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20 サボり魔王の実力②

 教師の声と共に、彼が頭上に掲げた魔法剣からぱっと火花が立ち上った。

 それを合図に、あちこちで練習試合が始まる。ある者はすぐさま攻撃を仕掛け、ある者は相手の攻撃を受け止めるつもりで剣を構える。


 エルヴィンの対戦相手は、すぐに動いた。先ほどエルヴィンに言い返されたのも癪だったのかもしれない。


「失せろっ、落ちこぼれクラスがぁっ!」


 うなり声と共に、彼の剣が白い雷光を纏う。目もくらむようなその雷の量から、彼は体格がいいだけでなく相当な魔力を持っているのだと分かる。


 魔法にも相性があり、風で吹き飛ばせる火や氷はともかく、雷は風では防ぎにくい。

 だが、エルヴィンは落ち着いた様子で自分の剣に柔らかい風の魔法を纏わせると剣先を地面に向け、ぽんっと軽く飛び上がった。雷を纏った剣があっさりかわされ、男子生徒が怒鳴り声を上げている。


「てめぇ! 男なら逃げるんじゃなくて受け止めてみせろ!」

「いや、戦い方に男も女もないだろう。戦場では……強くて賢い者が勝つんだ」

「この野郎……!」


 当てこすられたと分かったのか相手はますますカチンときたようで、剣を構えて突進する。


 エルヴィンはまたかわそうとしたのか、剣を地面に向けて――


「……っ!?」

「シュナイト君!」


 なぜか宙に飛ばず、真正面から雷の剣を受け止めた。

 バチバチッと雷と風がぶつかり、はじける。


 だが彼はすぐに身をよじらせると、するりと通り過ぎるように横に身を滑らせ、剣先からすさまじい威力の風の刃を放った。

 土埃が舞って男子生徒は慌てて魔法剣を構えるが、バチッと弾けた白い光にかすかに目を細めた。


「ちっ……!」

「雷魔法は強力な分、音や閃光で術者本人の行動が阻まれることもある。……残念だったな」


 相手がためらった一瞬の隙を突き、エルヴィンは風の出力を調節すると男子生徒を吹き飛ばした。

 悲鳴を上げた男子生徒の手から魔法剣がすっぽ抜け、エルヴィンの足下に落ちる。


(……すごい、勝った……!)


「シュナイト君! おめでとう!」


 ディアナが叫ぶと、対戦相手の剣を拾って渡していたエルヴィンが振り返り、軽く手を上げて応えてくれた。










 結局、この時間の練習で相手に勝ったのはエルヴィン、リュディガー、ツェツィーリエ、レーネの四人で、ルッツとエーリカは負けてしまった。


 だが挨拶の後でディアナのもとに駆け寄ってきた六人は皆、すっきりした表情だった。


「先生、わたくしの戦いぶりを見ましたか?」

「先生、先生! 私、勝てましたよ!」

「ま、オレにとっちゃ楽勝だったな」

「僕は、負けたけど……でも、最後まで逃げずに参加できたのは初めてです」

「あたしも負けちゃったけど、今までで一番粘ることができたわ。それに相手の子も、『エーリカがここまでやるとは思わなかった』って言っていたのよ」

「皆……本当によく頑張りました」


 順に顔を見て褒めると、少し離れたところに立っていたエルヴィンの姿が目に入った。ディアナと目が合うと、彼は少し気まずそうに視線を逸らす。


(……彼だけは私の補講を受けたわけじゃないから、近づくのはちょっと遠慮してしまうかもね……)


 だが。


「シュナイト君も、来てください」

「……だが、先生。俺は……」

「ちょっと、なに格好付けてるのよ」

「そうよ。あなた、あの口の悪い男を吹っ飛ばしてくれたでしょう? わたくし、それを見てとてもすっきりしましたの!」

「えっと……いいんじゃないかな、こっちに来ても。君が補講クラスとして試合に勝ったのは事実だし」

「そうよ、ねぇリュディガー?」

「そうそう。ほら、先生も待ってるだろ?」


 皆に言われたエルヴィンはまだ少し迷っていた様子だったが、やがておずおずと近づいてきた。


「先生、その……勝ちました」

「ええ、見ていましたよ。……あなたは一度、相手の攻撃をかわすのをやめましたよね? あれは……背後にいた別の生徒を守るためだったのでしょう?」


 ディアナが指摘すると、エルヴィンは目を丸くした。そしてそっぽを向き、「べつに」とぼやく。


「ただ、他人を巻き添えにするのが嫌だっただけで……守るなんてものじゃない」

「おまえ、本当に素直じゃないよなぁー」

「うっさいな」


 またしてもエルヴィンとリュディガーが頭を小突き合い、周りの皆も笑顔でそれを見守っていた。


(……きっと、うまくいく)


 十二月半ばに控える、冬のグループ試験。

 この六人ならきっと、乗り越えていける。











 ディアナを中心に、補講クラスの生徒たちが集まっている。

 その様子を、フェルディナントは少し離れたところで見ていた。


「……」

「あっ、アルノルト先生。私たち、これから負傷者の手当をするので、見ていてくれませんか?」


 考え事をしていたら、聖属性の生徒たちに声を掛けられた。


「ん? ああ、そうだね。行こうか」


 フェルディナントはそれまで浮かべていた難しい表情を引っ込めると、微笑んだ。

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