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【2ー42】切り札は召喚ギフト






「ハァ……ハァ……今後こそ……終わりだァッ!」

「っ!?」


「フェルナーッ!」


 俺と同じ状況になってしまったという事で、俺は即座に動く事はできた。


 頭に浮かぶのは俺を助けてくれた護衛の行動だが、フェルナを引き寄せて救うなんていう力技は俺には出来ないだろう。


 そのため何も考えずにフェルナに突っ込む。勢いそのままに二人で地面を転がった。


 次の瞬間には剣が地面を打つ鈍い音が聞こえてきた。なんとか避ける事は出来たようだが、右足に激痛が走った。


 斬られたのか折れたのか、挫いただけなのか分からないが、力を入れると激痛が走る。



「てめぇ、最後の最後まで邪魔をすんのかよ……?」

「もう諦めろ! 聞こえるだろ!」


 意外にも冷静さが残っていたのか、誰かが走って来る音が通路の奥から聞こえてきた。


 あの二人は傭兵崩れなんかに負けない。ヴェラなのかコンラードなのか分からないが、向かって来ているのは俺達の味方なはずだ。


「あぁ、俺はもう終わりだよ……だがなぁ……! お前らも道連れだッ!」

「こ、殺すなら私だけにして下さい! ヨルヤさんだけは……!」


「馬鹿がッ! 俺が一番殺してぇのは御者なんだよッ! ただの御者のくせに……てめぇさえいなけりゃ、こんな事にはならなかったってのによォッ!」


 そういうとヤクザは再び剣を上段に構えた。プルプルと震える腕を必死に動かし、俺達を道連れにしようとする男の目は狂気に染まっていた。


 向かって来る足音は聞こえるが恐らく間に合わない。ヒュアーナも何かを叫んでいたが、聞き取るほどの余裕はなかった。


「じゃあな御者……それとも召喚士だったか? なら寂しくはないよな? あの世に行って召喚でもなんでもしてろや」

「召喚……」


 あと一体、護衛を呼べれば状況は変わっていたのだろうか。


 あとレベルを1でも上げていれば、GPにあと5ポイント振っていれば、ケチらず回復材を買っていれば。


 ゲームでもよくあるよな。もう少しレベル上げしておけば良かった、ステ振りを間違った、ケチってエリクサーを温存しちまった。


 死の間際に思ったのはそんな後悔事ばかり。俺の頭もゲーム化してしまったのか、ちょっと後悔の方向性がおかしいが。


 でも本当に惜しいんだよ。だってあと1レべルだよ? 5ポイントだよ?


 5ポイント振ってれば15ポイント残って護衛が召喚でき……護衛が……? 15ポイント……いま10ポイント……? 10?



「じゃあ……――――死ねェェェッ!!」

「10じゅじゅうッ――――従馬召喚ッ!!」


「ンなァッ!? な、なんだこの馬!? どっから……!?」

「そ、そいつを蹴り飛ばせッ! 思いっきり蹴り飛ばせッ!」


「――――」

「馬鹿かッ!? 馬が命令を聞くわァッぶゥゥゥッ!?!?」


 こいつは知らなかったみたいだが、俺の従馬は言う事をしっかりと聞くいい子なんだ。


 従馬の後ろ脚に蹴られたヤクザは机や椅子を巻き込みながら、ギャグアニメかと錯覚するほど盛大に吹き飛んでいった。


 立ち上がる気配はない。ピクピクと体が痙攣しているようだし、死んでもいないようだが。


 従馬の事をすっかり忘れていた。残りのGPが10だという事も。


 こいつを召喚していれば即終わっていたな。馬に勝てる人間は早々おらんよ。


 従馬は戦闘用ではなくあくまで馬なので失念していた……という事にしてほしい。



「ヨルヤっ!? 無事なの!? 凄い音がしたけど……ってあんた、なんでフェルナの事を抱きしめているの?」

「おぉ、ヴェラ……良かった、無事で――――」


「――――いいからまずフェルナから離れて。なんか不愉快」

「お、おう」


 なんか本当に不機嫌そうだし、フェルナも嫌かと彼女を放して立ち上がろうとする。


「いっ……!?」

「ヨ、ヨルヤさん!? 大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫……挫いたかな?」

「私の肩を掴んで下さい。立てますか?」


 激痛が走った右足だが、切れたり折れたりといった感じではなかった。


 フェルナの肩に手を置いて立ち上がるが、フェルナの背が低いせいなのか態勢を崩してしまい、フェルナにもたれ掛かってしまう。


「うぅ……お、重い……」

「悪い……」


「し、仕方ないわね! ほら、あたしの肩に手を回して……変なとこ触んじゃないわよ」

「触らねぇよ……」


 高身長のヴェラに代わってもらい、体を支えてもらう。


 肩に手を回し、半身を支えてもらうような形で立ち上がった。


 めっちゃいい匂いがするんだが……どうして女の子っていい匂いがするんだろう?



「頑張ったじゃない、見直したわ」

「おぉ、惚れたか?」


「残念、あたしを落とすには財力が足りないわね」

「はは、そうかよ」


 あと財力さえあれば落ちてくれるように聞こえるが。


 ヒュアーナはフェルナへと駆け寄り、怪我がないかを確認したあとで彼女を抱き締めた。


 とりあえず、二人が無事で良かった。どちらかに何かが起こっていたら、あの光景はなかったのだから。



「そういえばコンラードは? 帰ったのか?」

「流石に帰らないでしょ。あいつは来る途中の部屋で、簀巻きにされている男がいて……」


 ブラクのトップという事が分かり、違法カジノ運営の法律違反は見逃せないと対処中らしい。


 簀巻きって、ヒュアーナが? 流石は元祖女王様か。


 しばらくすれば応援のポリス達がやってくるとか。その前に出た方がよくないか?


「だ、大丈夫だよな? あそこに死体があんだけど……」

「そんな事いったら、フロアには二十以上の死体があるわよ?」


 さらっと言うが、色々な意味で凄い事だぞ。


 気絶させているだけとか、都合がいいのは漫画の世界だけなのかもしれないが。


 奪われる前に奪う、殺される前に殺すのは当たり前の世界。


 まぁコンラードが何とかしてくれるだろう。多分、恐らく、きっと。


「まぁとりあえず、ありがとなヴェラ」

「えぇ、あなたもお疲れ様」


 足が痛む振りをしてヴェラにもたれ掛かる。


 インベントリに回復材が大量にあるのだが、もう少し黙っていよう。


 頑張ったんだ。俺も少しくらい褒美を貰ってもいいよな。


お読み頂き、ありがとうございます

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