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10 教育相談≒お茶会①

 前世に勤めていた中学校では、定期的に教育相談を行っていた。

 もちろん、多感な時期にある中学生が素直に悩みを相談するわけでもなく、問題の早期発見に必ずつながるとは限らない。


 だが、ここで重要なのは教師と生徒の間につながりを持っておくこと。

 生徒から話すことがないからといって教育相談そのものをカットしたりせず、一対一で向き合う時間を確保するように、と当時の指導教員から言われていた。


 ということで。


「……どうしてわたくしが、あなたとお茶をしなければならないのですか?」

「まあ、そう言わずに」


 今、ディアナは校舎三階にあるバルコニーにてお茶会を開いていた。招待客は、不服そうな顔のツェツィーリエのみ。


 ディアナがフェルディナントに提案したのは、生徒たち一人一人とゆっくり話す時間をもうけること。

 だが「教育相談」という単語の意味はいまいちピンとこなかったようで、フェルディナントからは「生徒とのお茶会という名目にすれば、礼法の授業にもなるので学校から許可が下りる」とアドバイスしてもらった。


 そういうことで放課後のバルコニーを堂々と貸し切り、お茶会を開くことにしたのだった。

 お茶を飲むと言うことならば、一番気難しいツェツィーリエも貴族令嬢として断れないだろう、ということも読んでいる。


 招待されたツェツィーリエはずっとむっつりとしているが、ディアナが選んだお気に入りの茶葉で茶を淹れると、さっと目の色を変えた。


「……まあ、これはランベル産の茶葉! あなた、いい趣味をしていますのね」

「ありがとうございます。……これにちょっとだけミルクを入れるのがおいしいんですよね」

「まあ! その飲み方を知っているだなんて、あなた結構……」


 ついはしゃぎすぎたと気づいたのか、ツェツィーリエは頬を赤く染めて黙ってしまった。だが、ディアナが「ミルクはいかが?」と問うと、黙って頷いた。


 季節は秋で、日が沈むまでならばバルコニーで快適に過ごせる。

 淹れたばかりの紅茶は温かくて、ほんの少しミルクを垂らしたそれを飲むと思わずほうっとため息が漏れてしまった。


「おいし……」

「……先生、顔がだらしなく緩んでいますよ」

「あら、ごめんなさい。でも、おいしいものを味わうとつい、顔全体でおいしいと言いたくなってしまうのですよ」

「……変な人」


 ツェツィーリエの言葉は容赦ないが、それでも口調は穏やかだった。


 彼女はディアナよりずっと洗練された所作で茶を一口飲むと、「それで?」と問うてきた。


「今日はわざわざわたくしを呼び出して、何のご用でして?」

「そうですね……特に何かを話したいわけではないですね」

「え? ないのに呼んだのですか?」

「ええ。ただ、こうしてヴィンデルバンドさんと一対一でゆっくり話す機会がほしいな、と思ったので。あなたが何か喋りたいことや相談したいこととかがあるのなら、聞きたいなと思いまして」

「……。……わたくしだけと?」

「ええ。あ、もちろんこの後で他の五人とも同じようにお茶会をしますから」

「……。……そう」


 ツェツィーリエ一人に問題があるわけではない、という意味を込めて言ったのだが、逆に少しだけ残念そうな顔をされた。


「……冬のグループ試験、だんだん近づいてきましたね」

「それは違います。試験の日が近づくのではなくて、わたくしたちが当日に向かって少しずつ進んでいるのです」

「ああ、なるほど。確かにそっちの解釈の方が納得ですね!」

「……」


 ツェツィーリエは怪訝そうな顔をしてしばらくの間黙って紅茶を飲んでいたが、やがてつと視線を上げた。


「……先生。あなたは……わたくしのことが、扱いにくいと思っているのではないですか?」

「思いませんよ」

「嘘おっしゃい。だって、わたくし――」

「私はヴィンデルバンドさんたちを扱う(・・)つもりはありません。……あなたたちは一人の生徒なのですから、どう進むかはあなたたち次第ですもの」


 ディアナがはっきりと言うと、ツェツィーリエの黄金色の瞳が揺れた。

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