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6  筋金入りのサボり魔生徒

 まず初回はオリエンテーションだけで終わり、そろそろ一時間目が始まるため皆はそれぞれの受講科目の場所へと向かっていった。


 皆を見送ったディアナは教材をまとめ、教室に鍵を掛けた。


(エルヴィン・シュナイト君を探さないと)


 先ほどルッツがエルヴィンについて、昼寝をしていると言っていた。ということは、校内のどこか人気のない場所で時間潰しをしている可能性が高い。


(といっても、まだ校内のことなんてよく分からないのに……)


 次に生徒たちと会うのは三時間目の魔法実技だから、それまでに探し出して教室まで連れて行けたら御の字だ。そうでなくても、彼がかたくなに授業をサボろうとする理由だけでも聞ければいい。


 そう思いながら廊下を歩いていると、ちょうど医務室の前で女子生徒を見送っているフェルディナントの姿が見えた。


「アルノルト先生」

「……おや、イステル先生。補講時間一回目の手応えはどうだったかな?」

「早速いろいろ起きましたし、一人生徒がいなくて」

「ああ、エルヴィン・シュナイト君のことだね」


 白衣のポケットに手を突っ込んだフェルディナントは苦笑して、「彼を探すのかい?」と聞いてきた。


「予想しているかもしれないけれど、彼の授業嫌いは筋金入りだよ」

「その、筋金入りになる理由は分からないのですよね?」


 ディアナが問うと、フェルディナントはかすかに目を見開いた。


(……きっと先生方は誰も、シュナイト君が欠席する理由を知らない。……聞こうともしていない)


 ならば、まずディアナがするべきなのは――エルヴィン・シュナイトを見つけて、話を聞くことだ。


「……私、彼を探してきます」

「……そっか、頑張って。……今日みたいな天気のいい日はバルコニーとかで過ごすのが気持ちいいかもしれないね」


 フェルディナントはそれだけ言うと背を向けて、医務室に入っていった。










 フェルディナントの助言を受けたディアナは階段を上がり、教室棟にあるバルコニーを見て回った。


(……普通に考えて、休憩時間に生徒たちが談笑するような場所でサボらないわよね。となると、日当たりはいいけれど狭い隠れスポットとか……)


 そう思いながら、四階建ての校舎にあるバルコニーを順に見て――


(あ、あの人かも!)


 あまり運動をしないため足がガクガクしてきた頃、ディアナは小さめのベランダで寝転がる人物を発見した。


「失礼。あなた、エルヴィン・シュナイト君でしょうか?」

「……ん、誰?」


 呼びかけると、その人はごろんと寝返りを打ってディアナを見てきた。


 リュディガーたちとおそろいの男子制服姿で、赤金色の髪は寝ていたからか元々なのか少し毛先がはねている。薄茶色の目は眠そうでどことなくけだるげな雰囲気だが、リュディガーとは全く別の方向での美男子だった。

 きっと優しく微笑めば王子様系のイケメンになり、女子生徒たちを虜にできるだろう。


 ディアナはそんな彼の脇にしゃがんだ。


「私は一年補講クラスの担任になった、ディアナ・イステルです」

「……そう、ですか。どうも」

「ええ、どうも。……さっきの補講時間にあなたの姿がなかったので、探しに来ました」

「そうですか、それはご苦労様です。じゃ、さよなら」

「お待ちなさい」


 言いながら背中を向けようとするエルヴィンに、ディアナは根気強く声を掛ける。


「あなた、前期の授業もほぼ全て欠席でしょう。試験も受けていないようですし……その理由を伺っても?」

「……。……理由、ね」


 エルヴィンは仰向けになると、ディアナを見上げる格好で面倒くさそうにため息をついた。


「……単純です。俺、進級する気ないんです」

「ないのですか? せっかく入学したのに?」

「俺の意思で入学したんじゃないです。だから、このままサボり続けて退学処分を受けるつもりなんですよ」


(……なるほど。スートニエ(ここ)に来たくて来たわけではないのね……)


 それは確かに、サボってさっさと退学処分を受けたいと思う気持ちも分かる。


「……理由は分かりました」

「えっ、分かったのか?」

「だってそれがあなたの本心でしょう? サボるのはこちらとしては困りますけど、あなたがなぜサボったのかの理由が分かっただけでも、ここまで探しに来たことの意味はあったと思います」


 なぜか驚いた様子で少し目を丸くしたエルヴィンに言うと、彼はまた半眼になった。


「……そうですか。……それじゃあ、あんたが収穫を得られるのはここまでですね」

「……シュナイト君?」

「もう、これからは俺を探さなくていいですから。俺一人を探す時間を、他のやつらのためにあててあげてください。そっちの方が、皆も喜ぶでしょうし」

「そんなことは……」

「いいですよ、遠慮しなくて。……確か同じクラスに、ヴィンデルバンド侯爵家の令嬢もいましたよね。彼女なら、サボり魔なんかよりも自分を鍛えてくれって言いそうじゃないですか?」


 まさにその通りだが努めて顔色に出さないようにしたが、ディアナの心境なんて容易にお察しらしいエルヴィンは薄く微笑んで体を起こした。


「そういうことで、俺はこれからもサボりを続けます。せめて、あんたたちの邪魔だけはしないようにするんで」

「でも……」

「じゃ、ごきげんよう、先生」


 立ち上がったエルヴィンはそう言うと、ディアナの横を通ってバルコニーから出て行ってしまった。

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