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46 六月の終わり

 ついに念願のスローリィプレイスをゲットした川上ナツミさんです。


しばらく(待望の?)スローな生活が続きつつ、状況整理編となります。

     

 

 「ナツミさあ――」

 「なに?」

 「あんた最近、キレイになってるよねぇ?」

 「ん?そう?」わたしは耳のあたりに手を添えて言った。「コンタクトにした甲斐があるかな」

 「それだけとは思えないんだけどなぁ~……」

 「なにを仰りたいのか不明瞭ですわ、タカコさん」

 「つまりアレですわよ川上の奥さん」

 「アレとかお下品な言いかたはご遠慮いただこうかしら?」


 「くっ」タカコはたじろいだ。「勝者の余裕を感じる……!」



 わたしは丸眼鏡を外して度の入ってないレンズを拭いた。暑いし邪魔だった。

 ある日突然視力が良くなったので、メガネを使わなくなった。

 「メガネはどうしたの?」と聞かれるのが面倒なのでコンタクトに変えたことにしているけど、本当は裸眼だ。


 ここは即売会会場。貴腐人集いし憩いのサロン。

 会場の隅々まではっきり見渡せた。小学校から世界がぼやけメガネのお世話になってたわたしにとってはじつに新鮮だった。50メートル先のレイヤーがFGOのコスプレしてるって分かる。

 視力2.0って素晴らしい!



 6月最後の土曜日。

 わたしたちはミニコミ会場で売り子してます。


 いま現在、サイがお昼ご飯に行ってしまったので、暇です……。


 「ナツミさあ――」

 「こんどはなに!?」

 「日焼けしてるよねぇ?」

 「あ?そうかな、日差し浴びすぎたかな?」

 「いやそれ日焼けサロンでしょ……くまなくしっとり色づいてるし水着の跡ないし、あんたプール行くタイプじゃないし」

 「ちょっともうやめてくんない?いいじゃん日焼けしたって!」

 「いいけどさ」タカコはぶすっと言った。「あたしだってですぴーに連れてってもらうもん」

 ですぴーというのは「デスペラン」の愛称だと思われる。せめて本人に面と向かってそう呼んでないよう、祈った。

 ていうか「連れてってもらうもん」って、いったいわたしがサイとなにしてると思ってんだよこの人!



 根神先輩は姿を見せなかった。イベント一週間前くらいになるとサークル隊長の伊藤さんに「参加したい」メールが来るのが通例だけど、今回は連絡がなかったという。

 「いなくなると寂しいような……」と伊藤さんが言ってたけど、たぶん卓の賑やかさのことをいってると思われる。2卓も取ってるのに本三冊じゃね。


 まー常識的にはわたしとタカコに会わせる顔ないはずよね、常識的には。あいつの常識はちょっとアヤシいけど。

 

 それにあいつがいたら【ルーニィディザスター】について相手構わずマシンガントークしてたはずだから、わたしはホッとしてた。

 世間で言う【ルーニィディザスター】あるいは【LoDi】とはもちろん、一ヶ月前にアメリカで起こった大惨事のことだ。

 会場でもピースマークを刻まれた月がプリントされたTシャツを何度か見かけた。それくらい騒ぎになったのだ。

 わたしは勘のいいタカコの相手だけで精一杯だ。


 「ね~アレってさぁ、サイファーくんの仕業だったり、する?」

 「なんでサイが?」わたしはやや慎重さを増して手短に答えた。

 「そりゃあんなコトできそうな人ってサイファーだし……ですぴーもそんなわけナイって言うけどなんかはぐらされてる気がしてさ」

 「サイはずっとわたしといたよ?学校行ってたし」

 「そうねえ、あんたの小説によるとあの頃は神父とサイキックバトルしてたんだっけ。まあ言っちゃ悪いけどあの展開はちっと無理あったよね~。もっと地味にラブラブスローライフ路線続けときゃ良かったのに」


 タカコが創作と現実を混ぜこぜにした感想を述べるあいだ、わたしは神妙な顔で傾聴し続けた。創作と現実をごたまぜにしてるのはわたしも右に同じなので、下手な反論は墓穴を掘るだけであった。

 あのバトルはですぴーをルシファー(サイ)に変え、お坊さんを神父に変えただけでほとんど事実です、と言ったところで信じてはもらえまい。

 とは言えアレはたしかに不評で、なけなしのブクマが剥がれちゃったから、タカコの批評も一理ある。


 「わたしだってかっちょいいヒーロー書きたかったんだよぅ……」わたしは口の中でもごもご言った。

 「ま、アクションは向いてないんじゃない?」

 言いたい放題キビシーご意見だこと。感想欄に書かれてたらわたし泣くよ?


 「ところでさ、あたしたちさっきから睨まれてない?」

 「え?だれに」

 タカコは顎をしゃくって正面を指し示した。

 女の子がひとり、五メートルくらい離れて仁王立ちしていた。

 「あら、ホント」

 高校生くらいだろう。ハデハデな半袖パーカーに凝ったおさげ、ミニコミ会場より原宿あたりのほうが似合いそうな子だった。

 スマホを持ってるけどあれってわたしたちを勝手に撮影してる!?

 「あんな子知らないよ?」

 「あ、こっち来る」


 その子はスマホをしまうと、まっすぐわたしたちの卓の前まで来た。

 そして切り出した。


 「あなた、サイファーくんの保護者のひとですよねえ?」


 「あ~……」


 ひょっとして、新たなトラブル発生なの?



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