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134 お山でピクニック


 夕方になってお酒が抜けたタカコからまた電話があったけれど、事態は改善しなかった。


 『そーかそーか、ナツミさんにモテ期到来かあ』

 「だからそうじゃないって……」

 『あたしもですぴーとブライアンのあいだでさんざん揺らめいたんだわさ……』深々とため息『メイガンが脱落したと思ったら社長が割り込んできたりさ……でもシュラバって女をタフにしてくれると思うの。ナツミも頑張って人間として成長しようね』

 わたしは噛んで含める口調でまくし立てた。

 「あのさ、そういう大局的な話してるんじゃないの――鮫島さんに告られたって話したら天草さんもどうやら鮫島さんのこと好きみたいなのよ!どうしたら良いの?ってわたし相談してるの!分かる?」

 『分かる分かる。血湧き肉躍るって感じよね?』

 「いやそうじゃなくて――」反論しようとしたけれど、わたしは言いよどんだ。


 わたしが血湧き肉躍ってる?

 ……そうなのかな?

 いやわたし草食系腐女子だからそれは無いでしょ。

 

 ――でもでも、たしかにわたし高揚感を感じてるかもしれない……


 『ナツミ~?』

 「あ、うん……ちょっと考えてみる……じゃね」


 考えてみる、と言ったものの、脳裏に渦巻くのは混沌とした不安だけだった。

 ダメだ。思考回路はショート寸前。


 でもまあ、それどころじゃないんだわ。

 

 芳村さんからメイヴさんに連絡があって、お山を見に行かないか?と言うことになった。こんどは比較的近所……埼玉と群馬の境目あたりらしい。

 なのでわたしは会社をサボってメイヴさんに同行することにした。

 これで一日鮫島さんと天草さんに会わずに済む……


 ……というわたしの目論見はあっさり崩れ去った。

 当たり前だ。

 鮫島さんと天草さんは護衛だ。そして大ボスの芳村さんが来るなら当然フルボディガード体制となる……。


 そんなわけで翌日の朝。わたしとサイ、メイヴさんと鮫島さんはアパート前の道端で落ち合った。

 鮫島さんは普段と変わらないような……だけど見ようによってはわたしと顔を合わせないように努めているような……。

 ダブル天草さんはひと足お先に、芳村さんに同行して山に向かっていた。

 

 わたしたちはテレポーテーションで県境まで飛んで、それから魔法の絨毯で芳村さんとの合流地点まで移動した。

 前回の秘境と違って、秩父市内から山をふたつみっつ越えたくらいの場所だ。とはいえ見渡すかぎり峰が連なってて、どこからどこまでがひとつの山なのか容易に見分けがつかない土地だった。11月だけど思ったより寒さはない。

 ある山の山頂近くにわずかな平地があって、ヘリコプターが駐まっていた。それがわたしたちの目的の場所だった。


 魔法の絨毯に乗って現れたわたしたち一行を、芳村さんたちがぽかんとした顔で見上げていた。芳村さんと天草さん、それに30代くらいの青いジャンパーを着た男性ひとり。


 「魔法の絨毯かね、それこんどわたしも乗せてくれますかね?」芳村さんが愉快そうに言った。

 「いいですよ」メイヴさんが請けあった。「このたびは、お世話になります」

 「いえいえ仙女様の頼みですから、この芳村、なんでも承りますぞ」

 

 わたしたちは山の稜線に沿った登山道をすこし歩いて、見晴らしの良い西向きのテラスに出た。

 テラスみたいに山から突き出してるだけあって、縁は急斜面に落ち込んでいる。見おろすと眼を回しそうになった。

 「いかがでしょう?」

 芳村さんの問いにメイヴさんはうなずいた。

 「ここには、霊的な渦を感じる……」メイヴさんは杖を向かいの山に向けた。向こうのほうで、なにかが起きたようね?」

 芳村さんは敬服したように深々と頭を下げた。

 「何十年か前に、たいへん悲惨な事故がありましてな……」

 「そうなの……」

 メイヴさんがサイに絨毯を敷くよう指示した。メイヴさんはその上にあぐらを掻いて、瞑目した。


 わたしはサイに囁いた。「ねえ、メイヴさんはなにをしているの?」

 「ここに住んで良いかどうか、尋ねているんだと思う」

 サイは振り返って、みんなに言った。

 「すこし時間がかかると思う、鮫島、シートを広げてくれ、お茶にしよう」


 それでわたしたちはピクニックシートを広げて座り、天草さんがお茶の支度を始めた。わたしは手伝おうとしたけど素っ気なく断られてしまった。……まあ魔法瓶のお茶を注いで配るだけだから……

 が、わたしも天草さんもバスケットにランチを用意してた。

 く~!微妙な空気になってきました!


 芳村さんがお茶を飲みつつ、サイにわたしと同じような質問をした。

 「仙女様はここにお住まいになるつもりなのかな?」

 「最終的にはここにポータルを開きたいのだと思う……」

 「ポータルというと、つまりあんたがたの世界に通ずる道ということかね?」

 「そうだ」

 芳村さんは連れの青いジャンパーの男性に顔を向けた。

 「藤堂、よく聞いといておくれ」

 「承知しています、芳村さん」藤堂と呼ばれた男性はサイに会釈した。「あなたが異世界の人?」

 「そうだ、サイファー・デス・ギャランハルト。あちらはメイヴ・ウィンスター」

 「日本学術振興庁の藤堂です、よろしく」

 「え?」わたしは思わず口を挟んだ。「それって……新日本学術連絡会っていうところとなにか関係が?」

 藤堂氏は苦笑いした。「まあ、そこから分派した組織ではありますが……もう関係ないですね」

 サイが言った。

 「あそこと違って、わたしたちの話に前向きに取り組んでくれる組織なのだろう?そう聞いている」

 「それなら助かるね……それで、メイヴさんはこのお山を本気で買うつもりなの?」

 「この山の持ち主はわしなのでね」芳村さんが言った。「もしお住まいになるというのなら、格安で譲ろうと思っとります……ただしひとつだけ条件を呑んでいただければ」

 「その条件とは?」

 「なに、麓に神社を建立させてもらいたいんですわ」

 「なるほど……」

 「じつを言えば」芳村さんは口調をあらためた。「三十五年前の墜落事故でわしは弟を失いまして。この山を買ったのもそれが遠因なんでしょうなあ」

 「そうだったんですか……」


 「ですから、仙女様がこの地で鎮魂を司っていただければ幸い……もし異世界の扉がこの地に開くなら、弟の魂も彼の地で輪廻できましょう」

                                        

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