第二十九話 ほころび始めたすれ違い
ノマールがリバシから告白されたと勘違いして、控室へと下がったヴィリアンヌ。
果たしてこの誤解は解けるのでしょうか?
どうぞお楽しみください。
「ヴィリアンヌ様! お加減はいかがですか!」
「だ、大丈夫よカルキュリシア。少し休んだら会場に戻るから……」
会場での様子を見て控室に飛び込んできたカルキュリシアは、明らかに弱々しいヴィリアンヌの笑みに激しく首を振りました。
「そんなお顔で大丈夫だなんて信じられるわけがありません! 熱は……、ないようですね。脈は……、少し早いですが弱くはない……」
てきぱきと体調を確かめるカルキュリシアに、ヴィリアンヌはぽつりと言葉をこぼします。
「あのね、カルキュリシア。身体は大丈夫なの。……その、リバシ殿下がノマールに告白したというのを聞いて、落ち込んでいるだけなのよ……」
「えっ!? で、ですが先ほど最初の曲の終わりでは、今にも口づけを交わすのではないかと思うほど親密に見つめ合っておられたではないですか!」
カルキュリシアの驚きに、ヴィリアンヌはそれ以上に取り乱しました。
「くっ口づけ!? そ、そんなつもりはなかったの! 本当よ! ノマールからリバシ殿下を横取りするような事、したくない! ……口づけなんて、そんな……!」
「失礼いたします」
「何かの間違いではないのですか!? リバシ殿下か側仕えのアッシス様に確認してみない事には……!」
「あのー、ヴィリアンヌ様のお加減はいかがですか?」
「もういいの! ノマールがとても良い子だって事がわかったから、私はリバシ殿下の幸せを応援できる……! リバシ殿下はノマールと結ばれるのが一番幸せなの……!」
「えっ、リバシ殿下はノマールの事もお好きなのですか?」
「そうよ! あんなに可愛らしくて守ってあげたくなる子、好きにならないわけがないもの!」
「嬉しいです! ですがリバシ殿下はヴィリアンヌ様の事を好きだと仰っていましたよ?」
「ほらヴィリアンヌ様! 確認もしないで諦めては、後で後悔されますよ! ってキュアリィ様!?」
「えっ!? キュアリィ!? あなた何故ここに!?」
「はい?」
リバシとノマールの事で頭がいっぱいだったヴィリアンヌと、ヴィリアンヌの心配に支配されていたカルキュリシアは、突然現れたように見えたキュアリィに驚きます。
「ノマールが、ヴィリアンヌ様が心配ですが、主賓である自分と主催であるリバシ殿下は会場から離れられないので、様子を見てきて、と頼まれましたの」
「そ、そう……。びっくりしたわ……」
「驚かせてしまって申し訳ありませんヴィリアンヌ様。ご挨拶はして、扉も開いていたので入ってしまいましたが、声が小さかったようです……」
「こちらこそ申し訳ありませんキュアリィ様。私もヴィリアンヌ様も気がついておりませんでした」
「そうよ。キュアリィは何も悪くないわ。心配してくれてありがとうキュアリィ」
「ありがとうございますヴィリアンヌ様!」
にっこり笑うキュアリィに、ヴィリアンヌの心は少し落ち着きを取り戻しました。
そこでヴィリアンヌは、先ほどの会話の中で気になる言葉があった事に思い至ります。
「……あの、キュアリィ?」
「はい! 何でしょう?」
「その、先ほど、あの、えっと……」
「?」
「……何でもありませんわ……」
首を傾げるキュアリィに、ヴィリアンヌは首を振りました。
(リバシ殿下が私を好きだなんて、私の聞き間違いか、キュアリィの勘違いに違いないわ……。期待して辛くなるのはもう……)
「ヴィリアンヌ様?」
「大丈夫よ。会場に戻りましょう」
「良かったです! ノマールが、リバシ殿下はヴィリアンヌ様と踊りたがっているので、お元気になられたら連れてきてと言われていたので!」
「えっ」
目を丸くするするヴィリアンヌの手を、キュアリィが引きます。
「私ももう一度ヴィリアンヌ様と踊りたいです! 音楽が終わってしまう前に戻りましょう!」
「え、いや、あの……」
「ヴィリアンヌ様、主催であるヴィリアンヌ様が会場を長く空けては、生徒達のいらぬ不安を煽る事でしょう。身体には問題ありませんでしたし、戻りましょう!」
「か、カルキュリシアまで……!」
「それにリバシ殿下のお気持ちを聞かない事には、堂々巡りで先に進めません! 怖いのはわかりますが、以前諦めたくないと仰ったのですから、覚悟を決めましょう!」
「……カルキュリシア……」
前からキュアリィ、後ろからカルキュリシアに挟まれ、考えがまとまらないままヴィリアンヌの足は会場へと向かっていくのでした。
(何故ヴィリアンヌは私と踊る直前に控室に行ってしまったのだ!? 準備疲れか!? 精神的疲労か!? それとも私が怖くて二度は踊りたくないのか!? ……不安だ)
リバシはそんな事を考えながらも、表面上はにこやかにノマールと踊りを続けていました。
「すみませんリバシ殿下。続けて踊っていただきまして……」
「いえ、私の方こそ先ほどは取り乱しまして失礼いたしました。ヴィリアンヌ嬢とはこの会の準備を通じて、新たな一面を知る機会がありましてね」
「そうなのですね」
「ノマール嬢がヴィリアンヌ嬢を可愛らしいと表現した嬉しくて、ついぞんざいな口調で話してしまいました。非礼をお許しください」
「とんでもないです! 私こそお話しできなくて申し訳ありません!」
「寛大なお言葉、感謝します。どうか今後も私やヴィリアンヌ嬢とも仲良くしてくださいね」
「勿論です!」
ノマールの感情が喜びなのを確認し、リバシは胸を撫で下ろします。
(純朴で穏やかな娘だ。これならヴィリアンヌが真実を告げても大丈夫だと思うのだが……。そうだ! ヴィリアンヌとの茶会にノマールを招けば緊張も減るだろう!)
リバシが笑顔の裏でそんな事を考えているなどと、ノマールは知る由もありません。
しかし先ほどの必死なリバシの方が本来の姿だと思うノマールは、リバシの弁明が可愛く思えて仕方がありません。
(きっとリバシ殿下は、この落ち着いたご様子を崩したくないのですね。でもそのお気持ちをそのまま伝えられた方が、ヴィリアンヌ様は喜びますよ)
そしてちらりと控室に続く通路へと視線を送ります。
(ヴィリアンヌ様、大丈夫かしら……。最後の挨拶でヴィリアンヌ様への感謝の気持ちは直接お伝えしたいです……)
ノマールの視線と感情を読んだリバシは、同様に心配の気持ちを抱いて控室側を見つめ、祈りました。
(私が怖くて踊りたくないのなら、いっそそれでも良い……。どうかヴィリアンヌの不調が軽いものでありますように……)
読了ありがとうございます。
キュアリィは天使。まじ天使。
ヴィリアンヌはまだ半信半疑ですが、あの負け確から五分五分まで持ち直しただけでも大殊勲。
さて会場で再会したリバシとヴィリアンヌは何を語るのか?
次話もよろしくお願いいたします。




