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47 おんなの戦い


 ある意味もっとも厄介な個人戦ですが、ナツミさんタフになった! 無双回です。



       

 めっちゃ睨まれてる。

 わたしとタカコは卓にのしかからんばかりに身を乗り出してるその子を、なすすべもなく見上げた。

 「エ~と……どなた?」

 「藍澤ミチカ、サイファーくんと同じ高校に通ってます!」


 あ~……なんとなく予期したけどやっぱそれか……


 わたしは気持ちを奮い起こして立ち上がった。

 「藍澤さん、ここじゃなんだから向こうで話さない?」

 「ここでいいです!」

 「わ・た・し・が、迷惑なのよっ」

 わたしは彼女に顔を寄せて低い声で言った。

 威嚇できたようだ。彼女はややたじろいだ。

 こちとら2ヵ月間にいろいろあって肝が据わってるのだ。高校生など敵ではない。

 「じゃ、いらっしゃい」

 わたしは藍澤さんを会場外の廊下に連れ出した。


 「さて、なんなの?」

 「だから、サイファーくんのことです!」彼女はややふて腐れたように言い捨てた。

 「サイがなんだっていうの」

 

 「おかしいでしょ!あなたサイファーくんと同棲してるんですよねえ!?」


 鬼の首を取ったように言い切った。

 そんなしたり顔しなければ可愛いのに……。


 「あなたには関係ないことよ」

 「でも、でもそれ犯罪ですよねえ!?未成年略取って知ってます?」

 「つまり」わたしは手をひらひらさせた。

 「わたしとサイがオトナの関係を結んでいるって前提なのかな?なんでそう断定してるの?サイの後を付けてわたしのこと嗅ぎ回ったからだよね?尾行してのぞき見?」

 「そっそれは……」藍澤さんは、たぶん想定してた展開になってないので困惑していた。「どうだっていいでしょ!?悪いことしてるのあんたのほうなんだから!通報してやるから!」

 「どーぞどーぞ」

 わたしは微笑んだ。

 「それでサイに気に入ってもらえると思うなら、やってみて。わたしがムショに入ってサイが保護施設に送られたらご満足?それともあなたが面倒見る?頑張ってね」


 「ッ……!」藍澤さんは顔を真っ赤にして絶句した。


 さよう、わたしはかなーりイヤミなおんなになって、内心で彼女に同情するくらいに余裕があった。自分でも驚くほど、揺るがなかった。

 ちょっと前だったら相手が非オタクの若い女の子、というだけで萎縮していただろうに。

 

 「と、とにかく通報しますから!証拠だって揃ってるんだからどうなったって知らないよ!泣き見ないでよねっ!」

 わたしは笑みを浮かべつつ彼女を元気づけるようにうなずいた。

 「……オトナってキタナイですよ!」

 「ウム」

 「ばぁか!」


 彼女が捨て台詞を吐いて立ち去るのを、わたしは手を振って見送った。

 そして盛大に溜息をついた。

 

 「ナツミ、すごいじゃん」

 振り向くとタカコがいた。

 「店番ほったらかし?」

 タカコはポータブル金庫をかざして言った。

 「あんたいまのホントすごかったって!やっぱ愛っておんなを強くするのね!」

 「やめてよ」わたしはちょっと嫌な気分だった。「ひとまわり年下の女の子虐めたって嬉しくないもん」

 「ま、そのほうがあんたらしい」


 タカコはわたしが泣きそうになったら援護するつもりだったのだと思う。その気持ちはありがたかった。

 わたしたちは卓に戻った。


 「で、新しい恋敵(こいがたき)出現なワケだけど、ナツミお姉さんの対抗策は?」

 「知らないよ。ホントに通報するかどうか分からないけど、きっとツイートしまくってわたしを悪者に仕立てるんでしょうね」

 「あーそういう流れかぁ。ちょっと面倒くさいねえ」

 「混乱した女の子だもん、何するか分からないよ」

 「なんだ、あの子に同情してる?さすが勝者の風格」

 「同情っていうほどじゃ……キタナイ大人とかバカとか罵られてんだし」

 わたしはまた溜息を漏らした。

 「……でもなんだかピュアな乙女心にアテられちゃって。我ながら嫌な役割だなっ……て」

 「恋愛はケモノ道ね!」

 タカコがすっごい嬉しそうに言った。わたしは卓におでこをつけてうなだれた。

 

 警察に通報とかいう話は、あまり心配していなかった。

 以前にもいちどあった。

 時期的にわたしの口座を閉めさせた犯人が通報したのだと思う。ある日おまわりさんと児童福祉局の職員さんがたずねてきて、わたしとサイの生活を探ろうとしたのだ。

 それでわたしはサイに言われてあの、『終焉の大天使協会』から送られた羊皮紙の巻物を差し出した。

 すると彼らはそれをしばらく眺め……「了解です、問題無いようなのでこれで失礼します」と言って立ち去ったのだ。

 サイもですぴーも羊皮紙の巻物がある種の身分証明書として使えるとは言ってたけれど、こういう事だったのだ!

 世間のゴタゴタはそれで半分片付いてしまうらしい。驚き桃の木。


 残り半分は強烈な私怨とか、魔法では対処しきれない事柄だという。


 あの子のように。

 


 サイが女の子たちと一緒にランチから帰ってきた。

 「お待たせ」

 「ン」

 「ずいぶん遅かったね」とか言いかけたけどぐっと堪えた。わたしはサイを100パーセント信頼してるから。

 でも……サイは〈魔導律〉をもっと増やさないといけないのだ。その簡単な方法が女の子とイチャイチャすることだという。

 それも不特定多数の、できるだけ大勢の女性と。


 それはわたしではダメらしいのだ。

 だってサイはわたしとイチャイチャすると、女の姿に戻ってしまう。

 キスするたびに性転換するわけではなく、いろいろな条件が重なると変身しちゃうらしいと(絶え間ない実験によって)分かってきたけれど、とにかく


 わたしだけが、サイにMPを与えられない。




 さーあ次回はスローライフでごザイマスわよ! 19日未明に更新よてい。

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