123 冒険終えてスローライフ
私服に着替えて一息ついたわたしは、さっそく露天風呂を試した。
山の斜面なので日本海を一望しながら湯を楽しめる。
(絶景かな)
しかも貸し切り状態。わたしよりプロポーション抜群なサイもほかのみんなもいない――
「川上さーん」
「あ?ハーイ」
振り返ると、脱衣所の仕切りから天草さんが顔を覗かせていた。
「なんでしょう?」
「あの~……お背中とか、お流ししましょうか?」
「えっ!?そんな、けっこうです……露天風呂でそれやらないし普通」
「そうですよね……」天草さんは決まり悪げに微笑んだ。「じつは、明日まで川上さんのお世話を仰せつかりまして」
「おっお世話ってなにごと?」
「はあ、それはもうつつがなく快適に過ごされるよう回りのお世話を、すべて……」
「そんな大げさな!」
「いえ決してそうでは……それに本来川上様とお呼びするところですが、先ほどサイファー様から「様はよせ」と――」
「そうよやめて!」
「でも、慣れたほうが宜しいですよ?」天草さんは少しお茶目な感じで言った。「明日はずっとそう呼ばれますから」
「マジっすか」わたしはだんだん心配になってきた。「ていうか明日って?」
「まあ、多少儀式的なものが催されますから」
「儀式!?」
「儀式です」
「――ちょっと待って……天草さんも巫女服で突っ立ってたら寒いでしょ?お風呂入りなよ」
「ダメですよわたしは従業員扱いですから!」
「わたし召使いなんか要らないの。明日のお話とかもっと詳しく教えて欲しいから、入って!」
それで、天草さんの説明によると、わたしが「神器」を山から持ち出すのでまつりごとが必要らしい。
お祓いとかそんな感じ?
本来ならご祈祷に三日三晩費やすそうなんだけれど、サイが却下してくれたので略式で済むのだという。……でもまあ、わたしが途中退席しても祈祷は続けるつもりらしい。
「どうしても必要なの?……」
「こういうのはね、本人のためというよりも、まわりの人間が納得するための言わばギャップ期間なのだ」サイが言った。
「お葬式みたいなものか……」
「まあ例えはアレだけど……。実際折り合いをつけるのはたいへんだと巌津和尚が言っていた。「宝物」の所在を変えることに真っ向反対、という人間は少なくないそうだ……たとえ数時間前までそんな物の存在すら知らなかったとしても」
「だから少し付き合う義理はあるってことなの?やっぱりまっすぐ帰ったほうが良かったかもね……」
「あの山で巌津和尚が仲裁に入らなかったら、わたしたちはこの国で極めて好ましからざる人物としてマークされるところだったそうだよ。普段は呑気だけど、わたしたちは彼らがいささか本気になる唯一のボタンを押してしまったらしい」
「たいへんなコトしちゃったのね……」
サイがうなだれたわたしの頭を優しく叩いた。
「ナツミはよくやったよ。それにほかに選択肢はなかった」
「ねえ」わたしは顔を上げた。「ホントに、あんな剣手に入れたってわたしなんにも力なんかないし。龍翅族さんの霊だって降りてこないよ?メイヴさんがっかりしたんじゃない?」
「ぜんぜん。むしろ――」サイはそこで言いよどんだ。
わたしはギョッとした。「え?なになに?」
「――いや、その話はまたの機会にしよう」
「ちょっとぉ!勿体ぶんないでよねっ!」
それから夕食の席になって、わたしは集合写真にヤバいものが写り込んでると知らされた。
「わひッ!」ノーパソ画面に映し出されたそれを見た天草さんが変な声を上げてのけぞり、尻餅をついた。
わたしの背中にジョーがわしっと抱きついた。
「でっでっそっ!」もう会話になってない。「おおマリア様……」
「わっ……はっきり映ってる……」シャロンがぶるっと震えた。
わたしはただただ固まっていた。
メイヴさんがノーパソに屈みこんだ。
「たしかに、これは龍翅族だわねえ」
感心してる。
「ででもメイヴ姐さんこれ」ジョーは画面を震える指で刺しながらいった。「地球でいうサタンそのものって感じなんですけど……」
わたしたち七人の背後、左横に映ってる姿は、長い首に角が生えて翼まで背負ってる。ですぴーより50センチくらい大きい。
「こりゃメイガンに見せて良いのか微妙だな……」
「ていうかあたしのPCからこれ削除して良いっすか!?」ジョーが叫んだ。「心霊写真なんか保存するの嫌だよ!」
「がまんしろよ。あんた理系だろ?びびりすぎだぞ」
「いやぁ……ここ一年で超常現象には耐性ついてたつもりだったけど、やっぱマジもんのユーレイは
……」
そんなことしてるうちに、女将が大きな盆を抱えて現れ、食事が始まった。
大きめの囲炉裏に串焼きを並べて、焼き網のうえにも海産物が並べられて……
お昼ごはんはけっきょく食べ損なったので、わたしたちはおなかを空かせていた。厳密に言うと一食抜いて堪えるのはわたしひとりだけだけどね……
旅館についてお茶とお菓子しか食べてなかったから、わたしは御馳走に襲いかかった。
「ジャパニーズバーベキューか。こりゃ栄養ありそうだが」ジョーは串に刺さった野菜やすり身をやや不審そうに眺めていた。
「アルコールは超高級品が揃ってる」鮫島さんが炉端に並べられたボトルを眺めながら言った。「響まであるぞ!」
「イイねえ」ですぴーがさっそく水割りをこさえはじめた。
15分後にはジョーの不信感も払拭された。
「なんでただの野菜がこんなにうまいんだ?」
30分後には肉があまり無いことにもしぶしぶ納得した。
干物が絶品だった。
「サキ(外人は日本酒をそう発音する)ってスラスラ飲めちゃってやべぇ!干物ウメぇ!」
ジョーの言う通り椎茸とか、レンコン、タマネギもめっちゃシャキシャキで美味しい!
メイヴさんもノドグロの塩焼きやイカを楽しんでる。
そしてサザエ!
ホタテ!
お刺身!
わたしたちは2時間くらいかけて御馳走尽くめを堪能した。
外人組と鮫島さんはひたすらサケとつまみ。サイとメイヴさんとわたしは海産物を片っ端から試した。
アルコールが良い感じに回って心霊写真も明日の儀式とやらのことも忘れ、わたしたちは楽しく過ごした。
「――というわけなの」わたしはタカコにお土産を渡した。「以上、ナツミさんの大冒険でした!」
「ふうん」おまんじゅうの箱を見ながらタカコが言った。「超嘘くせー」




