152 パーティーは続く
それからわたしはサイにおんぶされておうちに帰りました。
――というふうにはならなかったのよねこれが!
社長の家に迎えに現れたのはサイだけではなく……ですぴーとAチームと鮫島さんまでがやって来たのだ。
なぜか缶ビールその他持参。
社長がぴょんと立ち上がってみんなを迎えた。
「やだー!みんなやっとわたしの家に来てくださったのねえ!さっ入って入って!」
「ピザ注文しといたけどいいか~?」不本意げなサイの首にがっちり腕を回したですぴーが言った。
「オッケー!」社長がピストルの形にした手をですぴーにむけて言った。
つーわけで二次会開始。
まあ賑やかなパーティー形式となったためアルコールピッチは大幅に減速した。わたしはイイ感じにほろ酔い加減で輪に加わった。
社長がBGMがわりにテレビを点けた。
それでわたしたちは『徹底検証!脅かされたわたしたちの生活!』なる番組を視聴することとなった。
まあ陰謀論マニアの社長としては狙い通りだったかも。だって話題の中心人物が勢揃いしてるもん。
攻めるときは攻めるテレ東の番組だったから、冒頭からあのですぴーのインタビューVTRから始まった。
「お?気合い入ってるじゃん」ボブが言った。「民放がついにメイガンの情報リークに喰いついたんか?」
でも導入部が終わってひな壇のコメンテイターが紹介される段になると、あの若槻教授がでんと居座っていた。
まあ最近はエキセントリックな発言がウケて昼間のワイドショーにもたびたび登場してたから……
ピザが到着して、わたしは胃袋のアルコールを希釈するためかぶりついた。ドリンクもコーラに切り替え。
ああでも炭水化物摂取したらアルコールが回ってきたかなっと……。
それでわたしはサイに寄りかかっていい気分でフワフワした酩酊状態に浸った。
「そういや、あのハイパワーの宇宙船が奴等の本体そのものなんだってよ」ボブが最新情報を開陳すると社長が食いついた。
「アレが!?あの西川越に突き刺さってるのが?」
「アルファによると、そういう話だ」サイが認めた。
シャロンがぼやいた。
「そーいう重要な情報はもっと早く言ってくれないかね」
「あー……それなんですが」鮫島さんが頭をポリポリしながら言った。「西川越で田中と戦ったときなんですが、やつら川上さんに精神攻撃した覚えはない、みたいなこと言ってたんですよ」
「あの「夢」か?」
「ええ……そのことだと思う」
「それも早く報告すべきじゃない?」
「報告書には書きましたけど、いま英訳中なんじゃないかな」
「それじゃ……」ブライアンが言った。
「その、ナツミに酷い夢を見させて〈天つ御骨〉を奪おうとしたやつは、〈ハイパワー〉とは別ってことなのか?」
ですぴーが険しい顔つきになった。
「なんだよ、また新勢力か?」
「そうらしい」サイも深刻そうな顔してる。
TVでは、歯に衣着せぬ選挙番組で有名な司会者が、アメリカの最新動向を報告してた。
「さあ~いま注目されてるのがこの人物ですね。と言っても名前も出身地もいまだ明らかにされていない謎の人物なんですが」
アメリカのニュース番組のVTRが映し出された。
例のワシントンを目指すデモ行列。
「この「ミスターX」なんですが、ワシントンに着いてからも様々なパフォーマンスでもって支持者を集めてるんですねえ。たとえばワシントンモニュメントの貯水池では、なんと水の上を歩きました」
ミスターXがじっさいに水面上を歩く動画に切り替わると、スタジオ内のタレントが「ウソや~!」とかなんとか騒いでた。
「彼は現地放送局の取材にも応じています」
女性レポーターが「ミスターX」にマイクを向けていた。
『あなたはイエス・キリストの生まれ変わりと言われていますが――』
ミスターXは穏やかな表情で答えた。
『皆がなにを思おうと、それは個人の自由です』
『あなたはいま現在アメリカや各国で脅威となっている〈ハイパワー〉の手先ではないかと警戒する人もいますが?』
『わたしは世俗には疎くてね……しかし、わたしの元に集ったかたたちからいろいろ教えていただきましたよ。なんでも次元の異なる世界からの訪問者が、この世にいるらしいですな』
『ええ、そうです。彼らは〈ハイパワー〉という侵略者と対峙していますが、同時に信仰を否定する言動もしばしば見受けられます。あなたはそうした外部侵入者に対抗するために現れたのだと、多くのアメリカ市民が見做しています』
『そうかもしれません』
「こいつ……ほぼ言い切ったな」ボブが言った。
わたしといえば、TVからミスターXの声が聞こえてきたとたんに酔いが吹っ飛んで、硬直していた。
「サイ……」
「なんだ、ナツミ?」
「わたし……あの人知ってる。あの声……」
「なんだって?」
わたしはサイを見上げた。
「あの人、わたしの夢に出てきた。夢の最後に現れて、〈天つ御骨〉を渡して楽になれってわたしに語りかけてきたの……」
「それじゃ……ナツミに15年分の夢を見させたやつは、あいつか?」
「そうだよ」わたしはうなずいた。「間違いない」




