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105 トンボ返り


 とにかく、メイヴさんはけっきょく同行した。


 「瞬間移動なら楽なもんだしね」

 「どうだかな」ですぴーは苦笑した。「居所の見当は大雑把だし」

 

 ですぴーはわたしたちと一緒に川越市内のタワマンに瞬間移動した。Aチームにはあらかじめ連絡を入れておいたので、彼らは完全装備で待機していた。

 「ボス、行くんですか?」

 「ああボブ、ほかのみんなも、悪いがちょっと付き合え」

 「地獄まで付き合いますよ」

 鮫島さんは顔色が悪かったけど、参加するようだ。

 「仕方ない。僕だけイチ抜けはできない」

 「巌津和尚にもご同道いただきてえが、さすがにまだ帰ってこねえか……」

 わたしは尋ねた。「あの人、どうしたんですか?」

 「天草カオリを封印するんで、新宿の技術本部に運んでもらってる」

 「ああ……異星人――じゃなくて〈ハイパワー〉の手先だった……」

 わたしが不在だったわずか数時間に、いろんなことが起こったらしい。最後に見た天草さんはケーキを買いに出掛ける姿だったのに……。


 メイガンは新顔を見ていた。

 「あなたが……サイファーの言っていたメイヴ?」

 「いかにも」メイヴさんはにこやかに応じた。

 メイガンはですぴーに顔を向けた。

 「わたしたちの協力なしでやり遂げたわけね」素っ気ない口調だ。

 ですぴーはにやりとした。

 「それどころか、俺もサイファーもなにもしてねえ。ナツミの機転で救出できたんだ」

 「それじゃ我が国が既得権益を主張するわけにも行かないか……」メイガンは諦めのため息を漏らした。「それはそうとナツミ、どうやって逃げて来られたのか、とても興味があるわ」

 「え?ま、まあメイヴさんが、トンネルをこさえてたんで……」

 「ふーん」

 めっちゃ疑われてる。

 「まあいいじゃねえか、メイガン&メイヴ、理系女子シスター誕生だぜ」

 「意味不明なこと言ってごまかそうとしても無駄」

 「メイガン&メイヴ、金髪だし韻も踏んでる」

 「踏んでないわよ」メイヴさんも言った。

 「俺は、頭のいい女が好きだ」

 「まーあんたには縁がないタイプだわね」

 「あらためて、メイヴ」メイガンがメイヴさんに手を差し出した。「メイガン・マーシャルです。アメリカ空軍中尉」

 「メイヴ・ウィンスターよ、マーシャル中尉。よろしくね」

 ふたりは馬が合うようだ。がっしり握手を交わした。

 


 メイガンとAチームを加えたわたしたち総勢9人は、中国に瞬間移動した。

 正確に言うと9人と猫一匹。ハリー軍曹も参加している。


 メイヴさんが幽閉されてた砂漠地帯に逆戻りしたのだ。

 正確には、あのクレーターの湖から10キロメートルほど手前の荒野。それだけ離れてるけれど、なにやらキナ臭い。

 文字通り、焦げた匂いやら埃の匂いやらが漂ってた。

 それに戦車が轟音を立てて走る、そのそばだった。


 「派手に動員してやがるな」

 戦車の車列はわたしたちの20メートルほど先を、濛々と砂塵を巻き上げながら走り抜けてる。

 トラックの荷台に乗った兵隊さんたちも、わたしたちの姿を気にする間もない。

 たちまち「敵だ!」って銃を向けられて囲まれるんじゃないかと思ったけれど、案外そうでもないのね。


 わたしたちは近場のメサ――西部劇の舞台によくある切り立った岩の陰に、即席の拠点を作った。迷彩柄の天幕を張った簡易テントだ。

 高い傾斜地なので見晴らしが効く。遠くの切り立った崖の向こうに黒煙が幾筋も立ちのぼっているのが見えた。トントン、タンタンという乾いた音も聞こえてきた。

 メイガンが双眼鏡を覗いていた。

 「ドローンが飛び回ってる。予測通り陸上兵力は動員されてないようよ。機甲兵団は手前に駐屯して……様子見ってとこかしら」

 「一人っ子政策のたまものってとこか」傍らでジョーが言った。「兵隊を戦地に送りたくないんだ」

 「お偉いさんも、送ってもすぐに逃げ出すって分かってるのよ。相手がスーパーテクノロジーの異星人では余計に」

 ボブも双眼鏡を構えながら言った。「ここに来てもメンツを気にするかね。俺たちには都合がいいけどな。余計な殺生せずに済む」

 「だけどサイファーはどこにいるのか、ここからじゃ分からない」

 「衛星で上から見れないか?」

 「わたしたちはお忍びでここに来てるの。偵察衛星は利用できない」

 「そうだった」

 「それじゃ威力偵察(サーチ&デストロイ)だな」ですぴーが大剣を担ぎながら言った。

 「サーチだけにして。デストロイは最小限で」

 ボブが言った。

 「俺たち特殊部隊はいつだってそうだぞ。派手なドンパチは映画の話だ」

 シャロンが横目で言った。「そうだっけ?」

 「そうだろが。なんでも破壊して回ったら報告書面倒だし」

 「あたしはてっきりあんたがジョン・ランボーの真似してるのかと思ってた」

 「おまえら海兵隊と違ってSEALSは繊細でな」

 「ハハー」

 「ヤッサム」


 「鮫島一尉、あなたはこの拠点を守備願います。ナツミを守ってください」メイガンが言うと、鮫島さんは緊張した顔でうなずいた。

 自衛隊員だから、中国まで来てしまったのは完全な「逸脱行為」なのだ。バレたら大問題となる。メイガンもそのあたりを慮ってるのだろう。

 そんなわけでわたしとメイガンとメイヴさんは簡易テントに居残り、鮫島さんとハリー軍曹が護衛する。

 


 「分かったな?俺たちはサイファーを見つけて、帰るぞって声かけるだけ。ドンパチは目的じゃねえ」

 「アイコピー、ボス」

 「とりあえず10分で一度帰ってくる」

 「了解よディー、みんなも、気をつけて」

 「それじゃ行ってくる!」


 ですぴーとAチームが大きく――100メートルくらい跳躍して、戦場に向かって飛び去った。


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