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76 わたしのいちばん長い日 Ⅴ


 なぜか焦った。

 サイはもともと女性だったってわたしが知っててもおかしくないよね?

 いや、おかしいのか……

 サイが自分から言い出すわけがない、とですぴーは思っている。


 ということは……サイが最近元の姿に戻った、ということになる。

 

 悲しいかな、それが真実なんだけれども。


 わたしは50メートルほど離れているサイを眺めた。

 (ゴメンねサイ)心で謝った。とは言え二百人くらいの女子に囲まれてポーズを決めてるサイを眺めてると、さすがにそれほど罪悪感は沸かない。



 有難いことに(?)邪魔者が出現してわたしのモヤモヤは寸断した。

 

 「ブライアン兵曹」

 ですぴーがやや切迫した声で言い、わたしは注意を向けた。

「分かってます、ボス」


 何ごとか……わたしはあたりを見回した。

 すぐに、わたしたちのほうに歩いてくる男性に焦点が合った。

 白いストライプの黒ジャージ姿の、たぶん日本人。

 ひとりだけじゃなかった。ふたり――4人――全部で5人。ひとりは女性。

 等間隔でわたしたちを取り囲んで、まっすぐ距離を詰めてきた。

 「デスペランさん……?」

 「下がってろ……ブライアン、ナツミを守れ!」

 「了解、ボス!」

 

彼らはわたしたちから5メートルくらいで立ち止まった。

 物々しい雰囲気を察知して、撮影会目当ての女子たちがゆっくり離れてゆく。


 五人組の真ん中、リーダーとおぼしき男性が言った。

 「デスペラン・アンバー氏とお見受けする」

 「いかにも」

 「我々はあなたの身柄を拘束するよう命令されている。大人しく従っていただきたい」

 「それはちと問題がある」

 「問題などない!あなたがたは我々の国で勝手気ままに活動を許されているわけではないのだ。治安維持のため、我々は必要なら実力行使を辞さない」

 「けっこう。実力を行使してみてくれ」 ですぴーは軽い調子で言った。「その前に名乗りくらいはすべきではないか?」

 「我々は治安維持部隊、シャドウレンジャーとだけ言っておく」

 「アレか?」ですぴーは指をくるくる振った。「アメリカのキッズが観てるパワーナントカ――」

 「やかましいわ!」

 「それじゃあ始めるか。さっさと変身しろよ」

 「なっ……!なんで変身する――」

 「しないのか?俺のチームはするぜ!」

 ですぴーが彼らの背後に顎をしゃくった。

 五人組は後ろを振り返った。


 彼らの背後にAチームが揃っていた。

 全員アメコミ然とした派手派手コスチュームを身につけて、マスクを被っていた。嫌がっていたブライアン兵曹もいつの間にやら「キャプテンアメリカのパチモン」コスに着替えていた。言うほどパチモンでもなかった。


 リーダーの男はAチームをひとりひとり見定めて、ですぴーに向き直った。

 「警告しておく。我々はプロだ。どういう意味か分かるな?安っぽいコスプレ集団をいくら掻き集めても太刀打ちなどできない」

 「安っぽいコスプレ集団」ボブが楽しそうに繰り返した。

 「グダグダ言ってねえでおっ始めるぞ!」

 ですぴーがひと声吠えると同時に大剣を振りかぶり、敵リーダーに斬りかかった!

 だけど彼が頭の上で両腕をクロスすると同時に身体がピカッと光って、赤いフルフェイスのコスチューム姿に変身した……

 そして腕で剣撃を受け止めた。

 「やっぱり変身するんじゃねえか!」

 「うるさいんだよ!」

 ほかの4人も次々と変身してAチームと乱戦を始めた。

 

 端で見ると、妙なフラッシュモブが始まったように思えたかも知れない。だから一般人の皆さんは突然始まった戦いを遠巻きに眺めていた。

 わたしだってその遠巻きのギャラリーまで後退したかったけれど、赤いコスチュームの男はわたしを標的の一部とみなしているようだった。

 なぜそう思うかというと、わたしが逃げようとすると彼らの誰かがすかさず回り込んで退路を断とうとしたからだ。


 とにかく――みんな動きが素早くて、わたしは何がなんだか分からないまま、ですぴーの背後で縮こまるしかなかった。

 あの大剣を素手で受け止めるような連中だから尋常ではない。

 あの巌津和尚は中国を通じてもう1人の異世界転移者、メイヴの力を借りていたそうだけど、あのシャドウレンジャーとか言う五人組もそうなのだろうか?

 言ってたことは日本の公安関係者っぽかったけれど、中国と結託してるってこと?


 ていうか見物人の皆さん、半分くらい笑顔でスマホ撮影とかしてるし!

 

 シャドウレンジャーたちは見た目が明らかにアレっぽかったから、見物人たちには彼らが正義の味方に見えるかも知れない。

 実際彼らは強かった。

 なぜならAチームの5人は徐々に押されて、わたしを取り囲む円陣となって、それがじりじりと狭まっていたからだ……!



 「サイ……サイはっ!?」

 わたしはめまぐるしい格闘戦の隙間から、サイが撮影会していた付近に視線を巡らせた。女子の取り巻きはいつの間にかばらけてサイの姿も見えなかった。


 やがて、ふと目の隅になにかの動きを捉えて、わたしは目を凝らした。


 サイが別の誰かと戦っていた。

 それも地面の上ではない。空中に浮いている。


 そして、同じように宙に浮いている誰かと、もの凄いスピードでぶつかり合っていたのだ!

 

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