第三十六話 錯綜するすれ違い
「恋しい相手……。リバシ殿下、それはヴィリアンヌ様ですか? それともノマールですか?」
キュアリィの一言にお茶会の場は大混乱に陥ります。
この大混乱が、すれ違いを吹き散らす春の風となるのでしょうか?
どうぞお楽しみください。
ノマールの発言は、一瞬の静寂の後、大混乱を巻き起こしました。
「きゅ、キュアリィ嬢!? 何を言っているのですか!? 私はノマール嬢にはそのような気持ちは……!」
「そうよキュアリィ! リバシ殿下がお好きなのはヴィリアンヌ様で……!」
「違うのよノマール! リバシ殿下は本当はあなたを愛しておられて、私はその隠れ蓑にお側に置いてもらえているだけなの!」
「ヴィリアンヌ嬢まで何を!? 隠れ蓑とは何の事ですか!? 私が好きなのはあなたの方で……!」
「好……!? い、いえ! ここまで知られてしまったのでしたら、誤魔化すのは無理です! ノマールに真実を告げてください! 後は私が全てうまく収めますから……!」
「ヴィリアンヌ様! そんな無理しないでください! 時々リバシ殿下の名前を呼びながら、布団の中で泣いてるじゃないですか! 昨晩も!」
「か、カルキュリシア! そ、それは絶対秘密って言ったでしょう!?」
「ヴィリアンヌ様……! そこまでリバシ殿下の事を想われているのですね……! どうですかリバシ殿下! 私なんかよりヴィリアンヌ様の方が良いですよね!」
「え、いや、ヴィリアンヌは私が好きで、でもノマールと結ばれようとしていて、ノマールは私とヴィリアンヌが結ばれるのを望んでいて……、これは……! アッシス!」
「はい殿下」
「何を笑っている! お前この状況を把握していたな!」
「ある程度は」
「何故報告をしなかった!」
「昨日の今日のお話でございましたので、裏を取る時間がありませんでした」
「……昨日……! お前まさかノマールとキュアリィを誘う時に、余計な事を吹き込んだのではあるまいな!」
「とんでもない。ノマール嬢やキュアリィ嬢に直接殿下の内情をお話ししてはおりません」
「本当か!」
「殿下なら私が嘘をついているか、誰よりもわかるはずではありませんか」
「……ぐっ……! では何故こんな事に……!」
「それでリバシ殿下は、ノマールとヴィリアンヌのどちらと結婚するのですか?」
「! え、いや、その……!」
「あのねキュアリィ、王となるリバシ殿下は何人とても結婚ができるの。だから私と結婚しておいて、ノマールとも結婚すれば、全てが丸く収まるの」
「丸く収まるわけがないですよヴィリアンヌ様! どうせ朝晩べそべそ泣く羽目になるんですから!」
「お黙りなさいカルキュリシア! あ、朝晩なんて泣きませんわ! ……たまに、ちょっとだけ……」
「どうかそんなお辛い思いをなさらないでください! リバシ殿下は私なんか眼中になくて、ヴィリアンヌ様の事だけを愛しておられるのです!」
「……! ノマールは優しい子ね……」
「ほらもう既にちょっと泣いてるじゃないですか! ノマールさんがここまで言っているのに、何で信じないんですか!?」
「ヴィリアンヌ! 私が二人を娶るなどと誰が言ったのだ! 私はそのような事は思った事もない! 根拠のない讒言をした者がいるのだな!? 絶対に許」
「落ち着いてください殿下。素が出ております。誰の悪意というわけではなく、全ては勘違いとすれ違いの結果なのです」
「アッシス! お前全てを知っているのだな! 説明しろ! この状況を!」
「承りました」
リバシの言葉に、アッシスは頷きます。
全員の注目が集まったところで、アッシスは咳払いを一つして話し始めました。
「事の始まりは、ヴィリアンヌ嬢が平民であったノマール嬢をいびるようキュアリィ嬢に命じた事でした」
「……え……」
「……!」
顔色を変えるノマールと、うつむくヴィリアンヌを見て、リバシは慌てます。
「あ、アッシス! お前……!」
「殿下、これを避けてはこの絡まり合った糸を解く事はできません」
「ぐ……」
リバシが引き下がったところで、ノマールが震える声でキュアリィに問いかけました。
「……キュアリィ……、今の話、本当、なの……?」
「? えぇ。だから私はノマールをいびったの。困っている事やできていない事を見つけては、それがうまくいくよう指摘する、いびりって本当に素晴らしいものですわ!」
「えぇ……?」
キュアリィの笑顔の返事に、ノマールは混乱と同時に若干の安堵を感じます。
その様子を見たアッシスは、穏やかな口調で話を続けます。
「そんなわけで結果としてノマール嬢は幸せになり、その立役者としてヴィリアンヌ嬢は慈愛の女神と称されました。しかしリバシ殿下はその真意を怪しんでいたのです」
「……そう、そして全ては暴かれたの……。ごめんなさいノマール……」
「ヴィリアンヌ様……! やめてください……!」
深々と頭を下げるヴィリアンヌに、ノマールが悲鳴のような声をあげます。
しかしヴィリアンヌは首を横に振りました。
「私の身勝手な恐怖心が、あなたを学園から排そうとしたの……。キュアリィのお陰であなたは救われてくれたけど、もっと早くあなたに謝るべきでした……」
「それは私が止めたのだ! 真実を告げてもノマールもキュアリィも衝撃を受けるだけだと! だが反省は本物だ! 私が保証する! だからヴィリアンヌを許してほしい!」
「……許すなんて、できません……」
ヴィリアンヌとリバシの告白に、ノマールは首を横に振ります。
「……そうよね。謝って許してもらおうなんて、虫のいい話だわ……」
「違いますヴィリアンヌ様。私は怒ってなどいないのです。怒っていないのに許すなんて、おかしいじゃないですか」
「え……?」
「だってヴィリアンヌ様が私を見ていてくださったから、気にかけてくださったから、私とキュアリィの縁を繋げてもらえたんです」
「ノマール……!」
「私はヴィリアンヌ様のお陰で幸せになれました。だから今度はヴィリアンヌ様が幸せになる番です……! そのために私にできる事なら何でもしますから……!」
「あ、あぁ、あぁ、ノマール……! ありがとう……、ありがとう……!」
泣き崩れるヴィリアンヌ。
その背をカルキュリシアが優しく撫でます。
「ねぇノマール。私、何か間違えていたのかしら?」
首を傾げるキュアリィに、ノマールが泣き笑いの顔で答えました。
「ううん、キュアリィが全部を良くしてくれたのよ。ありがとうキュアリィ……!」
読了ありがとうございます。
すれちがいフラグくん
ふっとぼされた!
「まだだ! たかがいびりの勘違いをやられただけだ!」
……あぁ、うん。
混乱の中散々ぶち撒けたお二方の運命やいかに!
次話もよろしくお願いいたします。




