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100 インベージョンチャイナ

 

 まあ半分やけくそだったけれど、わたしは、なんとかして時間を稼がなければならない、という直感に突き動かされてたのだ。


 根拠不明だけど。


 遅まきながら軽率な判断だったかな……と思った頃には、もうハイパワーの宇宙船が進路を変えていた。


 「なるほど、我々の事前調査によるとアメリカ合衆国がもっとも熱心に〈魔導律〉の情報を収集していたのだが、国力比からしてこの中華人民共和国という国も当然狙っているわけだ……」


 とにかく、山田くんはまんまと乗ってくれて、わたしは地球にUターンしている。


 「――それに、この国のネットワークはところどころ分断されている。アメリカ合衆国よりも外的に対する備えを徹底しているらしいな……ところで人間」


 「えっ?はい」

 「本当にきみと同等のパワーを持つ者がいるのだろうね?」

 「あ~。いるって聞いたけど?……メイヴって人がどこかに幽閉されてるって……」

 「メイヴ。なるほど」

 「それよりさ……」わたしは曖昧に手を振った。「外にいるサイを収容してあげない?かわいそうなんだけど……」

 「だめだ。危険だからな」

 わたしは黙った。しつこく要求しても、山田くんに勘ぐられるだけだろう。



 わたしが眺めているあいだに地球がどんどん近づいて、まるい表面が水平になって、空が真っ黒から深い青に変化してゆく。

 雲を突き抜けると、茶色い地面が眼下に広がった。


 山田くんはなにやらスーパー偵察能力を発揮して、沙漠の真ん中に目星をつけたらしい。ネットがまったく繋がってないのに活動してる施設が怪しい、という理屈のようだ。


 ハイパワーの宇宙船は沙漠の上空をゆっくり進み続けた。

 

 やがて、クレーターみたいな切り立った円形の峰が見えてきた。

 クレーターの中は湖になっている。

 その円形湖の真ん中に、小さな島がぽつんと浮かんでいた。

 島には奇妙な建物が建っている。窓のない真っ白な立方体。屋上も真っ白で凸凹してなくて、ヘリポートらしい円が描かれてるだけだ。


 宇宙船はその真上に停止して、じっと待ち続けた。


 「な、なにしてるんです?」

 「待ってるのさ」

 「なにを?」

 「やつらの動きをだ。アメリカの時と同様にわれわれを勝手に解釈してくれれば簡単だけど、いきなり戦いを挑んでくることもあるだろう」


 わたしは喋りながら、山田くんの背後に浮かぶ楕円形モニターを盗み見た。

 サイも立ち上がって、下界を見下ろしている。

 

 やがて、山田くんが待ってた動きがあった。壁の一部に新しい楕円モニターが現れ、雲ひとつない青空と沙漠の地平線を映し出した。

 よく見ると、空にキラッときらめくモノが見える。それがたちまち大きくなって、飛行機だと分かった。

 ジェット機だ。たぶん戦闘機。ミサイルみたいなのぶら下げてるから。胴体と翼に赤い★マークがついてる。

 「燃焼機関の航空機と……戦車か」

 「ちょっと……戦争なんかやめてよね!」

 山田くんは笑った。

 「エネルギーの無駄だからやらないよ。やつらが気の済むまで撃ってくればいい。それで諦めるだろう。それより行くぞ」

 「え?どこへ――」


 またクルッと景色が回転して、わたしは軽い見当識失調に陥った。ぶっ倒れそうになったところを山田くんがうしろから支えてくれた。

 「あ……ご、ごめん」

 山田くんは無言で、背中を素っ気なく押してわたしを立ち直らせた。

 

 わたしたちは……先ほど見た、白い立方体の建物の屋上に移動したようだ。

 ギューン、バリバリバリ!という鼓膜がビリビリするほどの轟音が頭上に響き渡った。戦闘機が二機、宇宙船の上をかすめて飛び越したのだ。

 ビー! ビー! という警報も響き渡ってる。

 

 屋上の真ん中に描かれたヘリポートのしるし――赤い丸で囲まれたHの部分が突然ボコッとめくれ上がった。直径10メートルくらいの屋根が剥がれて湖にすっ飛んでいった。

 

 わたしがその超自然現象に目を奪われていると、からだが突然浮き上がった。

 「わっ!」

 山田くんも宙に浮いていた。

 わたしたちはすーっと浮いたまま移動して、建物に空いた大穴に向かって降りていった。

 「なっなんでわたしまで連れてくのよ!?」宙づりになってびびりながらわたしは叫んだ。

 山田くんは答えない。

 

 建物の内部はほとんど中空だった。壁際のキャットウォークと階段しかない。わたしたちは地面に向かってゆっくり降下してる。

 地面には厳重な金庫のような、まるいドアが横たわっていた。

 わたしたちはその厳重な扉のそばに着地した。

 「なるほど……パワーを遮断している。でも完全じゃない」

 

 突然バチン!と鉄を打つような音が響いて、わたしの視界が真っ白になった。慌てて目をつぶった。

 間もなく眉が焦げそうな熱気が押し寄せてきて、わたしは10メートルくらい後ずさった。

 一分くらいそれが続いて建物の中はうだるような暑さになったけど、ようやく終わった……わたしが目を開けると、扉に穴が空いていた。


 「よし、遮断装置が死んだ。行くぞ」

 

 わたしたちはまたしても宙に浮いて、不気味な地下世界に向かって降下した。


 わたしは天井を見上げた。


 (サイ……追いかけてきて――!)


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