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第三十一話 社交会後のすれ違い

ノマールとキュアリィの活躍で、勘違いの感情を揺さぶられたリバシとヴィリアンヌ。

しかしこのままうまくいくほど、二人の気持ちは単純ではないようで、従者二人は気を揉たのでした。


どうぞお楽しみください。

「殿下」

「何だアッシス」


 学内社交会が終わって部屋に戻ったリバシに、アッシスが声をかけました。


「今回の学内社交会は成功でしたね」

「そうだな。これでノマールは正式に学園内で貴族として受け入れられた。最後の挨拶は簡素ながらなかなかに感動的な言葉だったな。ヴィリアンヌが涙したのがまた」

「それは勿論良かったのですが、私が言っているのはヴィリアンヌ嬢の事ですよ」


 途端にリバシの顔が赤く染まります。


「よ、良かったと言っても、その、共に踊れただけで、そんなに特筆すべき成果ではないかと思うのだが……」

「大喜びしましょうよそこは。最初のダンスの息の合い方といい、最後の当てられそうになるほどの幸せ感といい、想いは通じ合っていると見るべきでは?」

「そ、それは早計に過ぎるだろう! もっとこう、正確な情報を集めてだな! 大局的な視野から総合的に判断するべきで」

「判断を先送りする無能な役人の常套句ですよそれ」


 アッシスの言葉に、リバシから勢いが失われました。

 子どもがばれた隠し事の言い訳をするように、ぽつりぽつりと話し始めます。


「……だって、信じられないだろ……。あれほど私に対して怯えていたんだぞ? それが私に好意? 恐怖と愛情など真逆の感情ではないか……!」

「私に殿下の感覚はわからないのですが、それが勘違いであった可能性は……」


 アッシスの一言に、リバシは突如激昂しました。


「勘違いなどあるか! 私はお前以外誰も信じられない地獄の中、この感情を読む力で生き抜いてきた!」

「殿下……」

「……この力さえ信じられなくなったら、私はこの世界に寄る辺なく立たねばならないのだ……! だからこの力を疑うわけには……!」


 アッシスに、というより自分に言い聞かせるような言葉に、アッシスは深々と頭を下げます。


「……出過ぎた事を申しました。お茶を淹れてまいります」

「……あぁ、頼む……。ありがとう……」


 リバシの悲痛な叫びに、アッシスはそれ以上何も言えませんでした。

 別室でお茶の支度をしながら、リバシの心痛に思いを馳せます。


(殿下自身がヴィリアンヌ嬢から感じる感情を、できる事なら信じたくないのだ……。しかしそれは同時にこれまでの自分を否定する事……。私は何と浅はかな事を……)


 湯が沸くまでの間、アッシスはリバシの心を救う手立てを考えました。


(やはり殿下にはヴィリアンヌ嬢と結ばれる事が必要だ。それも王家から手を回したり、公爵家に働きかけてではなく、心と心のつながりが……。そのためには……)


 その時ふと香ったお茶の香りが、ヴィリアンヌとのお茶会の記憶を呼び起こし、その時後ろに控えていたカルキュリシアの姿を思い出させます。


(確か専属看護師で、名はカルキュリシア……。ヴィリアンヌ嬢からのお茶の誘いも彼女が伝えてきていたな……。ヴィリアンヌ嬢の信頼厚い存在だろう。接触してみるか)


 考えがまとまったところでアッシスはお茶を器へと注ぎ、気持ちが収まったであろうリバシの元へ温かいお茶を運ぶのでした。




 その頃ヴィリアンヌの部屋では。


「無理! 無理よ! 告白なんて!」

「いいえ、無理ではありません。あのご様子から見て、リバシ殿下もヴィリアンヌ様をお好きなはずです」

「で、でもリバシ殿下にはノマールが……!」

「それは何かの間違いでしょう」

「じゃ、じゃあ何で今日の学内社交会を開いたの!? あれはノマールのためなのよ!」

「そ、それは、その……、ヴィリアンヌ様と一緒にいたいからという可能性も……」

「そんなわけないわ! 私は二番目なのよ! リバシ殿下の二番目……! 世界で二番目……」

「何でちょっと嬉しそうなんですか。公爵家令嬢たるヴィリアンヌ様が二番手に甘んじてよろしいのですか?」

「嫌よ! 嫌だけど……! でもリバシ殿下に嫌われるのはもっと嫌!」


 ヴィリアンヌの叫びに、カルキュリシアは頭を抱えました。


(ヴィリアンヌ様は幼い頃、できないことばかり指摘される教育のせいか、自己肯定感が低く臆病……。何か疑う余地のないほどの証拠でもないと、きっとこのまま……)


 するとカルキュリシアの頭に、お茶会のお誘いを伝えたアッシスの顔が浮かびます。


(あの側仕えの方にそれとなくリバシ殿下のお気持ちを聞いてみよう。好意があるならたとえリバシ殿下がノマールさんに向いていたとしても、振り向かせれば良いだけの事!)


「……でも、今日はノマールと出会えて良かった……。ノマールが迫害されないように、私がお飾り正妃になるのも我慢できると思ったもの……」

「確かに立派な方とは思いましたが、ヴィリアンヌ様の方がリバシ殿下に相応しいと思います」

「慰めなんていらないの! ノマールの方が優しいし、身体も華奢で守ってあげたくなるなるし、何より可愛いじゃない!」

「ベタ惚れじゃないですか……」

「だから私が矢面に立って、リバシ殿下とノマールの守るのが私の使命……!」

「えぇ……」


 リバシへの愛が斜め上に燃え上がるヴィリアンヌに、カルキュリシアは一刻も早くアッシスに会わなくてはと決意を新たにするのでした。

読了ありがとうございます。


リバシの裏まで知るアッシス。

ヴィリアンヌの弱さを知るカルキュリシア。

この二人が手を組んだらどうなるか……。

すれ違いフラグ君の運命やいかに!


次話もよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] そして何故か、従者二人がラブラブになるというのはフラグでしょうか?(笑) [一言] とても楽しく読ませて頂いています。
[一言] >専属看護師で、名はカルキュリシア……。 >カルキュリシアの頭に、お茶会のお誘いを伝えたアッシスの顔が浮かび よし、そこにも砂糖をひとつまみ・・・ アッー!!(ドサドサーッ)
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