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161 夜来たる

  

 その後根神はメイヴさんに何度も何度も「この奇跡」がインチキマジックではないと確認した。

 それほど信じがたいことだったらしい。

 わたしにはよく分からない悩みだけれど、そういえばパパも生え際の後退を気にしてたっけ。


 そんなわけで〈祝福〉をようやく受け容れた根神は見るからに素直になって、母親ともども鮫島さんの102号室に向かったのだった。


 わたしとサイ、それにメイヴさんはひとまず部屋に戻った。メイヴさんはそのまま洗面所のドアを抜けてお山に帰った。


 開きっぱなしのノーパソを見てわたしは大事な作業の最中だったことを思い出し、根神にそっと呪いの言葉を吐いた。


 「忙しいのに!」

 「災難だったな」

 「まったくもう、さっきのはいったいなんだったんだか……」

 「だけど、おかげで敵の名前も判明した――」

 わたしは背伸びしてサイに顔を突きつけた。

 「()()()()()()()()()()()()()()!分かった!?」

 「――了解」

 わたしはビニール袋からエナジードリンクを一本引っ張り出して、半分ぐらいグビグビ飲み下した。

 「ぶはーっ!」口を拭っておこたに腰掛けた。「それじゃ原稿仕上げるから、邪魔しないでね!?

 「わっかりました……」

 

 あと二日……というか36時間ちょっとしかない。

 今夜は徹夜ね!



 二日後の夜11時。

 わたしはおこたのテーブルに突っ伏していた。

 「終わった……」

 サイがうしろからわたしの両肩に手を当てて言った。

 「よく頑張ったね、ナツミ」

 わたしはゆっくり身を起こして目をこすった。

 「ありがとねサイ~。我慢して付き合ってくれて」

 「そりゃほったらかしてナツミが餓死したら困るから」

 わたしはご飯を用意する余裕もなかったから、サイがずっと炊事してくれたのだ。ま、たしかにひとりでいたらコンビニに行く間も惜しんでいたわね。

 「ほらナツミ、寝るまえにお風呂入って」

 「ふーい」

 


 それでわたしはようやく眠りを手に入れたけれど、結局すぐに叩き起こされた。

 「ナツミ……悪い。起きてくれ」

 「うーん?……いま何時?」

 「朝の5時だ」

 まあ五時間も眠れたからいっか。

 わたしはしぶしぶ起き上がって、寝間着がわりのジャージの上にジャンパーを羽織った。

 コテージの外にはメイヴさんが待っていた。

 なにごとだろう……わたしは急に心配になった。

 「さ、行こう」


 サイについてドアをくぐりアパートに戻った。

 まだ暗いのに、アパートの外が騒がしい。

 「サイ、なにが起こってるの?」

 「外に出れば分かるそうだ」

 「外に出るの?ちょっと待って……」

 わたしは靴下を履いて、それから3人でアパートの外に出掛けた。

 

 通りに出ると、やっぱり少なからぬ人数の近所のひとたちが早朝だというのに家の外に出ていた。なにが起こっているのかはすぐ分かった。みんな夜空の一方向に顔を向けてなにか指さしてた。

 わたしがそちらに目を向けると、あせた黄色のつきが浮かんでいた……

 その月の光を2本の黒い線が遮っていた。


 「なに……あれ」わたしがかじかんだ手を口に当てながら言うと、サイが答えた。

 「十字架みたいだな」

 十字架みたいなのは月を背景にゆっくり横移動している。まもなく月の真ん中あたりに差し掛かると、十字架と言うよりナイフか手裏剣みたいに、端が尖っているようだった。

 「あれ、空に浮かんでるの?」

 「いや」サイは目をすがめて凝視し続けている。「あの十字架みたいなものは、宇宙空間に浮かんでいるらしい。とんでもなく大きいぞ」


 アパート一階の部屋から鮫島さんと天草さん、そしてアルファも出てきた。

 「サイファー、メイヴさん、ナツミさん、おはようございます」

 「みんなも起こされたのか?」

 鮫島さんがうなずいた。「さっきメイガン中尉から連絡がありまして」

 天草さんが月を見上げて言った。

 「わあ……あれは、なんなの……?」


 頭の後ろで手を組んだアルファがぽつりと言った。

 「〈後帝〉(ハインドモースト)


 「えっ!?」

 わたしたち全員がアルファに注目した。

 「あの十字架、〈後帝〉だよ。ついにお出ましかぁー」

 鮫島さんが困惑していた。「メイガンの話では宇宙空間に突然出現したらしいが……あんな……巨大なのがきみたちの元ボスなのか?」

 「最大全長200㎞くらいかな……過剰に武装してるからねー」

 

 メイヴさんが、まるで祈りを捧げるように、両腕を月に向かって広げていた。サイがそれに気付いて、言った。

 「メイヴ?」

 メイヴさんはそのままのポーズで答えず、わたしはしばし寒さも忘れてその様子を見守った。


 やがて、メイヴさんが手を下ろした。

 「メイヴ、なにが分かった?」

 メイヴさんがサイに顔を向けて、言った。

 「あの十字の中心に〈鏡〉(ミラー)がある」

 「なんだって……」さすがのサイも驚愕していた。「〈後帝〉が〈鏡〉を持っていたのか……」

 「いくら探しても見つからないわけよね」

 アルファも言い添えた。

 「それはわたしも知らなかったなー。あいつが隠してた力ってそれだったのか……」



 わたしはその途方もない話を聞きながら、思った。


 


 (今年の冬コミひょっとして中止じゃね?)

  





   ――――第5部 キュリアスリィスローライフ おしまい――――



次回より最終章。


 なるべく早く再開します。

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