98 山田(Lv 9000)
もちろん、サイだけは落ち着いていた。
「全員しっかりしろ!上で動きがあるぞ!」
Aチームがハタとお喋りをやめて、空の宇宙船を見上げた。サイを中心としてお互い距離を取った。一撃で全滅しないよう散開したのだ(わたしはここひと月でそういうことにとても詳しくなった)。
鮫島さんはわたしのそばに移動した。
「川上さんは下に降りたたほうがいい」
わたしは首を振った。
「いやです。サイのそばがいちばん安全だから」
「だがドンパチ始まったら降りてくれ。天草さんに守ってもらうんだ」
「場合によってね」
「来たぞ!!」ボブがとびきり大声で叫んだ。
いつの間にかサイレンは止んでいた。宇宙船はたぶん上空100メートルくらいに浮かんで、わたしたちの頭上に影を落としていた。その大きな胴体の一部がまるく開いて、光が一直線にわたしたちのいる雑居ビルの屋上に伸びた。
次の瞬間、彼がサイの面前に立っていた。
より正確に言えば、サイの斜め頭上に、詰め襟の制服姿の美少年が浮かんでいた。
余裕綽々というようにポケットに手を突っ込んで、女の子みたいな線の細い顔立ちに不遜な笑みを浮かべている。
――つまりアレだ、容姿も登場のしかたもバトルアニメの1クール終盤に登場する中ボスそのもの。石田彰の声で喋る舐めプキャラ。
ゴメンね例えがボキャブラリー不足で偏ってるけどしょうがないでしょ?わたしは頭が混乱したおたくに過ぎないんだし。
「ようやく見つけたよ」
イメージどおりボーイソプラノの澄んだ声。
「冗談だろ……」背後でボブが呟いた。
誰にとっても斜め上の展開だった。
学生服の彼とわたしを遮るように立つ鮫島さんも困惑して、短く刈り込んだ頭をポリポリしていた。
サイが言った。
「貴様、名を名乗り用件を述べよ」
「簡単な用だよ」学生服の彼は笑い含みのイヤミっぽい声で言った。「ここにいる魔力保持者を我が船にご招待したい」片手を宇宙船のほうに振った。「ああそれから、ボクの名は山田だ。以後、君らの渉外担当となる」
「山田……!?」わたしと鮫島さんと社長が合唱した。
「それじゃ、ねえヤマダ。ついでにあんたたちの種族の呼び方も教えてくれない?」シャロンが言った。
「君らの言語にはボクらを表す言葉がないのでね……そうだな、『ハイパワー』とでも呼んでくれ。それがもっとも適切だろう」
「ハイパワーの……ヤマダだとぅ?」ボブが繰り返した。
鮫島さんが独り言のように呟いた。
「さすがに僕も帰りたくなってきた……」
「もう質問はないかな?」山田くんはわたしたちを見渡して言った。「それではさっさと要件を果たして、帰るとしよう」
「待て!」サイが叫んだ。
「魔力保持者をあの宇宙船に連れて行くと言ったな?なにが目的なのだ?おまえたちに敵対意図がないことを明言せねば我々は言いなりにはならないぞ!」
「敵対だって?」山田くんはせせら笑った。「敵対とは実力が拮抗する者のあいだで成立するのだ。君らはボクたちに敵対する資格などないよ」
「理屈っぽい野郎だな!」ボブが言った。「要するに俺らじゃ到底太刀打ちできないってか?」
「その通り。ああでも、ボクたちはこの星の住民に危害を加えるつもりはないんだ。大人しく従ってくれればここを火の海にするのは控えよう。用があるのは一人だけだ。それで用は済む。こんな星さっさと出て行くよ」
屋上にいたわたしたち全員がサイを見た。
ハイパワーの要求ははっきりしている。
サイは一歩進み出た。
「そういうことならば従おう」
「待て待て待て!そんなの当てになるか!」ボブが反論した。
わたしも叫んだ。
「そうだよサイ!素直に従ってちゃ駄目だって!」
サイはそれには耳をくれず、言った。
「ハイパワーのヤマダ、高慢な態度からして貴様は約束を軽々しく反故にするような卑怯者でもあるまい?大人しく従えば他に累が及ばないと信ずる。そうであろう?」
山田くんは面倒くさそうに答えた。
「当然だ。下等生物をいたぶって喜ぶ趣味はないんでね」
サイはうなずいた。
「では、従う」
「ダメだってば!」わたしはサイに駆け寄ろうとしたけれど、鮫島さんに腕を掴まれた。「ぜったいダメ!行っちゃだめ!」
「ようし行くぞ」 山田くんが片手を振り上げてパチンと指を鳴らした。
――でもまあ、サイもわたしもちょっとだけ勘違いしてたみたい。
宇宙船に連れ込まれたのはサイではなく、わたしだった。




