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189 神軍

 

 「だ、第二文明って――」

 わたしは記憶をフル回転で探った。

 「――前にチラッと話にあがった、たしか〈ハイパワー〉が地球を去った10万年後に勃興した文明……」


 アルファはうなずいた。

 「そうに違いないよ。あの通り神様気取りだもん」

 「〈ハイパワー〉の佐藤くんが言ってたんだっけ。あなたたちの次に現れた文明って。わたしたちが原始人だった頃、手慰みにちょっかい出してた……って。その彼らが?来たの?」


 『小童(こわっぱ)、なにをぶつくさ言っておる?』

 シヴァ神の隣の巨人が言った。三人の巨人がわたしたちの前に立っているけれど、一人はなんと女性だ。

 アルファはまた向き直った。

 「でかいくち叩くんじゃないよ!わたしはあんたたちよりだいぶ先輩なんだからね?まずは名乗りなさいよ!」

 『おや、貴様まさかギルシス先史文明の生き残りかえ?』巨人の女性が言った。『(わらわ)はティアマトなり!』

 『俺様はククルカン!』

 ホントに神様名乗ってる。

 「わたしはアルファ、あるいはヘルミーネ!お前らより遡ること10万年あまり先んじた第一文明の末裔よ!」

 巨人たちはお互いの顔を見合わせた。シヴァが言った。

 『これはこれはまこと大先輩ではあらぬか!我らの降臨に直ちに平伏さぬから何者かと思ったわい!やはりここが最終戦争の舞台とお見受けする!』

 「いまさらノコノコやって来て、あんたたちもイグドラシルに帰りたいってワケね?」

 『合点』

 「ならうしろのデカブツを倒すの手伝いなさいよ?」

 『もとよりそうしておろうが!』


 たしかに、何十人もの神様コスプレ集団が魔神の頭上を飛び回って攻撃を繰り出してる。

 それら「神様」の中にはひと目で誰だか分かるのも混じっていた。たとえば白いトーガ姿で槍を振ってるヒゲのおじさんはゼウスかそれに近い誰かだろう。鷲顔はホルス神。

 オタクやってるとそういうのに詳しくなるのよ

 てゆうか

 実在してたなんて。

 厳密には神様じゃないかもしんないけど……


 (凄いんだかなんだか、もうわけ分からん)

 


 シヴァが六本の腕全部に半月刀を構えて戦いに参戦した。ククルカンとティアマトも鬨の声を上げて続いた。

 彼らはアルファたちハイパワーとはまた別の進化を経たようで、ハイパワーよりも戦闘的らしい。

 アルファは肩をすくめた。

 「わたしたちは外敵が存在しないと悟ってから武力にこだわらなくなってたから……あいつら第二文明は見かけ重視の餓鬼よ。ピラミッドをこさえたりカミナリで都市を破壊してあんたたち第三世代が畏れおののくのを楽しんでたんでしょうよ」


 とにかく、彼らが参戦してくれたおかげで魔神はじりじりと後退し始めた。デカいから何歩か後ずさるだけで2~300メートル離れるので、騒音が遠のいてありがたかった。

 「あーナツミ、もう〈(ミラー)〉を降ろしてもいいかも……」

 「え?そう?助かった……」

 アルファに言われてわたしはようやくラウンドガールの真似事をやめることができ、鏡を地面に降ろして寄りかかった。

 「ごくろうさまでした」

 鮫島さんがわたしの肩を揉んでくれた。正直心地よかった。

 アズラエルさんが言った。

 「いや驚いた。このちっぽけな世界でも人間はじつに豊かに進化していたのですねえ」

 

 

 サイとですぴーもひと息着けたようだ。戦いから離れてわたしたちのそばに飛んできた。

 「サイ!」

 「ナツミ!よく来てくれたな!」

 わたしはサイを抱きしめた。

 「ナツミ?あの連中はなんなんだ?」

 「第二文明だってさ」

 「え?」サイはアルファに顔を向けた。

 「そう、2番目の連中よ。たぶんポータルの出現を感知してやって来たんだと思う」

 「……まあとにかく、増援はありがたい」

 サイはわたしに向き直った。

 「ナツミ、あとひと押しでケリが付く。だけどすこしだけちからが借りたい」

 「どうすればいいの?」

 「デスペラン」

 「ああ」

 ですぴーが進み出て、わたしに(天つ御骨)を寄越した。

 「ナツミ、さっきやったように〈鏡〉を地面に置いてくれ」

 「うん……」

 わたしは屈んで〈鏡〉を地面に横たえた。

 「これでいい?」

 「ああ」

 「またポータルを開くの?」

 「いや、ちょっと違う……」

 ですぴーはむずかしい顔で腕を組んでいた。

 「サイファー、それやらなきゃダメか?増援も来たことだし……」

 「あの増援が〈ハイパワー〉と同じなら〈魔導律〉は持っていないだろう?物理攻撃だけじゃ埒があかないよ。事実エネルギーは地面に伝わってしまってる……そのうちマグマになってしまうぞ」

 「たしかに」

 サイが言ってる意味は文系のわたしにもおぼろげながら分かった。魔神の足元が赤熱して蒸気が立ちのぼっていた。

 だけど……サイがやろうとしていることにわたしは不安いっぱいだった。ですぴーでさえ気が乗らなそうなのに……

 「サイ……大丈夫なの?」

 サイはわたしをまっすぐ見て何か安心させるような言葉を探してたけれど、やがて首を振った。

 「サイ!」

 「ナツミ、俺がやろうとしていることはナツミが龍の巫女になったことと似ている。命に危険はない」

 「けど……」

 「頼む、協力してくれ!」

 わたしは気力を振り絞って、なんとか笑顔を浮かべた。浮かべられたと思う。

 「……サイの頼みなら聞いてあげなきゃ、ね?」

 「ナツミ……」サイはまたわたしを抱きしめた。

 「ありがとう」

 「――それで、どうすればいい?」

 「〈天つ御骨〉を、鏡の隣の地面に突き立てて」

 「分かった」

 わたしがそうすると、あまり力は込められなかったけれど、七支刀はグサリと地面に突き刺さった。


 「よし――

 地底の魔王よ!サイファー・デス・ギャランハルトとデスリリウムの名に於いて命ずる!我が呼びかけに応え目覚めたまえ!」


 (まっ魔王!?)


 サイファーがデスリリウムを両腕に掲げて地面に突き立てた。

 

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