は、気がつけばしてしまっている。もはや職業病と言える慎重さだ。
「すまない、詳細の説明もせず選択させようとしてしまったな……」
ゼランローンズが、詳しく説明してくれる。
「前者の場合、魔物の遭遇がほぼ無い街道を、馬車で移動する予定なので、馬と人間の休憩を取りながら、王都までの道中にある、いくつかの町に立ち寄りながら、2〜3日の日程で、王都を目指すものになる」
街道は安全だが、道はまっすぐではなく、弧を描くというより、"つ"の字、のような道になっているらしい。
魔物を避ける、迂回路といった感じのようだ。
そして、日にちをかけるので、途中悪天候が発生すれば、足止めを食らう可能性もある。
後者はアレクライト、ゼランローンズの持ち馬(現在馬車を引いている馬)に、強壮剤を与え、街道を無視して、直線的に王都まで行くもの。
馬のみで駆けるため、荷物を運ぶ余裕はない。
王都で手続きをした後、ゼランローンズの家で聖女の記録をみるのだから、荷物は運搬屋を使い、彼の家に宅配してしまおう、ということらしい。
"つ"の字を辿るのではなく、真ん中で突っ切って行く。そこは森で、魔物が出る。
勿論、魔物は最大限避けて行くつもりではあるが、やむを得ず戦闘になる危険性もある。
そして、馬に2人乗りを行うので、慣れてないだろうから、疲れ方は馬車の比ではない事。
今日は天気が安定していそうなので、次の町で荷を預け馬で駆ければ、日は沈んではしまうが、夜遅くよりは前に(おそらく20時ごろ)王都へ着く。
だが、街道でも魔物が出るかもしれない。
馬車に乗っていて、めちゃくちゃ痛くなった尻の事を考えても、どちらにせよ、快適性が高いとは言えない。
宿を使って休む分、馬車の方が、快適ポイントが少し高い。
徒歩よりは断然早いが、進む時間が長ければ天候に左右されて、到着が遅れるかもしれない。などと予想されるものが色々出てくる。
馬車の旅は安全性重視、馬の旅は速度重視、と理解した。
詳細を聞いても楓は、一長一短に感じて決めにくいと、首を傾げる。そして、申し訳ないが判断をシロに委ねたい、伝える。
シロは頷いて、男たちを射抜くように見つめて、言葉を出す。
「わたしは、さっさと、殴りに行きたい」
本当ならば、道中の魔物の危険性とかも、考えなければならないだろうが、森を突っ切る最短ルートの"提案をできる"のだ。2人にとって森は脅威ではない、という事だ。
危険度はどちらも変わらないと判断し、速度重視をシロは選んだ。
一行は移動を再開する。
次の町の到着は馬車で30分位のようで、シロはカートを広げ、リュックから荷物を取り出して並べる。
「敵陣に素手で乗り込むのは心許ないから、この600のモンキー1本持っていこう。水筒は、さっきの喫茶店で、あったかドリンクを入れてもらったから、クロに」
ブツブツ言葉をこぼしながら、まだ着ていない新品の服でパッケージングされた物を解体して、スペースを作る。プラスチックごみになりそうなものは、カートにあるポケットに嵩張らないように揃えて入れる。
そして出来たスペースには、リュックに入ってた工具を入れる。
持っていた工具でキャスターと、持ち手部分を分解して、カートの中に入れる。そうすると、アンティークトランクのような見た目になった。
ビスどめしていたから、キャスターがあった部分に、穴があるのは仕方がないが、誰も気にしないだろう。
革張りの鞄は、こちらの世界でも、違和感がないものらしく、宅配に預けても違和感が無くなるそうだ。
リュックの中身も、すべてカートに詰め込む作業をしている。
四角いブロックを並べるパズルゲームのように、隙間なくピッタリ詰めて行き、カートの半分側が埋まる。
残りの半分はシロの作業着、安全靴、楓のスーツ、パンプス、通勤鞄を入れる。
楓は、シロから温かい飲み物が入った、魔法瓶の水筒を受け取る。寒さに弱いのでありがたく受け取り、抱きしめた。




