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50 パーティーのお誘い

      

 パウエル氏との会見が終わってわたしたちは部屋をあとにしたけど、エントランスホールでデスペランさんが待ち受けていた。

 「ナツミ!そのドレス素敵だよ」

 ハグ、それにほっぺに軽くキスされた。アメリカ式のこういうのは初体験だったけれど、まんざら悪い気はしない。即座にドレスを褒めてくれるとこなんか日本ではなかなか望めないレスポンスだ。

 「あ、ありがとうですぴ……じゃなくてデスペランさん」

 「ですぴー?ああ、タカコから聞いたんだな」

 「なんだそれ?」

 「ですぴーとたかぴー。タカコによるとそれが俺たちのような「バカップル」にふさわしい愛称なのだそうだ。じっさい舞浜に出掛けたときそう呼びあったぜ」

 サイはぽかんとしていた。

 「おまえ、なにを言っている」

 「俺が知るわけないよ」デスペランさんは陽気に言った。「おまえも朝から手間かけさしてすまねえ」

 「むこうはわざわざアメリカから来たんだろ?真心と受け取っておく」

 「だな。横田まで出掛ける手はずだったが急遽予定変更だったのだ。ところで朝飯は食ったか?ちょっと寄ってけ」

 まだ8時50分だった。

 「寄ってくよ」


 天井のほうでバラバラと音がして、屋上の天窓越しにヘリコプターが飛び去るのを見た。

 (すごいな、あの人ヘリで来たんだ……)


 わたしたちはリビングより狭いけどはるかに居心地の良い食堂に通された。羽目板張りの壁にデスペランさんが誰かと握手してる額入りの写真やら野球のバットやらが飾られてる。窓際のテーブル席に着いた。

 

 「コリンとの会談はうまくいったか?あのじいさんなかなかだったろ?」

 「信念の人、という感じだったよ。おまえが国を分断するんじゃないかって心配している」

 「また大げさな!猜疑心に凝り固まってるのがあの国の悪いところだ。しかもコントロールできない異物は叩き潰せ!だからな。俺様を排除するのは無理って納得させるまで苦労した」

 「信仰が違うだけで人間同士虐殺を繰り返してるんだから。おまえ、油断するなよ……後ろから刺されないように」

 デスペランさんはうなずいた。

 「おまえさんが来るまではカトリックの坊さんに洗礼を受けろってしつこく要請されたよ。〈ルシファー〉の友達だと分かったとたん大司教が「待った」を掛けてきたが……最終的にはあの連中に恭順しないと100%の信用は得られないと思っとけ」

 サイは忌々しげに首を振った。

 デスペランさんはにんまり笑った。

 「居もしない「神」に忠誠は誓えないもんな。だいたいはじめは「神」がなんだか分からなかった。人間が発明したんだって気付くまでたいへんだったよ。「そんなにすごい御方なら挨拶しなくては」と俺が言うと不遜だとか怒られるんだ。それなのに「神はそこにおわす」ってな調子だから。

 ところがおまえさんはその「神」の親類とみなされてるときた……面白い状況だと思わんか?」

 「ちっとも面白くない」


 

 白状しよう。朝からここまでわたしは会話にまったくついて行けなかった。

 ただサイがとんでもないことをいくつか言った、というのはぼんやり思った……


 若い男性士官が給仕してくれて、サラダと温かいロールパンとワッフル、タマゴとベーコンの朝食をいただいた。


 デスペランさんはロールパンにバターを塗りながら言った。

 「まあアメリカは当面心配ない。おまえさんの敵は中国と……それにニッポンだ」

 「えっ!」わたしは耳を疑った。

 「日本がサイの敵?」

 「残念ながら……奴らの愚図な内務局がやっと動き出したらしい。アメリカや中国ロシアに比べて格段に劣るが、アマチュアほど恐ろしい物はないってのがスパイ業界の格言だ」

 「日本がそうなのか?」

 「ああ、なんせ「アメリカと中国が動いてるぞ、ボクたちもなにかしなくちゃ」って連中だ。つねに2テンポ遅れ。なにが起こってるのか分かってないのにちょっかい出すのが義務だって、スタイルだけ真似てきやがる。本物の脅威にはならないという評価だが、真面目で熱心な無能がいちばんタチが悪いってのはここも同じらしい」

 「せいぜい注意するよ」

 「不思議の国ニッポンだからな。この前の坊主の一件もある。ヤツは世俗には興味なさそうだが、おまえと戦いたくてうずうずしてる。いまはコーヤサンとかいう山に籠もってるそうだが」

 「中国は?やっぱり〈魔導律〉を欲しがってなにかしてくるかな?」

 「奴らは、おまえの血肉を食らえば不老不死になれると確信している」

 「冗談だろ?」

 「わりとマジ。あの国の指導者はアステガランの狂帝ホスと同じだと思え」

 「そりゃたいへんだ」

 

 終始不穏な話題だったけれど、わたしはもう心配するのをやめてたので、食欲を滅することなく美味しい朝ごはんに集中できた。禁忌を破って四枚目のカリカリベーコンに挑戦したくらいだ。甘い炒り卵にケチャップをちょっとかけて一緒に食べるとベリグーなのだ。


 

 「それで、来週土曜日はパーティーなんだがご招待に応じる気はあるかね?」

 「パーティー?」

 サイはわたしを見た。「どうする?」

 「え?わたし?」

 わたしは戸惑った。


 来週の土曜日?


 でも来週の土曜日は……


 「う、ウン。わたし行っても、いいかな」

 「良かった、なあに堅苦しい催しじゃない。ドタバタ騒ぎに近いかな?タカコも来るから心細い思いしないと思うぞ」

 「わっかりました……サイも行ってもいいよね?」

 「いいよ」

 


 連載50回。ほぼ二日に一度ペースで更新なっております。


 そして10字超えが見えてきました。いよいよアレに応募かな。

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