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135 地球終了のお知らせ

           

 どこからともなくアルファが現れて、わたしたちのピクニックに加わった。

 「ざっと見回ってみたけど個人所有なので立ち入り禁止、ってのは徹底されてるようね。でもクマとかイノシシとかいるよ」

 芳村さんはうなずいた。

 「仙女様は、それは問題無いと仰っておる」

 「それじゃあポータルを開くには良さそう」

 わたしは戸惑った。

 「そのポータルっていうの、もう開通可能なの?」

 「まだ無理だ」サイが答えた。「そのためにはもうひとつの神器を手に入れなければならない」

 「えっ!?」わたしは心底驚いた。「ちょっとサイ、さらっと言ってのけたけどまたあんな冒険してお宝アイテムを探さないといけないってこと?」

 サイはうなずいた。

 「〈天つ御骨〉を発見して以来、わたしとメイヴはふたつめの神器――〈鏡〉(ミラー)の在処をずっと探しているのだ」

 「そうだったんだ……」

 「でも簡単には目星がつかなくてね……〈鏡〉を見つければポータルは開通できる。というより〈鏡〉がポータルそのものなのだ」

 芳村さんは顎を撫でつつ言った。

 「なるほど……御国が代々受け継いでいる象徴はそれに倣っていたのですなあ。しかし神器は三つあるのだが」

 「その通り、メイヴによれば神器はぜんぶで三つある。そのすべてがそろえば龍翅族の魂が復元され、因果律の乱れが修復される」

 藤堂さんが尋ねた。

 「それはどういう意味なんです?」

 サイは言った。

 「因果律の乱れとはこの地球の出来事そのものだ……それは凶帝ホスの争乱から始まった。わたしたちはイグドラシルの調和を元に戻すために、神器を揃えて龍翅族の魂を連れ帰らねばならないようだ……それが〈終焉の大天使協会〉がわたしに課した使命だと思う」

 「その魂を連れ帰るとどうなるんです?」


 「地球は消える。この、あなたがたが「宇宙」と呼んでいる世界ごと消滅するだろう」



 サイのショッキングな話が終わると、もちろん藤堂さんは腹を立てた。

 

 「それは……ちょっと受け容れられない話だ!そうでしょう芳村さん?わたしは地球を滅ぼすために協力はしかねますよ!まるっきりおとぎ話なのはともかく!」

 「おとぎ話ではない。そうだろうサイファーさん?」

 「残念だが」

 「しかし……この世界が張りぼてに過ぎないという話はアメリカからの報告書で読みましたがね――」

 「受け容れがたいのは承知じゃ!しかし救いはあるのだぞえ?仙女様は全人類をイグドラシルに招待すると言うておるのだ」

 「人間だけじゃない……この世界で発達した全生物と、死者の魂もだ」サイが言った。

 

 「しかし……宇宙ですよ?この世界ぜんぶが芝居の縦割りに過ぎないという話なんて、あり得ないでしょう」

 「本当の話だ」サイは言った。「この世界は地球人が観測するにつれて広がってゆく……どうやっても終点にはたどり着けないように。そのために偽物質が大量に取り巻いているのだ。20世紀になって観測技術が飛躍的に発達して、それに釣れて宇宙も広がったのだ」

 藤堂さんは傷ついた顔で言った。

 「きみはダークマターのことを言ってるのか!?」

 「そうだ。そのために宇宙の膨張速度は上がって、限界……君たちが「光速」と呼ぶものに近づいている……この世界を作ったとき適当に決めた物理限界だ。どのみちそれで宇宙は崩壊するだろう」

 藤堂さんはしばし黙り込んだ。

 彼は科学者なのだろう。これはその後あらゆる場所で科学者さんたちに降りかることだ。

 ビッグバン宇宙論は間違い、ダークマターの正体ネタバレ、もうすぐビッグリップが起こって宇宙は崩壊する。

 ……いままで勉強してきたことがすべてインチキだと知らされたら……


 「死にたくなってきた……」

 「藤堂!しっかりせえ!」

 アルファが口を挟んだ。

 「その宇宙の話は本当よ。我々は進化の頂点に達して宇宙に出た。暇をもてあまして近所の恒星に出掛けたけれど、本当になんにも無かったのよ……」 

藤堂さんが唖然とした顔でアルファを見た。

 「きみは誰だ?」

 「〈ハイパワー〉のアルファでーす」

 「彼女はこの世界に島流しされた凶暴な種族の子孫……というか、この世界が作られた元凶じゃ」

 「いちおう言っとくと、あなたがたもその子孫ですけどね。わたしは直系かな」

 藤堂さんはうなずいた。

 「その話も報告書にあった。我々は罪を背負った種族だからこの世界に島流しされた……書面ではピンとこなかったが、こうして言われると……」

 「さぞショックだろう」サイが言った。

 「だけど、長いこと島流しにされて子孫たちは悔い改めたし、そろそろ可哀相だから元の世界に戻してあげよう、というのが全体の趣旨なの」

 芳村さんがうんうんとうなずいた。

 「だから、イグドラシルに全人類を移住させるのは、言わば必然なのだ」

 「でも本当に反省してるかな?というのが問題なのよね」

 「それを裁定するのが龍翅族の魂……その依代である龍の巫女だ」サイが言った。


 「え?」

 とつぜんの無茶ぶりである。

 「わたしが?」



 藤堂さんは話を消化するためか、立ち上がってどこかに歩いて行ってしまった。


 鮫島さんと天草さんは周囲を警戒して歩き回っていた。

 何やら祈祷を終えたメイヴさんが立ち上がり、わたしたちのピクニックシートにやってきて腰を降ろした。

 「ここにしましょう。差し支えなければ」

 「差し支えなどありません」芳村さんが答えた。「どこかにお住まいを建てさせましょうか?」

 「それはこちらで用意できるわ……あなたは神社をお建てになって」

 「かしこまりました」

 わたしは魔法瓶のお茶を注いだ紙コップをメイヴさんに渡した。

 「ありがとう」

 「ええと……」わたしは切り出した。「メイヴさんが祈ってるあいだにわたし色々聞いたんですけれど……」

 「〈鏡〉の話?そう、あなたが気を揉まないよう黙っててごめんなさいね」

 「いえ、問題は鏡を探し出したら起こることだと思うんですけれど……」

 「それは探し出してからの話でしょう。今のところ所在が分からない……これでは三つ目の神器なんていつ発見できるやら」

 「そうかもしれませんけど」

 

 でも……

 正直言って、わたしは神器なんか見つからないほうが気が楽だ。

 

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