146 シャドウレンジャー鮫島
「ハイパワー……」鮫島さんが誰ともなく呟いた。
鮫島さんは素早く背後に顔を巡らせた。
やっぱり中学生が立ち塞がってる。
「な、なんですかあのひとたち……」
「あ~……僕らの、敵です」
「てっ敵!?」
「ナツミさんよく聞いて。僕のうしろを離れず、着いてきてください」
「は……」わたしは混乱したまま言った。「ハイ」
鮫島さんはあたりをさっと見回すと、車道に飛び出した。
車の往来はない。わたしも一瞬だけ躊躇したけれど、鮫島さんに従って車道を越え、反対側の歩道まで走った。
鮫島さんは中学生たちとわたしのあいだに位置取って、後ずさりつつ片手でわたしに「行け」と指示していた。
中学生たちは道路の反対側に合流して、その真ん中のひとりが一歩進み出た。
「逃げないでくださいよ、僕らは彼女に用があるんだ」
「おまえたち、数で圧倒するつもりか知らんが、ナツミさんの救援隊がすぐ駆けつけるぞ」
「それはどうかな」
中学生は背後に顔を向けた。
わたしはハッと息を呑んだ。川越市内……タワーマンションの真上に、真っ黒な飛行船が浮いていた。
だけど、大きすぎる。タワマンより長さがある……
「なんなのあれ……まるで」
まさかUFO!?
しかもUFOはタワーマンションを攻撃しているように見えた……真っ赤な稲光みたいなのがマンションの最上階あたりに殺到している。
だけどマンションの周りにブルーのバリアみたいなのが張り巡らされてて、なんとか無事のようだ……今のところは。
「あの攻撃だ、君たちのお仲間は手一杯だと思うな」
「ナツミさん!アパートに行くんだ!」
「はっはいっ!」
わたしはきびすを返して駆け出した。
走りながら振り返ると、中学生のひとりが信じられないくらい高く跳躍して道路を飛び越え、わたしの行く手に着地しようとしていた。
わたしが驚いて止まりかけると、背後から「止まるな!」と声が響いて、次いで鮫島さんが人間離れしたスピードでわたしを追い抜き、着地しかけてる中学生にタックルした。
中学生は弾き飛ばされた。10メートルくらい。
壁に激突して突き破り、民家の庭まで。
あれって死んでませんか!?
「ナツミさん!」
ふたたび鮫島さんに呼びかけられてわたしは走り出した。鮫島さんの横を通り過ぎたけれど、鮫島さんはわたしの背後のほうを見て立ち尽くしていた。
その鮫島さんに中学生の一団が襲いかかろうとしてる。
わたしは必死に走って、アパートの通りの曲がり角にたどり着いた。
電柱の影に身を潜めて成りゆきを見守った。
中学生とはいえ10人も相手にしたら、鮫島さんひとりでは手に負えないだろう。
しかもフツーの中学生じゃない。
鮫島さんの戦闘力も尋常じゃなかった。
蹴飛ばされた中学生が道路を越えてJRの線路まで吹っ飛んでる。
でも……吹っ飛ばされた中学生はひらりと身を翻して、また鮫島さんに突進してた。
とんでもない戦いだった。喧嘩どころの騒ぎじゃない。
鮫島さんはじりじりと後退して、わたしの20メートル先まで近づいていた。
中学生たちと違って、着実にダメージを負わされてるみたい。
いちどガクリと膝を折りかけたのを見て、わたしは思わず叫んだ。
「鮫島さん!!」
彼はクロスした腕で打撃を防ぎながら、素早くわたしを振り返った。
「ナツミさん!……くそっこれだけは見せたくなかったが……!」
鮫島さんは攻撃をさばいて数メートルうしろに飛び退くと、叫んだ。
「変――身ッ!」
「えっ?変身?」
鮫島さんの体がフラッシュのようにピカッと光った。
中学生たちが一瞬ひるんで距離を取るほどに、衝撃波を伴った光だった。わたしも思わず身をすくめて目をつぶるほどの風圧が押し寄せた。
おそるおそる目を開けると、鮫島さんの立っていた場所に真っ赤なスーツ姿があった。
スーツ、といっても背広じゃない。派手なストライプ入りの全身スーツに、硬そうな手袋とブーツ……
そしてフルフェイスヘルメット。
わたしは電柱に保たれたままヘナヘナと跪いた。
「まァじですか」
フルフェイスヘルメットがチラリとわたしのほうに顔を向けて、すぐに背を向けた。
そして、宣言した。
「シャドウレンジャー、参上!」
中学生たちは彼を円形に包囲していた。
「これはこれは、早くも僕たちの技術まで取り入れたようですね。さすがは真の〈魔導律〉を駆使するだけはある……けど勝ち目はないですよ」
そう言いながら、中学生はふたりひと組に並びはじめた……
肩を並べたふたりの学生服の姿がぼやけて、ひとつの大柄な姿に変わった……!
トゲトゲがいっぱい突き出た銀色の怪物に。
身長二メートルはありそうなトゲトゲ怪物が五体、鮫島さんを見おろしていた。
「観念してください」
「――おまえたちハイパワーはなんでナツミさんに執着するんだ?汚らしい精神攻撃まで仕掛けやがって!」
変身した怪物は銀色のトゲトゲしい頭部をかしげた。
「精神攻撃などした覚えはないですよ……それができればこんな手間はかけてはいません……さあ、どうします?」
「どうもこうも――」鮫島さんらしきスーツの人が垂直ジャンプしてくるりと身を翻すと、怪物の頭を蹴飛ばした。「あるか!」
怪物の頭がもげた……!
わたしは眼を見開いた。
(つよいっ……!)
頭をもがれた怪物がよろめき、ガクリと片膝をついた。
残った怪物たちが男の子の声のまま言っていた。
「なんだこいつ、パワーアップしてるよ!」
「これは相手していられないな――」
怪物の一体がわたしに顔を向けた。
(ヤバいっ!)
わたしは笑ってる膝を伸ばして立ち上がろうとしたけれど、からだがギクシャクして思うように動かない。
四体の怪物がわたしに向かってくる!
なんとか立ち上がってアパートに逃げようとしたけど、まるで悪夢のように身体の動きがゆっくりしてる。
アパートの路地にようやく体を向かせることに成功すると、わたしの視界に入ってきたのはまたしても異様な光景だった。
鮫島さんと同じ――だけど色違いのスーツを着たひとたちが4人、並んでいた。
「シャドウレンジャー、緊急出動!」
スーツの4人が、声を揃えて叫んだ。




