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110  玉座


 「ここが隠し通路かな?」


 地下神殿の奥で無遠慮な声が響いて、女衛士たちがギョッとした。

 デスペラン一行がテレポートして来たのだ。

 衛士たちはやっと任務を思い出したようにばらばら動き出してですぴーたちを取り囲んだ。

 「止まれ!アメリカ人ども!止まれっ!」

 青竜刀を構えて必死に威嚇してる。

 たぶん彼女たちも〈魔導律〉をシェアされた戦士だったのだろう。でもそれはメイヴさんに取り上げられてしまった。

 「やめろ、お嬢さんたち」ですぴーが言った。

 「ここは、おまえたち卑しき輩が踏み入る場所ではないのだ――!」

 ついさっきサイに投げつけた言葉をまた繰り返してるけれど、必死に訴えかける調子に自信喪失から来る悲壮感がにじんでいた。

 ですぴーは立ち止まりもせず、無言でパチンと指を鳴らした。

 構えていた青竜刀が消失して、女衛士たちはハッと息を呑んだ。

 「死にたくねえなら、失せろ」

 衛士たちは今度こそ困惑して立ち尽くしていた。

 ですぴーたちがそばを通り過ぎてもバツが悪そうに仲間同士顔を見合わせるだけで、誰も身動きしない。


 サイが振り返り、階段をのし歩いてくるですぴーにうなずいた。

 「サイファー」

 「デスペラン」

 サイはですぴーの背後に立つメイヴさんに目を留めた。

 「メイヴ・ウィンスター!」サイがひどく嬉しそうな声で叫んだ。でもメイヴさんは胡散臭げに目をすがめた。

 「あんたがサイファー!?」

 「あーっと……」ですぴーが困ったように頭を掻いた。

 サイは苦笑した。「そうだ。元の姿に戻ったのだ」

 「ああ!」メイヴさんは目を見張った。「へえ」

 メイガンが階段を駆け上がってわたしたちの側に来た。

 「この男は誰だ?」サイが尋ねた。

 メイガンは玉座の傍らに屈んで、ひどく難しい顔で白装束の男を眺めていた。

 「エ~……この人は」言いにくそうに言葉をとぎらせた。「――主席、だと思う」

 「主席?」

 「中華人民共和国主席よ……なんだか少し若返ってるようだけれど」


 「マジかよ」階段の途中でボブが言った。「今日はいろいろあったけどよ、もうたまげることなんざないと思ってたのに」

 「宇宙人にアトランティスに()()だもんね……」ジョーもやれやれと首を振った。

 鮫島さんに至っては目をギュッと閉じて、(俺はなんてとんでもない事態に巻き込まれたんだろう)と後悔してる様子だ。

 「どうすんの()()」シャロンも困惑している。「移送する?」

 「まさか!放置して帰るしかないでしょ。みんなもこれを見たことは忘れて」

 「そうだよ」ブライアンも言った。「ソーッと、帰ろうぜ」


 「そうもいかないわ」

 メイヴさんが階段を上がりながら言った。手前のサファイアブルーの塊に触れた。

 「この膨大な量の人工魔導律をこの男が食らおうとしてる。やめさせないと」

 「まさか……この人を殺すって言うんじゃないですよね?」メイガンが不安げに尋ねた。

 「――というか、もう死んでるように見えますが……」

 「残念ながら死んでいないし、放置すればとんでもないモンスターになるかもしれない」

 「メイヴ、おまえがシェアした〈魔導律〉だろ?取り上げれば済む話じゃねえのか?」

 メイヴさんは首を振って、青い石をポンポンと叩いた。

 「これは彼ら自身がどうやってか作り出したのよ。それにどのみち量が多すぎてわたしにはどうにも出来ない」

 「人工的に作り出した〈魔導律〉?」メイガンが呟いた。「中国人の科学ってすごいわね……」

「しかしどうしていまここで?」ブライアンが言った。

 メイガンが顎に拳を当てて考えながら答えた。

 「異星人がここに現れたので、研究を奪われるんじゃないかと焦ったんでしょうね……彼はパワーが欲しかったのだと思う。ここの装飾を見れば一目瞭然だけど、皇帝になろうとしてたのよ。古代中国皇帝が試みたように、不死身の皇帝に」


 「わっ!」メイヴさんがとつぜん台座につんのめった。

 なにが起こったのかは明らかだ。

 メイヴさんが寄りかかってた台座の石が消えたのだ。

 「まずい」サイが言った。

 「散開!」ですぴーが叫んだ。


 みんな一斉に回れ右して階段を駆け下りて、女衛士の一団が所在なく突っ立ってる広場に向かって走った。

 わたしは例によってサイに床から引っこ抜かれて、抱きかかえられたままサイが跳躍した。


 だけど、逃げ出したわたしたちを、青みがかった霧が突風のように追い抜いた。その霧が行く手を遮るように渦巻き、どんどん濃密に凝固して形を成していった。

 

 怪獣――っていうかドラゴンなのかな?禍々しい翼が生えた、のたうつ鱗の――


 「地下迷宮でドラゴンかよ!」ボブが叫んだ。「ヴィデオゲームしすぎた天罰かなんかか!?」


 そんなものが頭上に現れて、衛士の女の子たちはてんで散り散りに逃げ惑っていた。

 

 『活きの良いおなごじゃあ!』

 ドラゴンが裂けた口から銅鑼声を響かせた。それから女衛士のひとりをかぎ爪でかっさらうと、ワニみたいに開けた大口に放り込んだ。 


 「ゲッ!喰った……!」ブライアンが嫌悪に顔をしかめて言った。


 メイガンが走りながら叫んだ。「ディー!あんなのどうやって対抗するの!?」

 「とりあえず戦うことは考えるな!まず地上に出るぞ!」

 ですぴーは手近にいる人間からテレポートさせ始めた。Aチームも女衛士たちも、誰彼かまわず。


 いっぽうドラゴンはわたしとサイに関心を寄せていた……。

 巨大な目玉がわたしを見据えてる。

 「サイ、あいつわたしたちをじっと見てるんだけど……」

 「無理もないよ」サイが言った。「ちょうど良い、デスペランが全員逃がすまでやつの気を引こう」

 

 逃走する一部は出入り口に逃げ込み、残りはですぴーのまわりに集まってゆく。

 メイガンと鮫島さんもトンネルに戻るようだ。


 「サイファー!」メイヴさんが呼びかけてる。「もうみんな逃げ切ったわ!あんたも逃げて!」

 「分かった!」

 サイはわたしを抱っこしたまま立ち止まり、ドラゴンにじっくり姿を拝めさせると、テレポートした。


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