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73 わたしのいちばん長い日 Ⅱ

 

 デスペランさんとお喋りしているあいだに列が進んで、間もなく開場時間をむかえた。

 列の進みが慌ただしくなる。

 わたしたちは建物の下に入って一息ついた。いくらか涼しい。気温はもう30度を超えていた。


 「そろそろテレポートしても良くねえか?」

「デスペランさんもテレポートできるんだ」

 「〈魔導律〉がメキメキアップしてるんでね」

 「でもダメですよ。歩いて行きましょ」

 「タカコがどこかにいるはずなんだが……」

 「あ~」わたしは曖昧に手を振った。「ショッピング中だから。今ごろダッシュで売り場に向かってるんじゃ、ないかな……」

 「なにかそんなことを言ってたな」デスペランさんは途方に暮れた様子であたりを見回した。「走ってる奴が大勢いる」

 「ホントはダメなんですけどね」

 「ずいぶん大勢集まったもんだ。いったい何人いる?」

 「20万人近いと思いますよ」

 「外国人も多い」

 「いろんなところから来ますから……」

 デスペランさんはしきりに顔を巡らせて、警戒しているようだ。40歳くらいの顔立ちが完成された男性の横顔ってやっぱりカッコイイ。表情を引き締めてるときはなおさら――

 「コスプレはどこでやってるんだ?」

 「へっ?」

 「コスプレ会場。なかなかセクシーな格好の女の子たちがいるそうだな」

 「そっちっすか!」

 カッコイイと思ったの取り消し。それにやっぱ「ですぴー」でいいわ!


 エントランスから東館に向かった。

 去年はわたしも物欲に駆られるまま、目的のブースに突進していたものだが。


 人混みをかき分けてようやくサークルにたどり着いた。

 「おはようございまーす!」

 「おはようじゃない!」

 上野隊長がテンパってた。

 理由は一目瞭然だけど――すごい列ができてた!

 「大変だ」わたしはすぐブースに潜り込んで売り子しているサイの横に並んだ。見かねたですぴーが列の整理に回ってくれたので、上野隊長も売り子に戻れた。


 50人くらい並んでいるのじゃないか?

 お隣サークルのひんしゅくを買わないよう上野隊長は汗だくで対処していた。

 ハンサムなおじ様が加わったために、お客さんの血圧がさらに上昇してしまった。

 ですぴーが陽気な調子で2列に並ぶよう指示すると女の子たちはたちまち従ったものの、列は短くならなかった……どんどん列に人が加わってる。

 「やぁお嬢さんたち、暑いのによく来てくれたね」

 「あ、あの~お名前は……」

 「俺はデスペラン・アンバー、サイファーのパパです」

 「エッ!?えっ!?」

 サイが卓から身を乗り出して抗議した。

 「デスペラン!デタラメ言うんじゃない!」

 「キャーッサイファーくん怒ってるぅ!」

 「その肩に乗ってるネコさんて本物なんですか?」

 「ミギャー!」


 まあ賑やかだこと。

 このような売り方だからやっかみはある……

 あざとい、と思われてもしかたあるまい。

 わたしは延々と会計し続けつつ、背後に積まれた梱包の山を見た。

 「隊長……いったい何冊刷ったんです?」

振り返った上野隊長の目が妖しげな熾火を宿していた。

 「千部……」

 「マジっすか……」いままで聞いたことのない数字だった。

 「ふふふっ」上野隊長は据わった笑みを浮かべて拳をグイと突き上げた。

 完売を確信していた。


 ここについてすぐ、新刊本の表紙を見たわたしは目を疑った。

 いつものゲームキャラ名と同じくらいの大きさで「&ルシファーくん♡」と書かれている!わたしには「いつものよろしく」とか言っといて、執筆陣の半分はサイファーネタではないか!

 (チキショー!だまし討ちとはひきょうナリ!)

 だいたい「ルシファーくん」て、サイの「設定」をわたしの小説からパクってるじゃないのよさ!

 でも忙しすぎて内容に文句いう暇もなかった。

 サイは以前のイベントよりさらにこなれて、握手と自撮りに加えてサインと簡単なイラストまで描いている。

 それを断って本だけ買っていく者はほぼゼロ。


 ひとつ気付いたこと。

 サイと会って感極まったように口に手を当てて涙目の女の子が、少なからず居た。

 わたしはなんでかな?と思ってるうちに理由に行き当たった。


 ですぴーたちの情報シャットダウン作戦によって、サイの素性は妙に謎のベールに包まれてしまった。

 ネットに画像をあげれば消される。テキストに名前を挙げただけで削除されてしまう。そんなことを続けたせいでサイのプレミア度が無駄に上がってしまったのだろう。


 わざわざここに来た子たちの半分は、サイが実在してると確かめに来たようなものなのだ――

 半分以上が10代の女の子だ。

 春の即売会では見られなかった傾向だった。いったい彼女たちはどこから情報をゲットしたのか……。

 

 そう考えたのはわたしだけではなかったらしい。ですぴーが列の横を行き来しながら何気ない様子でたずねていた。

 「君たちサイファーのファン?」

 「そうなんです~」

 「そんなに有名だとは知らなかったよ。ただの顔のいい兄ちゃんだろ?」

 「そんなことありませんよう!LoDiはサイファー様が起こしたって書いてあったしハワイでお坊さんと戦った動画だってピリピリで観ましたもん!」

 「なるほどなー。でも気ィつけなよ。怖ーい安全保障局の黒服に眼着けられるからね」

 「やー!マジですか~?」

 「ところであとでサイファーとコスプレ会場に移動するんだが、どこでやってるんだったっけな?」

 「エッサイファー様とコスプレするんですか!?わたしたちも行きますぅ~!」


 あくまでそっち目的なのね?


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