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27 チェイス

今週最後の更新でーす。


 店を出たわたしは歩きながらタカコの隣に移動して、言った。

 「ねえタカコ、わたしたちの後ろに根神先輩がいるらしいのよ」

 「エッホントにぃ?」タカコは歯をむき出して顔をしかめた。それからスマホを取り出してカメラモードにすると、自撮りするように頭を倒しながら掲げ持った。

 撮影した画像を見ると、たしかに根神先輩が背後に写っていた!

 10メートル以上離れているけど、真っ赤なジャンパーに裾を垂らしたチェックのシャツ、バッグを袈裟懸けした姿は見覚えがある。

 「やだ!マジで居るじゃん」

 「タカコあたまい~」

 「呑気なこと言ってないでなんとかしてよ!さすがに気持ち悪いよこれ!」

 「なんとかしてよと言われても……そうだ、わたしたち別れよう!別ルートで、そうだな、川越八幡で合流しよう。15分後ね」

 「それでどうするの?」

 「根神先輩がどっちについて行くか見極めよう……尾行されてないと分かったら、できれば根神先輩の後をつけて」

 「なるほど……で、万一の場合連絡はどうする?」

 「ええと……タカコはサイファーくんと一緒に行って。スマホで連絡取り合おう」

 「分かった。面白そうね」タカコは笑顔で言ったがすぐ真顔で言い添えた。「気をつけてよね」

 「ナツミ、ひとりで大丈夫か?」

 「大丈夫」



 わたしたちはささやかな作戦を開始した。十字路にさしかかったので手を振ってお互い別方向に足を向けた。

 タカコには言わなかったが、わたしには根神先輩の意図が分かった。わたしやタカコをストーキングするつもりならずっと前にやっていたはずだ。

 つまり、目的はサイファーくん。

 わたしはすぐに別の店先に足を踏み入れ、20数えると出た。

 あたりを見回したけど、思った通り根神先輩はいなかった。それでタカコが向かったほうに歩き始めた。

 汗をかいていたので、上着を脱いだ。


 それにしても……根神先輩はいつからわたしたちを尾行してたのだろう。

 彼はいちおう、わたしの住所は知っている。宅配で一度か二度荷物を送ったりしたからだ。家には一度も来たことはなかったけれど、近所の模型屋に行ったことがあると言っていた。

 わたしはぶるっと背筋を震わせた。まさか家からずっと尾行てたの……?

 さすがにキモい。ていうか怖い。

 

 根神先輩の後ろ姿はすぐに見つかった。モビルスーツの盾がモチーフのバッグを背負っているから判別は容易だった。

 それに……あたまのてっぺんが頭皮が見えるくらい薄くなっていた。

 (あちゃー)わたしは顔をしかめた。先週は気付かなかったけれど……

 怖い反面腹立たしさもある。いっそこちらから声をかけて詰問してやろうか……わたしはいささか戦闘モードになってたので、努めて気を落ち着かせた。


 彼はすり足で素早く物陰に移動しながら、タカコたちの背後を距離を保って尾行していた。時折カメラを構えている。明らかに挙動不審だ。標的に集中してて背後にまったく気を配っていない。

 いったん立ち止まってタカコに電話した。

 「タカコ?あいつあんたたちの後をつけてる」

 『そうみたいね。サイファーくんが気付いたよ。てっきりあんたが目的なのかと思ってたんだけど……』タカコの声は不安げだった。

 根神先輩がゲイに目覚めた、という可能性には思い至ってないようだ。


 (あ、そうだ)

 わたしはスマホを構えて「証拠動画」を撮影した。

 根神先輩が立ち止まったので、わたしも電柱の陰に隠れた。スマホで誰かと連絡を取っているようだ。

 なんどもへこへこ頭を下げてなにか弁解口調だ。時折背伸びしてタカコたちを見失わないようにしている。

 やがて通話を終えると、また歩き始めた。

 わたしもまたタカコに電話した。

 ――だけど応答なし。

 留守電に切り替わってしまったので、わたしはリダイヤルした。しかしまたも応答なし。

 (なんで電話に出ないのよ!)


 わたしはにわかに焦り始めた。

 簡単な計画なのにどうしてこうスムーズに行かないのだろう。しかもスマホに気を取られているあいだに根神先輩を見失いかけ、わたしは気が急いて小走りに追いかけた。


 すぐに根神先輩の背後に追いついたものの、また慌てて隠れることになった。彼はキョロキョロしながら右往左往していて、行く先を決めかねているようだった。

 タカコたちを見失ったのか?。

 (ドジ!何やってんだよもう!)

 誰に苛立ってるのか自分でも分からなかった。タカコにメールしてみたけど、こんな調子じゃ応答はいつになるやら……


 約束の15分があっという間に経過したのに、わたしは根神先輩と間抜けな追いかけっこをやめられなかった。

 (いっそ川越八幡に行ってしまおうか)

 行ってみたらタカコがしれっと待っていた、ということもあり得る。待ち合わせの食い違いなんてよくあることだけど、こういう時はなぜか、なかなか合流できないのだ。


 とりあえず、わたしはもう一度タカコに電話をかけた。

 2度目の呼び出しでタカコがでた。

 「ちょっと!なんで電話に出てくんないのよう!」わたしはホッとしたのと苛立ちで噛みつくような口調になってしまった。

 『ウン……?ごめんごめん』むこうは妙にアンニュイな口調だ。

 「タカコ?いまどこにいんのよ?」

 『え~……もうすぐ八幡さまだよ?』

 「あっそう!言っとくけど、あんたたち根神先輩を巻いちゃったからね!なにしてたのよ!」

 『――え~と、お手洗い、お手洗いに行ってたの。緊張しちゃってさ……ハハ』

 「もお!いまからそっち行くから動かないでよね!」

 『は~い』

 

 わたしはかなり苛ついてたから、ずんずん歩を進めて根神先輩を追い越した。2メートルくらい離れてたけど、たぶん彼はわたしに気付いただろう。気付かなくてもどうでもいい。


 さあ、まだ追いかけてくるつもりなら付いてきなさいよ!

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