第三十五話 お茶会に踊るすれ違い
リバシとヴィリアンヌの意図がすれ違う中、キュアリィとノマールを加えたお茶会が始まります。
アッシスとカルキュリシアの思いを受けたノマールは、二人のすれ違いを打破できるのでしょうか?
どうぞお楽しみください。
「リバシ殿下! ヴィリアンヌ様! 本日はお招きくださって、ありがとうございます!」
「あの、ありがとうございます……」
「こちらこそ。急なお誘いにも関わらずよく来てくれましたね。感謝します」
「キュアリィもノマールもくつろいで過ごしてね」
喫茶室は一見和やかな雰囲気に包まれています。
しかしそれぞれの内心と必ずしも一致してはいませんでした。
(私の隣にノマールを座らせ、自分は斜向かいに座るとは……。まだまだヴィリアンヌの私に対する恐怖は根深いか……)
(リバシ殿下とノマールが並んで、まるで披露宴……。いつかこれが現実になる日が来ると思うと……。いえ、今から慣れておかないと……!)
(ヴィリアンヌ様……! この席の並びはやはり私とリバシ殿下の関係を誤解して……! 早く何とかしないと……!)
(ノマールはこういう喫茶室に来るのは初めて……。緊張せずに楽しめると良いのですけれど……)
四人の間に沈黙が流れます。
そんな中、香り高いお茶が運ばれてきました。
「まぁ! 素敵な香りですわ!」
「そうねキュアリィ、本当にいい香り……。ノマールはいかがかしら?」
「あの、お茶には詳しくないですけど、好きな香りです……」
「では学内社交会の成功を祝して、乾杯」
『乾杯』
軽く器を上げると、四人はお茶に口をつけます。
「わぁ! 美味しいですわヴィリアンヌ様!」
「ここは良いお茶を出してくれるのよ。リバシ殿下に教えていただいたの」
「あ、ではよくお二人でお越しになっているのですか?」
「えぇ、ヴィリアンヌ嬢以外を招いたのは初めてですよ」
その言葉に、ヴィリアンヌの内心に動揺が走りました。
(わ、私だけの特別でしたの!? そうとは知らずに私は……! いえ、私だけの特別などあってはならないのですわ……。全てはノマールに引き渡さないと……)
そんなヴィリアンヌの動揺に気付く事もなく、キュアリィがにこにこと話しかけます。
「それにしても、今回の学内社交会は素敵でしたわ!」
「そ、そうかしら」
「お茶もお菓子もダンスの音楽も、ヴィリアンヌ様がお選びになったと聞きました! 参加された皆様が口々に素晴らしいと褒めておられましたわ!」
「ありがとうキュアリィ」
無邪気で真っ直ぐな言葉に、さしものヴィリアンヌも喜ばしい気持ちが膨らみました。
それを感じたリバシが、我が意を得たりと言わんばかりに大きく頷きます。
「会の成功を受けて、ヴィリアンヌ嬢のみならず、ノマール嬢やキュアリィ嬢の評価も上がっているようです。本当にヴィリアンヌ嬢には感謝してもしきれません」
「もったいないお言葉、ありがとうございます」
丁寧にお辞儀をするヴィリアンヌ。
しかし喜びの感情が薄れている事に、リバシは焦りを強めます。
(ノマールの評価が上がって、リバシ殿下もご満足の様子……。なのにどうして気持ちが晴れないの……? ノマールへの嫉妬……? 浅ましいわ、私……)
(どうして私が褒めると気持ちが沈むのだ!? 嫌悪ではないから嫌われてはいないと思うが、わけがわからない……!)
「ヴィリアンヌ様、また一緒に踊りましょうね」
「……そうね。今度は学園主催の社交会があるから、その時に踊りましょう」
「楽しみです! それとヴィリアンヌ様が選んだお菓子の中で、とても美味しい物がありまして、売っているお店を教えていただけないでしょうか?」
「えぇ、勿論よ。どんなお菓子かしら?」
「さくさくしていて、上に果物がいくつか乗っていた、手のひらくらいの大きさの物でした!」
「あぁ、それなら……」
キュアリィが再び話しかけ、ヴィリアンヌに明るさが戻った事で、安堵とも落胆ともつかない溜息を小さくこぼすリバシ。
それを見たノマールが、意を決して話しかけます。
「あの、リバシ殿下」
「何でしょう、ノマール嬢」
「……私、キュアリィに優しくしてもらっていた時、嬉しさと同時にとても怖かったんです……」
「怖かった……? それは何故?」
「私が優しくしてもらえる理由がわからなかったんです。貴族の皆様の中でたった一人の平民……。疎まれて当然だと思っていたので……」
「ノマール嬢……」
「今でも少し怖いです。こんな素敵な時間が、何かの拍子に終わってしまうのではないかって……」
「……幸せだから、怖い……?」
「はい。ですから私は、キュアリィに何でも話すようにしています。一人で抱え込んでいると、悪い事ばかり考えてしまいますから……」
「……」
考え込むリバシの姿に、壁際で控えるアッシスとカルキュリシアが、心の中で称賛と応援を送りました。
(ありがとうノマール嬢! ご自分の身の上話から、殿下の考えに一石を投じてくれた! これで殿下が考えを改めてくれたら……!)
(ありがとうございますノマールさん! ここからヴィリアンヌ様の恐怖も愛しさから来るのだとわかってもらえたら……!)
「……ノマール嬢、例えばの話だが、一般論として、恋しい相手がいたとして、その相手に恐怖を抱く事は、その、あり得るのか……?」
「……! それは勿論そうですよ! 自分が相手を好きでも、相手がどう思っているのかわからず、自分の想いが届かないかも、と思ったら、とても怖いと思います!」
「そう、か……。そういう事もあるのか……」
リバシは自分の中になかった考えに戸惑いながらも、幾らかの希望を顔に昇らせます。
ノマールが、アッシスが、カルキュリシアが、大きな手応えを感じたその時。
「恋しい相手……。リバシ殿下、それはヴィリアンヌ様ですか? それともノマールですか?」
「……え?」
「ふぇ……?」
「きゅ、キュア、リィ……?」
「……!」
「……!?」
キュアリィの一言が、全員の度肝を一度に引っこ抜いたのでした。
読了ありがとうございます。
またキュアリィか(場の空気が)壊れるなぁ
さてぶっこまれた爆弾発言。
これが吉と出るか凶と出るか。
このすれ違いの物語も、あと四話で完結の予定です。
次話もよろしくお願いいたします。




