体は動かさなきゃかたまる。
御者台には、シロとゼランローンズがいるはずで「返す」という言葉から、シロがマントを返したと思われる。
「暑いんだよ、コートがあるから充分だ、ずっと外にいる人が、防寒しないでどうする」
「この寒さなのだ、体を冷やしてしまっては良くなかろう!」
「その言葉そのまま返すぞ。寒いって言ってもこのくらい、寒いうちに入らないし、あの雲を見る感じだと、もうすぐ雲が覆うから、少し暖かくなる。御者台で風を浴びてると冷えるだろう。だから、そっちが防寒してくれよ、わたしは馬を捌けないんだし」
――シロちゃん……お日様見えなくなるのに暖かい、ってちょっと何言ってるかわからない。
原理や理論はわかるのよ?
けれど、雪が降るほど寒い時点で、アウトだと思うのよ!
「クロ嬢? どうされました?」
何とも言えない表情を浮かべてる楓に、アレクライトが声をかけてくれる。
「ちょっと、シロが何言ってるか、理解できてるけど、出来てなくて……」
「シロさんは我々より、雪に慣れてるようだ。私は西部の出身で、根雪は王都にきてから体験しました。西の冬は少し寒くなるくらいで、南部である王都より北側にあり、暖かめなんですよ」
この場所は南半球なのかな? 北が暖かくて南側寒いって事は、そういうことかなのだろうかと、頭の中に地球儀を思い浮かべる。
日本に住んでたから、北=寒いと自然に思っていた楓は、少しビックリした。
「王都は、もっと暖かい場所にあるものだと思いました」
おそらく映像化する機械や魔導具がないから、衛星も無いだろう「この場所が南半球か」と言うよりも、自然な言葉を返した。
「北の暖かい地は、実りが豊かなので、王都として豊かな地を使うより、作物を作る方がいいだろう、と初代聖女が、王城を更地にしました」
「……はい?」
「ちょっと順番が違いますが、公式記録にはそう記されています。そして聖女の書いた日記には——」
『今日も日記を書くあたし、偉い。文字の練習大事よね。いまだに"スマホ"使って日記つけたい。"スマホ"の辞書にここの文字ないけど。"ゴーグルケンサク"使いたいー、ってか"ゴグれば"何とかなりそうよね、気持ち的に。
"ブログ"よりも"ツブヤイッター"か"オンスタ"の方が楽だよね。"オンスタバエスポット"沢山あるのになー。
さて、今日の出来事。
ヤバイヤバイ、魔力が暴走してお城を壊してしまった。
こりゃ"ピエン"ものだわ。聖女じゃ無かったら犯罪者扱い受けそう。
まぁ、お城といってもまだ建築途中で"タイイクカン"くらいの大きさしか無かったから、問題ないよね。
建築材無駄にしてしまったのはマジでごめん。反省してる。
温暖な地は畑にした方がいい。南の方が寒いらしいからそっちを王都にしとけばいい、王都って名前だけで人が勝手に集まるんだから。うんうん』
「——と書いてありました。彼女は、此方の文字でも日記を書いていたので、そちらは私どもでも読めます。ただ、意味がわからない箇所がいくつかはありましたが」
聖女が何だか、破天荒過ぎる。
物語の聖女は神殿で祈る、お淑やかな女性であるのが、王道では無かろうか。
「初代聖女『アヤネ・イスルギ』は、様々な改革を行ったそうです」
――やっぱり日本人だわ。……その日記の感じからして、私のいた時代とそんなに変わりない……ツブヤイッターやオンスタを知ってるぽいし。……2500年前くらいに、現代の人が……?
地球の時間と、ここの時間はリンクしてるわけでは無いようだ。
もしかしたら、過去の聖女は、とんでもない未来から来てる可能性もある。と、楓は思う。
――どういう原理とか考えても、わかるわけがない。聖女の記録見せてもらって、身の振り方決めようかな……先人に倣うって、悪い事でもないだろうし。
これからの事を考えだす。それらを伝えるとアレクライトは、にこりと笑って了承してくれた。
——眩しい笑顔は眼福だわ……でも遠くから見てるだけで十分よ……。
2時間くらい走ると、小さめの村へ着く。馬の休憩所を兼ねた休憩をするのに最適な村で、旅人にとって中継地のような役割の村だそうだ。
シロはあれからずっと外にいて、ゼランローンズと駄弁っていたようだ。
厩舎番に馬の休憩所利用代金を払い、馬はそこで果物を食べたりして休憩する。
その間、人間は喫茶店で軽食を食べ、暖かいものを飲んで休憩する。
凝り固まった体を伸ばして、暖かい飲み物を飲み、一休みだ。
「馬車ってこんな風になるのね…」
楓はぐったりしながら、ふかふかのソファで尻を休める。
村という規模から、喫茶店も簡素なものかと思っていたが、村のメイン事業が"休憩所"なので、その手の施設に力を入れているようだ。
とてもリラックス出来る作りになっていた。
他に利用客は居ない。
昨日は何だか仰々しい一団が来たらしい。思い当たる人はいるものの、みな敢えて口には出さなかった。
アレクライトはクッションが売ってないか、雑貨屋へ足を運んだ。
ゼランローンズは、冷えて凝り固まった体をほぐすのに体を動かしてる。彼と一緒に外に居たはずのシロは、とても元気だ。
「あぁ、クマ兄さんや。さっき言ってた、マッサージしよか?」
「む? ほんとにいいのか?」
シロはゼランローンズへ声をかける。
名前を覚える気がないのか、見たまんまを呼ぶ方が楽なのか、親しみを込めたあだ名なのか……判別がつかない。
そしてそれを受け入れている、彼もまたすごい。駄弁ってた間に、2人はまた一歩、親しくなってたようだ。
そう思いながら楓は、ミルクティーをちびちび飲んでいた。
寝転がれるスペースがあるので、体を横たえる人もおそらくいるのだろう、そこでマッサージを行ないだした。




