118 お山でスローライフⅡ
「ちよっ!なんすかそれ!」わたしはお胸(女性用お茶碗サイズ)をかき抱きながら叫んだ。
「ジャンケンより身体的特徴による順位付けのほうが合理的でしょ」
「合理的かどーかはともかくカップと体格の比率からするならシャロンだって――」
「ああン!?」
「――ハイすんませ~ン」
「大きい順でも良いじゃない?」メイヴさんが言った。
今度は視線の行く先がサイとジョーに二分した。
「あたしはさっきいっぱい喋ったからパス」
「わたしのはおもに元の世界の話だからなぁ……注釈だらけになるぞ」
「なんだよつまんない」
「てゆーか怖い話とかやめて」わたしは切実に訴えた。「もうじゅうぶん怖い場所にいるからね」
「まあじゅうぶん暖まったからねえ、もう帰って寝たほうが良いか」
夜。
疲れとビール一杯のおかげでわたしはイイ感じに眠たくなった。
テントの中にはメイヴさんの魔法の絨毯が敷かれてる。それに地熱のせいか、土も暖かかった。
寝袋に収まってこけし状態のわたしにサイが寄り添ってる。
「寒くない?」
「わたしは大丈夫」サイはダックダウンの上下の上に毛布がわりの軍用ポンチョをかけてるだけだ。いざというとき寝袋では困るから、と言ってた。
ジョーのいびきがうるさいけど眠気は抑えようもなく……
サイが温かい掌をわたしの頬に当ててひたいにキスした。
「おやすみ」
「おやすみ、サイ」
そしてわたしは夢の国にふわっと漂って――
「そう言えば最近夢を見ないんだよね」
「充実してるからじゃないの?」タカコが言った。
「うーんそうかな?」
なんでタカコが露天風呂女子会に参加してんのかな……
あそっか、これ夢だ。
「きっといまだけだと思うわ」メイヴさんが悲観的意見を述べた。「あなたのその〈魔導律〉、いろんなモノを呼び寄せてしまうから」
「やなこと言わないでくださいよ」
「でも見てみなさいよアレ」メイヴさんが背後に顎をしゃくった。
杉林で見えないはずの台形の山が見えた……それに明るい。いつの間にか昼になってる。
山の頂上付近に〈ハイパワー〉の宇宙船が浮かんでる。
たいへんだ!
だけどわたしが真っ先に考えたのは〈やだなあ白昼堂々素っ裸って)ってことだった。それでわたしはタオルさがしに没頭した。
お気に入りのマイメロのタオル。いや待てよ?マイメロのタオルを使ってたのは小学校の時だったっけ?
「ナチュミ、コレ?」ユリナちゃんがタオルを差し出してくれて、わたしはホッとした。ユリナは幼稚園の園児服姿で巨大化したハリー軍曹にまたがっていた。
「ユリナ、園児服可愛いね~」
だけど入園はもう一年くらいあとじゃなかった?
ていうかわたし、なんか大事なこと忘れてないか?
妙にもどかしくて焦った。本題に行きたいのにどんどん脱線してゆく。
男の子の姿に戻ったサイが岩の上に仁王立ちしてた。「ナツミは忘れんぼだな」
「ちょっとサイ!覗きはダメでしょ!」
男サイの隣に女サイが現れた。
「わたしは見てもイイだろ?」
「ああもうややこしいこと言わないで!それよりサイ、もっとたいへんなことが起こってるんだから!」
「ああ」男サイが言った。「ナツミのうしろにドラゴンがいる」
「えっ!?」
わたしはビクッと跳ね起きた。
「おお」
夢?わたしは見慣れない光景をキョロキョロ見渡した。ここどこ?
ああ、テントの中。
なんの夢だったか必死に思い起こそうとしたけど、掌から砂がこぼれ落ちるように記憶が蒸発してゆく。
入れ替わるように現実の記憶が蘇ってきた……
(あ、そうだ寝袋に収まってるんだ)
なんとか腕を上げてファスナーを降ろして、寝袋から身体を引き抜いた。
テントの中は空だ。
わたしはフラップを掻き分けて外に出た。
「寒っ!」
「ああナツミおはよう」焚火に屈みこんでいたシャロンが言った。
「おはようございますっ」わたしも挨拶を返しながら焚火に駆け寄った。両手を炎にかざして、冷えたほっぺに当てた。
「わたし寝坊しちゃった?」
「いや、そうでもない」シャロンはもういっぽうのテントに顔を向けた。「ディーはまだぐうぐう寝てる」
ジョーが鍋を片手に現れた。
「サイファーが見張り交代するまで鮫島一尉と夜中まで男同士語り合ってたらしいよ。ビールかっ食らいつつ」
ジョーがスプーンで鍋の中身をすくって、シャロンに味見させた。「イイね」シャロンがうなずいた。
「朝ごはんですか?」スパイシーな良い香りが漂ってる。
「うん、あたしん家特製のチリだぞ~」
コーヒーを一杯飲むあいだに全員が目を覚まし、みんなで朝の準備体操した。前日の疲れで乳酸が溜まってる筋肉をほぐさなければ……とくにわたしは。
朝食はアメリカンスタイル。
ジョーのチリビーンズにベーコン、そして蜂蜜をかけたチーズトースト。
朝にチリなんてどーなのって思ったけれど……つかこれ美味しいな。カリカリベーコンとチーズトーストと交互に味わうとなんかクセになりそう。
ベーコンはスライス済みの真空包装のやつじゃなくて、油紙に包んだデカい塊を持ち込んでる。チーズもそうだった。
豪快です。西部劇っぽいね。
撤収作業も手早く済ませ、鮫島さんがゴミをチェックして(ずいぶんキッチリしてると思ったけれど、マナーというより特殊部隊のクセで痕跡を無くしてるらしい……)出発の準備が整った。
わたしたちはトレッキングを再開した。
目指すは台形のお山!




