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106 戦場の貴腐人


メイガンは大きな四角い機械に屈みこんでいる。ザーザー雑音が聞こえてる様子からして、無線機かな。アンテナ立ててるし。


 メイヴさんと鮫島さんはあたりを警戒して歩き回っていた。


 わたしはとくにすることもないので、ハリー軍曹を抱っこしたりじゃらしたりしていた。

こんなことしてると「なにをそんなに呑気な」と言われるかもしれないけど、わたしはめっちゃ気を揉んでたのよ!

 それなのになにも出来ないんだから……。


 「わたし無力だねハリー?」

 「フニャー」

 「そ、ありがとね」

 「ニャーオ」

 「ユリナちゃんと遊びたい?分かったよ。サイが戻ってきたら一緒にね」

 「ナオ」

 ハリー軍曹は身をよじってわたしの腕から躍り出た。メイヴさんの足元に走り寄って何やら話しかけてる。

 「ニャー」

 「あらこんにちわ、あんたデスペランの使い魔なんだ」

 さすが、ハリーの猫語がまじで通じてる。


無線機に屈みこんでいるメイガンの隣に、鮫島さんが立ち止まった。双眼鏡を覗きながら話しかけていた。

 「どんな様子です?」

 「人民解放軍は混乱してる。上空の宇宙船を無傷で捕獲しろと指令が飛んでるけど、どうすればそんなこと出来るのか指示してくれって現場の怒号が交錯してる感じ」

 「あの断崖の向こうに〈ハイパワー〉の宇宙船が浮かんでるんだな?それで、捕獲する方法が思いつかないのでとりあえず攻撃してるのか……まあ無理もないか」

 「兵隊を繰り出さず消極的なドローン攻撃中心なのもね」

 「おっ戦車が動き出したようです」

 鮫島さんが双眼鏡を渡すと、メイガンが立ち上がって見た。

 「そうね、進撃を開始してる……T-99にしては砲塔がやけに平たいけど、もしかして最新の無人MBTかも」

 「あーあ、この映像、持ち帰れたらどれほど貴重か」


 空の向こうからキューン!って音が聞こえて、わたしたちの頭上を三機編隊の飛行機が飛び過ぎた。

 「Su-27――J-11だ。爆撃するつもりらしい」

 「やけっぱちになってきたわね。ディーに連絡しとかないと」


 以上、わたしにはちんぷんかんぷんの会話でした。


 サイを連れ戻すためとは言え、沙漠で、戦車が走り回ったり戦闘機が飛んでるまっただ中に居るわたしって、どこでどう間違ってこんなんなってるんだか?

 三ヶ月前までニートやってたOLですよ?

 しかも埼玉県民なのに。


 しゃがみ込んでるわたしの傍らにハリー軍曹が舞い戻ってきた。顔を上げると、メイヴさんもこちらに歩いてくる。

 「分からないわ。彼らはなにをしているの?」

 断崖の向こうのドンパチに手を振りながら言った。

 「あーっと。あの、戦争……かな?」

 「戦争?」ぽかんとしていた。「あれが、戦争?」

 「はあ……おそらく」

 「そう。わたしが古文書で読んだのとはだいぶ勝手が違うようね」

 「え、メイヴさんの世界は、戦争とかないんですか?」

 「無くはないけど。事実わたしはサイファーと一緒に世界王と戦ってるし。その前が凶帝ホス動乱かな。この世界の暦で30万年くらい昔」

 「たったそれだけ?」

 メイヴさんはかぶりを振った。

 「広い世界だもの。滅多にいさかいは起こらないわよ」

 「そっそれじゃ、軍隊なんて無い……とか?」

 「どうしても必要なときには志願者を募るの。ドラゴンスレイヤーとか専門家をね。サイファーのようなソウルテイカーが必要なときは滅多にないんだけれど」

 「ソ、ソウルテイカー?」

 メイヴさんは重々しくうなずいた。

 「文字通り魂を滅する特別な武具を授けられたもの。あの子が苦労して取得した邪剣〈デスリリウム〉はそれなの。取得者の名前にも〈デス〉が冠される……」

 「そうだったんですか……」

 ていうか、邪剣? すごく、ヘビーな話だ。

 「それじゃあサイファーも、デスペランさんもソウルテイカーなんですか」

 メイヴさんは朗らかに笑った。

 「違う違う、デスペランはまた違う理由なのよ。あとで本人に訊いてみれば?」

 「そうします」


 鮫島さんがわたしたちの側に歩いてきた。

 「あの……メイヴさん?」

 「はい」

 「どうも、鮫島ウシオと申します。じつは、これ預かってまして」

 鮫島さんは懐から羊皮紙の巻物を取り出した。

 「ああそれ」

 メイヴさんは巻物を受け取って広げた。羊皮紙の表面に指を走らせると、ぼんやり光る文字が浮かぶ。

 「ずいぶん多くひとづてに渡ったものだわね……」

 「あなたが救出されるまで預かるようサイファーに言われたのだが」

 「それはそれは」メイヴさんはしばらく羊皮紙を眺めると、ふたたび指を走らせて何やら呪文を唱えた。それから鮫島さんに返してよこした。

 「あなたが持っていて。わたしの物じゃないから」

 「え?いいんですか?」

 「けっこうよ。ついでにいろんな人にシェアした〈魔導律〉を整理したので、あなたのパワーは上がってます。注意して使ってね」

 「そ、そうなんですか。了解です」

 鮫島さんは巻物を懐に収めると、そそくさと立ち去った。

 やっぱり男の人はあの「パワー」がほしいのかな?

 空飛んだりいろいろできるもんね。


 あっという間に時間が過ぎて、ですぴー一行が戻ってきた。


 ですぴーがペットボトルの水をラッパ飲みして言った。

 「サイファーがいねえ」

 「ご苦労様」メイガンがAチームにペットボトルを配りながら尋ねた。「どんな感じ?」

 「ざっと見た感じ、中国軍が一方的に〈ハイパワー〉を攻撃してる」地べたに座り込んだジョーが言った。汗だくになってる。

 「ヘリが二機、クレーター湖の孤島に着陸してた。特殊部隊じゃないかな」

 「ヘンな建物が建ってたあの島ですね?」わたしは思わず口を挟んだ。

 「そうそれ、天井に大きな穴が空いてる。あの宇宙船もその上空に浮かんでる」

 「その穴は〈ハイパワー〉の山田くんが開けた穴です。宇宙船からビーム攻撃して」

 「やっぱりビーム撃てるんだ……」

 わたしはうなずいた。

 「わたしその場にいました。その穴から地下に向かって、メイヴさんを見つけたんです」

 シャロンが言った。「そのときサイファーはどうしてたのか、分かる?」

 「それが……直前まで宇宙船の表面に立って剣をザクザク突き立ててたんですけど、そのあとは――」

 「常識的に考えれば、ナツミを追って地下に向かったよな?」ブライアンが言った。


 「あらやだ、そうなの?」メイヴさんが口を挟んだ。

 ですぴーがメイヴさんに尋ねた。

 「あらやだって、なんのことだメイヴ」

 「地下の大きな空洞でね、わたし暇を持て余してたのでいろんな傀儡やカラクリを作ったのよ。なに作ってもみんな大喜びしてくれたものだから、ついつい……」

 「ついつい、なにを作ったって?」

 「万が一、凶帝ホスの子孫がやってきた場合に備えて、強力な〈魔導律〉に反応するトラップをいろいろと……」

 「まじか」ですぴーの表情が険しくなった。「おまえが本気で作ったトラップかよ!それじゃサイファーだって容易に突破できんだろが!」

 「かもしれないわねー」

 「えっでもでも」わたしは思わず手を上げていた。

 「わたしが山田くんとその地下トンネルを通ったときは、なにも起きませんでしたよ?確か〈魔導律〉いっぱい貯めてるって言われてたんですけれど」


 ですぴーが腕組みしてわたしを見ていた。

 それからメイヴに目を遣った。

 「極めて気が進まねえが――」

 メイヴがうなずいた。

 「わたしと、ナツミさんが行ったほうが良いか」

 

 

 どうやらわたしは余計なことを言ってしまったようだ。


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