132 パーティー
「だいたいさ、この国は子供が仮装して「トリックオアトリート」って言ってまわるわけじゃないでしょ?なんでハロウィーンなんかする?そもそも意味分かってる?」
「そー言われるとぐぅの根も出ませんねえ……」
川越のタワマン最上階を占めるNSA川越支所、わたしは到着早々すでに酔っ払ってるジョーに絡まれていた。
「それはそうと、ジョーさん転勤ですよね?おめでとうございます、で良いのかな?」
「まさしくまさしく」ジョーはわたしの肩を抱いて言った。「魔法の絨毯専任ドライバーとしてスカンクワークスに栄転……あたしゃホグワーツの魔法使いだよ!イェイ!」
とはいえ彼女のコスプレ衣装はジェダイ騎士だと思う……スピンオフが多すぎてよく分からないけれどライトセーバー腰に吊してるからたぶん。
カボチャのお化けがそこら中に飾られたハロウィーンパーティー会場には「スターウォーズ」の登場人物がひしめいていた。それから海賊とゾンビと死体。
スレイブレイアが怒鳴り込んできた。
「ちょっと!ハイパワーがまた現れたんですって!?」
「わっメイガン、すごいセクシーですねえ」
「ありがとう!それはともかくあんたたちなんでそいつを捕獲しないのよっ!サイファーとディーがいれば簡単だったでしょうに!」
「わたしに言われましてもね……」
ジョーがもういっぽうの腕をメイガンの肩にまわして言った。
「まーまーメイガン、パーティーなんだからさ、ガミガミすんのやめてよねー」
「ジョーったらいつから飲んでるの……明日からメリィランドの先端兵器開発局で勤務でしょうに」
「デスペランがテレポートで連れてってくれるから楽勝楽勝」
「ちっとはしゃんとして!あんたは海兵隊魔導大隊の中隊長に抜擢されるんだから……」
「イエッサ~」ジョーが軟体動物みたいな敬礼をしてヨロッと歩み去った。
メイガンはそのうしろ姿を見送ってため息をつくと、わたしに向き直った。
「ナツミはそれ、ティンカーベル?可愛いじゃない」
「ありがとう」わたしはもぞもぞしつつ答えた。人生初のコスプレでちょっと照れくさいけれど、この会場では地味なほうだ。
入り口のほうでどよめきが起こった。わたしたちがそちらに目を向けると、まるで紅海が割れるように人が左右に分かれて、サイが現れた――
「うわあお」わたしとメイガンは同時に呻った。
まるで王族。床まで届く深紅のドレスに身を包んで、赤毛を結い上げたサイが堂々と来場してきた。
まっすぐわたしの前まで来て、立ち止まった。
「お嬢さんたち、ごきげんよう」
「サイ……スッゴいわ!」わたしは心の底から言った。オスカルが初めてドレス着て舞踏会に現れた時みたいだ。
「お待たせして申し訳ない。髪をやってもらうのに時間がかかって」
わたしはサイに見蕩れてたのでろくに聞いてなかった。
普段一緒にいてもサイはあまり化粧しないほうだったし、いつの間にか同居人が美の女神だってこと忘れてたらしい。そんな大事なことを失念してしまうなんて、慣れって恐ろしい。
「フォーマルなら勝負できると思ってたけど」メイガンが言った。「勝負するまえから負けたわ……」
「わたしは骨格が太いからぴっちりドレスは無理だよ」
「ミスター吉羽の仕立て?」
「ああ……どうしても一着作らせろって強弁されて。今日くらい着ても良いかと思って」
「よく似合ってるよ!サイはもともと貴族ですもん」
「ありがとう。ナツミもカワイイね」
わたしたちはテーブル脇に移動してドリンクを選び、美味しそうな冷製肉やカナッペを試した。
会場の真ん中あたりではたぶんゲーム系の黒騎士に扮したですぴーが猫の着ぐるみ――もといタカコを腕にぶら下げていた。その足元には巨大化したハリー軍曹がライオンのたてがみを頭に巻き付けられ、不本意そうな仏頂面で寝そべっていた。
メイガンはダブル天草さんとメイヴさんと一緒になにやら話し合っていた。天草さんたちはともに巫女服姿で、エキゾチックなコスプレとして喜ばれていた。
社長はAチームの男性陣と談笑中だ。
鮫島さんは日本人の一団をアメリカ側の職員に引き合わせていた。
メイガンがさっき言っていた「海兵隊魔導大隊」というのは、来たるべき世界王との戦いのために編成中の軍隊のことだ。サイが前に言っていた五万人の魔法部隊を本当に作ってるらしい。その五万人にできるだけ(魔導律)をシェアして、異世界で戦う術を伝授しようというのだ。
その司令官はサイとですぴーだったから、わたしにはいやでもその話が聞こえてくる。
その組織は実際には国連平和維持軍のあつかいだったから、日本人やほかの国の人も参加してる。驚いたことに中国も参加してるのだ。
中国は主席を失った、と公式に認めたあと大々的な組織再編があって、わたしにはよく分からないけれどまえより国際協調路線になったらしい。
とは言ってもアメリカとの仲はあいかわらず悪いから、日本が仲介してる。
サイの魔導律を狙っていたあのリン・シュウリンも、軟禁を解かれて国に帰ったらしい。
そんなこんなで、わたしの周りは慌ただしい。
メイガンも鮫島さんも、ハイパワーの再来を知らされて本当はパーティーどころではないのかもしれない。
そのメイガンがシャンパン入りのコップを片手にわたしたちのほうに戻ってきた。
「はぁ」
「お疲れッス」
「いいの、それなりに楽しいから」もう一度ため息をついた。「……わたしワーカホリックなのかなあ……彼氏もいないし」
「いないんですか?ですぴーは……?」
メイガンは面倒臭そうに手を振った。
「あいつは典型的だから。港ごとに女を作るタイプ」
「まあ、たしかにそんなふう」
「わたしはそんなのに振り回されるのゴメンだわ」
(メイガンはいまどきのアメリカ女性だもんね……)わたしは心の中で付け足した。
室内の明かりが落とされ、フラッシュライトがリズミカルに点滅しはじめた。音楽がロックに変わってみんな踊り始めた。
サイがわたしに手を差し伸べて、わたしたちもダンスに加わった。
サイもわたしもクラブの踊りは得意じゃないので、身を寄せてからだを揺らしてるだけだけど。
まあいちおう舞踏会なのでダンスパートナーもチェンジする……
わたしはサイからボブに移って、サイはですぴーとダンスした。ボブには踊り方を教わって、なかなか楽しかった。
それから意外にも鮫島さんに移った。わたしとダンスなんかしたがる人なんかそんなにいないと思ってたのに。
「僕はあまり上手に踊れませんが」
「あはは、わたしもぜんぜんダメで」
「あの」
「ハイ?」
「報告書で読んだだけなんですけど、」サイファーはちょっと前まで男性……少年だったとか」
「ええ、お台場で鮫島さんも見たはずですよ?」
「ああ、やっぱりあれが――」
「それがなにか?」
「ええとその……」鮫島さんは口ごもった。「ナツミさんとサイファーのご関係がどうなってるのか僕はまだよく分からないんですが……」
「はあ」
「あの!」鮫島さんはわたしをまっすぐ見て、言った。
「ぼっぼくがナツミさんの彼氏として名乗りを上げる余地、ありますか?」




