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120 冒険だからバトルもある


 「ここは聖地です!禁足地です!」

 「これより先に進むことはできません!お引き取りを願おう!」

 

 「おやまあ」

 ジョーが感心してた。「こういうのってホントにあるんだ」

 「僕が、先に行ってみよう」鮫島さんが進み出た。「こういうのはたいがい女人禁制とかだ。それか一般人立ち入り禁止」

 「女性蔑視とかあたしら気にしないからって言っといてね~」シャロンが言った。

 鮫島さんが階段のなかばまで進むと、山伏がさらに強めにそれ以上近づくくべからずと念を押した。

 

 山伏ふたりも階段を降り、鮫島さんと何やら話し合い始めた。こういうのはまこと日本的だ。強硬手段に訴えるまえに一応穏やかな意見のすり合わせがある。


 でもまあ、どう見ても交渉成立はなさそう……

 

 鮫島さんは二分くらいで戻ってきた。

 「交渉決裂です。遠来よりはるばる訪問の御一行と言ってみたんですが……」

 「じゃ、俺様の出番か?」ですぴーが上着を脱いで言った。

 サイがため息を漏らした。「仕方ない」やはり上着を脱いでいる。「多少暴れて責任者を誘い出さないと、あの門番じゃ埒があかない」

 「俺があのふたりを引き受ける。残りは物陰に控えてる連中を警戒しろ」

 「えっ?」まだほかにいるの?

 「了解、ボス」


 サイとですぴーが階段を上ってゆくと、山伏ふたりは多少戸惑っていた。だってふたりとも大きな剣を携えてる。

 「おい外人!おふざけは大概にせい!」

 わたしたちをお騒がせYouTuberかなにかと思ってるらしい。

 「ふざけてねェよ」ですぴーがどしどし階段を上がりながら言ってる。「実力行使だ。本気でかかって来やがれ!」

 「ぬぅ……それでは御免!」

 山伏ふたりはそう叫ぶと同時に跳躍した。

 フツーの跳躍力ではない。さすがにこんな山奥でゲートキーパーしてるだけはある……が、相手が悪かった。

 ですぴーが右側の山伏の着地点に向かって猛ダッシュした。

 予想外の素早い動きに不意を突かれた山伏は長槍を地面に突き立てて方向転換しようとしたけれど、彼が突き立てたのはですぴーの大剣の刃だった。

 「でりゃあ!」

 ですぴーは長槍と男性ひとりの体重を乗せた大剣を思いきり振りかざして、山伏を杉林に弾き飛ばした。

 返す刀でもうひとりの山伏の着地の瞬間を襲った。山伏は構えた長槍にかろうじて大剣を受け止めたけれど、やはり弾き飛ばされてしまった。

 サイがですぴーが切り開いた道を突進してゆく。


 その間わずか5秒ほど。

 そこまで見届けたところで、わたしの視界が急に通せんぼされた。

 Aチームと鮫島さんとメイヴさんがわたしを取り囲んだのだ。いつの間にか取り出した盾みたいなものを構えて、完全防御陣形になってる。その盾になにかが当たるカンコンという音が聞こえた。

 「吹き矢だ!あいつらマジで殺しに来てるじゃないか!」ジョーが言った。

 「あたしゃ女人禁制とかにあくまで抗議するタイプじゃないんだけど!こんなにされるほど食い下がる必要ある!?」

 「聖域主義は停滞なのよねえ」メイヴさんが相変わらず慌てた様子もなく言った。

 「禁足の由来なんて大概呆れるほどくだらないし」

 棒立ちでなにか避ける素振りもせず、だけど次々と飛来する吹き矢やクナイが彼女の手前で地面に落ちてた。

 まあこの調子だとわたしたちが尋常な訪問者ではないと向こうが悟るのも、時間の問題だろう。

 「集中砲火が止んだ」シャロンが言った。「弾切れかな?」

 「第二波来るかな?」

 でもあちらさんはそれどころではないらしい……林の奥でガサガサ慌ただしい気配が伝わってくる。時折誰かの「ワッ!」という声も聞こえてきた。

 林の奥で大木が一本、バリバリと音を立てて倒れた。

 ですぴーが暴れてるらしい。 


いっぽうサイは、階段の頂上近くで誰かと取っ組み合っていた。

 サイがサシで誰かと対決するなんて滅多にない。相手はただの人間なのに。

 ――いえ、ただの人間じゃないのかな?

 また面倒くさい人が登場した?

 「きさまっ物の怪の類いか!?」女の声だ。

 「おまえこそなぜ天草の姿形をしている!?」

 「なぜわたしの名を知っているのですか!?」


 (え?)わたしは思いがけない言葉に目を凝らした。

 サイが刃を交えているのは、小柄な女性のようだ。

 白と赤の巫女装束――

 「まさか!サイと戦ってるあの子、天草さんだよ!」

 「なんだって!?」鮫島さんが言った。「まさか〈ハイパワー〉のあの女がまた!?」

 「あらら、たしかにあれ天草カオリだ」シャロンが言い添えた。


 「天草さーん!」わたしが叫ぶと、彼女はほんのわずかに注意を逸らした。

 そこですかさずサイがクリンチを噛まして、彼女はオチた。



 わたしたちは聖地の入り口たるもうひとつの鳥居の手前まで登っていた。台形の山のてっぺん。わたしは火口みたいなすり鉢地形を予期してたんだけれど、驚いたことに平らな台地だ。遠くのほうに林が見えるけど、ほとんど草原だった。


 サイに頬をひっぱたかれて天草さんそっくりの彼女はすぐに目を覚ました。

 「攻撃を止めてくれ」

 天草さん(仮)は取り囲んでるわたしたちを見上げると、のろのろと手を上げて、なにか竹細工のようなものをパチンと鳴らした。

 それから上半身を起こすと、首筋をさすりながら言った。

 「おまえたちは何者!?」かすれてるけどしっかりした声で尋ねた。「なぜわたしの名を知っている?」

 「あんたに会ったことがあるのだ。埼玉で」

 天草さんはうなずいた。

 「わたしの偽物が現れた、という噂はある筋から聞き及んでますけど……」

 「偽物」わたしは言った。「つまり〈ハイパワー〉は実在する人間のコピーロボットを作ってたってこと?」

 「どうだかね」ジョーが相変わらず周囲を警戒しつつ言った。「そいつも〈ハイパワー〉かもしれない」

 「ああもう!よしてくださいよ!」天草さんが忌々しげに言った。「つい最近似たような追求されたばかりでたいへん煩わしかったんです!」

 わたしはふと思いついて尋ねた。

 「あなた……真空院巌津ってひと知ってる?」

 「そのかたならいまは大覚(だいかく)巌津上人(しょうにん)様です!」

 「……え~とそれは、あの人出世したって意味?」

 「黄泉からご帰還なさったかたですよ!敬意を払って頂かないと!」

 「わたしもその世界から来たのだ」サイが言った。

 「えっ……?」

 天草さんがサイを見上げるその眼から敵愾心が薄れて、別の感情が宿った。

 「そっそれは、なんと言ったらよいか……」


 「おーい、終わったんか~?」

 ですぴーが林の中から歩いて現れた。

 「お疲れ様ね、デスペラン。決着はついたと思うわ」メイヴさんが言った。

 「なかなか骨のある連中だったよ」ですぴーが天草さんを見下ろした。「あれ、この娘見たことあるぞ」

 わたしが答えた。「ちょっとややこしいことになってるの」

 「なんだ?まだごねてるのかよ?」

 「一応、筋は通そうと思ってね」サイが言った。


 「あ、あなたたち……」天草さん(本物)は立ち上がって背筋を伸ばした。「いかなる理由か存じませんが、やはり聖地に足を踏み入れるのは断念して頂きたい。ここは五百年に渡り俗世の穢れと無縁の地。わたしは身をもってしても守護せねばならない」

 「ハラキリの覚悟かね?」ジョーがせせら笑った。

 天草さんはうなずいた。

 「冗談ではないのです」


 「それは今日でおしまいよ」メイヴさんが天草さんの正面に立って宣言した。

 天草さんはかたくなな決意の表情でメイヴさんを見据えた。少しばかり「この愚かな外国人め」という侮蔑も混ざってたと思う。

 だけどメイヴさんの穏やかなまなざしを受け止めていると、天草さんは揺らぎはじめた。 「あ、あなたは――」

 メイヴさんは元気づけるような笑みでうなずいた。

 「――本当に、異界からいらっしゃった?」

 「いかにも」

 「今日限りでここは聖地でなくなると?」

 「それはあなたがたの心根次第でしょう。この地を聖地と定めたのはあなたたち。わたしはこの地に在るものを求めている。それはここが聖地となるまえからすでに存在していたものだから、あなたたちにことわる謂れはない」

 「で、でもしかし、わたしの一存ではどうにもならないのです!」


 空でゴロゴロと音がして、わたしが見上げるといつの間にか暗雲が立ちこめていた。

 「あらら……これは」

 サイがうなずいた。

 「あいつがお出ましのようだ」


 頭上で稲光が走って、鳥居に落雷した。

 もの凄い雷鳴が響き渡る中、鳥居の下に人影が現れた。



 真空院巌津和尚だった。


 またか。 


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