148 決着
わたしに向いた真っ赤なフルフェイスヘルメットのバイザーがせり上がって、鮫島さんの眼が現れた。
その眼はわたしの七支刀を見おろしていた。
「ナツミさん……いえ、龍の巫女様」
鮫島さんは両腕を伸ばして、恐る恐るといった手つきで七支刀を受け取った。
柄を握りしめ、重さを確かめるように抱えた。
鮫島さんは眼を見開いた。
「持てた……!」
わたしはうなずいたようだ。
「さあ鮫島ウシオ、存分に腕を振るうがよい」
「了解ですっ!」
鮫島さんは一礼してきびすを返して、.怪物に対峙した。
怪物は鮫島さんの七支刀を指さして叫んだ。
「それそれ!僕らが欲しいのはそれです!」
鮫島さんは剣を構えた。
「この聖剣はおまえらのような輩に扱えるものではない!」
空を仰ぐと、中学生軍団が続々と地上に舞い降りていた。道路上、民家の屋根、ところ構わず着地している。
そこでわたしは我に返った。視界と音が戻ってくる……
何百人もの中学生が通りに溢れかえって、わたしたちを取り囲んでいた。巫女さんふたりがわたしの両脇に立って姿勢を低く構えていた。
鮫島さんが、号令した。
「シャドウレンジャー集結せよ!」
「レンジャー!」
色とりどりのスーツにダメージを負った4人が鮫島さんのまわりに集結した。
巫女さんが戸惑っていた。
「なにが始まるの……?」
(わたしだって知りたいよ)
見渡すかぎり制服の中学生に囲まれて、わたしたちはたぶん、いや明らかにピンチだ!
だけども……
男の子の声がまわりじゅうから聞こえた。
『シャドウレンジャーとやら!どうやらずいぶんとパワーアップを果たしたようですねえ。なかなか張り合いが出てきたというものですよ』
怪物が一歩進み出た。
「さあ、剣を渡すか死闘を繰り広げるか、選んで――」
怪物の言を待たず、鮫島さんが真一文字に剣を振るった。
怪物の巨体が粉々に砕け散った。
「もはや問答無用!」
中学生たちの群に戦慄が走った。
空模様が急に怪しくなった。
さっきまで晴れときどき曇りぐらいだったのに、低い暗雲が立ちこめ雷鳴が轟きはじめた。
「鮫島の魔導律が信じらんないくらい高まってるよ」双子の巫女のアルファのほうが言った。
「〈天つ御骨〉を託されたからだわ……」もうひとりの巫女さんがわたしのほうをチラッと見た。
わたしが鮫島さんに力を与えたようなこと言ってる。
(んなバカな)
鮫島さんのまわりに集ったスーツ姿の戦士たちが、口々に言った。
「隊長……徹底抗戦、でありますか」
「交戦規約に反してませんか?」
「諸君……心配には及ばない」鮫島さんが言っていた。
「奴等は国家ではない。それに宣戦布告なくして領土侵入まで行い一般市民に損害を与えている」
鮫島さんは4人に穏やかな視線を巡らせた。
「殲滅あるのみ、だ」
「隊長!」
「行くぜ、諸君!」
「レンジャーッ!」
「いまこそ聖剣の力を借りて、シャドウレンジャーイメージフォーメーションB!」
鮫島さんが剣を構えて叫ぶと、シャドウレンジャー5人の姿が強烈な光りの中に呑まれた。
「なになに?いったいなにが起こってるのっ!」
巫女さんたちが、目前にそびえ立つ巨大な光りの柱を見上げながら言った。
「とりあえず、逃げたほうが、いいのかな……?」
もっともな意見だけど、わたしたちは眼前に出現しようとしてるあり得ない光景に見入って、バカみたいに突っ立ってた。
それは、超巨大な、ロボだった。
ブラックとホワイトのツートンカラーに彩られた角張ったロボ。
わたしたちを包囲していた中学生たちも呆然とその巨体を見上げてる。それどころかそのポーズのままフリーズしているように見えた。
超高層ビル並みの巨体だけれど、よく見るとその足首のあたりは半透明で、見たところ足元の民家や道路を踏み潰しているようではなかった。
まぼろしみたいなものなのか……
だけど、巨大ロボはその片腕で、胸の高さに浮かんでいるUFOの船首をがっしり掴んだ。
中学生が悲痛な声音で叫んだ。
「バカな!質量を伴った幻影だというのか!?」
UFOはまるで生き物みたいに……釣り上げられた魚みたいにのたうち回った。だけどロボの強靱な握力から逃れられない。
巨大ロボはUFOの脇腹に巨大な七支刀を突き刺して串刺しにした。
そしてそのままUFOの鼻面を地面に叩きつけた――線路の向こう、比較的開けた駅前駐車場あたりだと思う。
まあもの凄い振動と轟音に襲われたけど。
わたしと巫女さんのひとりは激しい振動に足をすくわれてつんのめり、その場に尻餅をついてしまった。もうひとりの巫女さんは余裕で立ってる。
串刺しにされて超巨大なピサの斜塔みたいに地面に突き刺さったUFOは、バリバリと音を立てて全体に閃光が走ったかと思うと、黒い船体表面が灰色に変化していった……。
ほとんど同時に中学生たちも白化してしまった。
まるで塩の柱だ。さすがに恐ろしげな光景だった。
川越のタワーマンション上空に滞空してたもう一隻のUFOも攻撃をやめたようだ。上昇して、まもなく垂れ込めた暗雲の狭間に消えた。
なんだか分からないけれど、わたしたち勝ったみたい。




