第三十七話 逃れられないすれ違い
ノマールをいびろうとしていた事を謝罪し、大きなすれ違いを一つ解消したヴィリアンヌ。
さてそうなると、もう一つメインのすれ違いも解消しておきたいところ。
しかしリバシはまた策に逃げようとしているようです。
二人のすれ違いの行方や如何に?
どうぞお楽しみください。
少ししてヴィリアンヌも落ち着きを取り戻し、部屋の中には穏やかな空気が戻りました。
リバシが満足そうに頷いて席を立ち、手を広げます。
「……いやぁ思わぬ結果となりましたが、ヴィリアンヌ嬢とノマール嬢との和解はなりました。しかしヴィリアンヌ嬢もお疲れの様子。今日はここでお開きという事に」
「殿下?」
「わっ!? 何をするアッシス!」
しかしその肩はアッシスに押さえられ、席に戻されました。
「何を逃げようとしておられるのですか?」
「だ、誰も逃げようなんて……! この感動的な余韻を壊さないようにと思ったまでで……!」
「さっきのどたばたで口にしてしまった事を有耶無耶にしようとされているのでは?」
「! そ、そういえば、リバシ殿下……!」
「いや、それは、その……」
思い出して顔を赤らめるヴィリアンヌを見て、リバシの動揺はさらに高まります。
「その臆病な姿勢が今回の騒動を引き起こしたのですよ?」
「う……」
「いびりの秘密を盾にする事でヴィリアンヌ嬢を怯えさせ」
「ふぐっ」
「ノマール嬢への謝罪を先延ばしにさせた事で、ヴィリアンヌ嬢の悩みを長引かせ」
「ぐぬ」
「遠回しな策を弄したせいで誤解を助長して」
「うぐ」
「挙句ここまで来てまだ勇気を出せないのですか?」
「……」
黙り込んでしまったリバシに、アッシスは背筋を伸ばし、声を張りました。
「リバシ・アプラン・カムフル!」
「!」
「勇気とは己のために出すものではありません! 他人のために奮い立たせるもの! 国民をその勇気で守る立場になるべき身で、それをしまい込んでどうしますか!」
「……他人の、ため……?」
「夜ごと自分を想って泣く令嬢の涙を止めるために、己が恥などかなぐり捨てる、それを勇気と呼ばずして何と呼ぶのですか!」
「!」
「王は慎重であるべき、間違いではありません。勝ち目を見てから勝負、それも正しいです。しかし今はそんな理屈は置いて、お心と真っ直ぐに向き合ってくださいませ」
「……アッシス……」
言い切るとアッシスは、深々と頭を下げます。
「側仕えの身で差し出がましい事を申し上げました。如何様にも罰をお与えください」
「……いや、忠言、感謝する」
リバシは再度立ち上がると、呆然とやり取りを見守っていたヴィリアンヌの横にひざまずき、その手を取りました。
「り、リバシ殿下!?」
「ヴィリアンヌ嬢。私は臆病な男だ。あなたに嫌われないよう策を弄して、結局あなたを悲しませていた」
「そ、それは、その……、お恥ずかしい話で……」
「今もあなたの気持ちを知ってなお、あなたに気持ちを伝える事に躊躇いがある。情けないがノマール嬢の言う通りだ。恋しいからこそ恐ろしい……」
「リバシ殿下……」
「だが私はここに誓う。私の愛と、そのための勇気を生涯あなたに捧げると。身勝手で弱い私の気持ちなど迷惑かもしれないが、受け取ってほしい」
「……ぅ、ぁ……。うあああぁぁぁ……」
感極まり泣き出すヴィリアンヌ。
突然の号泣に、リバシは取り乱しました。
「あ、いや、受け取ってほしいと言うのは絶対に婚約しろとかそういう意味ではなくていや婚約してくれたら勿論嬉しいのだがつまり一度真剣に考えてさえくれればその」
「リバシ殿下。ヴィリアンヌ様は嬉し泣きをしておいでです」
「嬉し、泣き……?」
カルキュリシアの言葉に、リバシがぽかんと目と口を開きます。
「はい。ヴィリアンヌ様は嬉しくて泣いておられるのです。リバシ殿下は人のお気持ちが読めるのではないですか?」
「い、いや、こんなに動揺していると、何が何やら……。ってアッシス! やはりお前私の内情を話しているではないか!」
「ノマール嬢とキュアリィ嬢に直接話はしておりません。カルキュリシア嬢とは情報交換をさせていただいております」
「お前……!」
しれっと言い放つアッシスに、怒りの収まらないリバシ。
立ち上がり、文句を言いに行こうとしたその手が引かれます。
「っと、ヴィリアンヌ嬢……?」
「……本当に……?」
「っ!」
「……本当に、こんな可愛げのない私を、お側に置いてくださるのですか……?」
上気した顔。
潤んだ瞳。
上目遣い。
一瞬でリバシの頭からアッシスへの怒りは吹き飛びました。
「も、勿論だ。いかなる手段をもってしても、君を妻に迎えたい……!」
「嬉しい……!」
花開くような笑顔に、リバシの目にはもうヴィリアンヌしか映りません。
「……立って、もらえないか?」
「え、えぇ……」
繋いだ手を頼りに立ち上がったヴィリアンヌを、
「きゃっ!」
リバシはそのまま自分の胸へと引き込み、強く抱きしめました。
「……あぁ、ずっとこうしてみたかった……」
「あの、り、リバシ殿下……、その……」
「敬称などいらない。リバシと呼んでくれないか?」
「……! でも、それは……」
顔を上げたヴィリアンヌは、今までの計算され尽くした笑顔とは全く違う優しい微笑みに、ふっと頬を緩めます。
そして、
「……リバシ……」
小さくそう呟くと、その手をおずおずとリバシの背へと回したのでした。
読了ありがとうございます。
逃げ場を断たれたヘタレのリバシが男を見せました。
逃げ場を断たれたすれ違いフラグが星になりました。
この物語も残すところあと二話(予定)。
ウィニングラン的なお話になるかと思いますが、最後までお付き合いいただけましたら幸いです。
次話もよろしくお願いいたします。




