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【2ー40】武器を持った反社vsムチを持った御者






 さて、意気込んでやってやるとは言ったもののどうするか。


 ヤクザは用心棒が落とした剣を拾い、装備してしまった。勇者の剣と比べると切れ味は悪そうだが、脅威には変わりない。


 バトルシステムは第三者の介入、フェルナの登場によってコマンドバトルからアクションバトルに強制変更されている。


 コマンドバトルはステータスゲーだ。剣を装備しても攻撃力に数値がプラスされるだけで、そこまでの脅威ではなかっただろう。


 だがアクションバトルで剣を装備となれば話が変わる。


 どこかで聞いた事がある、刃物を持った素人には格闘家でも勝てないと。それほどまでに武力を与えてくれるものなのだ。


 斬られれば痛いでは済まない。血は噴き出るだろうし、手足が斬り落とされる可能性だってある。


 一撃死、そんな事だって十分にあり得るだろう。それがリアルバトルで武器を装備するという事だ。



「どうした? 召喚しねぇのかよ? それとも日の恩寵を使い切ったか?」

「日の恩寵……?」


「何を惚けてやがる? スキルギフトは回数制、日に使用回数の制限があるだろうが。召喚なんて強力なギフト、一日に数回しか使えなくても不思議じゃねぇよな?」

「…………」


「そういう事なら怖くねぇ。さっさと終わらせてもらおうかッ!」


 俺以外の者のギフト使用に関する知識を得たが、それ所ではない。


 両手で剣を持ち凶悪な表情をした脅威が迫って来る。これから命を奪うといった行動の威圧感は凄まじく、足が竦んでしまう。


「ヨ、ヨルヤさん! 逃げて、逃げて下さい!」


 フェルナの叫び声にハッとさせられる。


 足を竦ませている場合じゃない。俺がやられたら、フェルナにも最悪な未来が訪れる事は間違いない。



「くっ……」

「避けてんじゃ……ねぇよッ! さっさと死ねぇ!」


 ギリギリの所で振り下ろされた剣を回避する。無様に地面を転がっての回避だが、四の五の言ってはいられない。


 しかし、避けられたのは偶然ではなさそうだ。


 先のダメージのせいか、ヤクザは僅かだがフラついている。それに先ほどの振り下ろし、俺でも見切れるほどに遅かったし剣筋もブレブレだった。


 こいつ、その剣を全く扱えていない。


「オォラァァァァッ!」

「――――ッ!」


 再び大げさに地面を転がって剣戟を回避する。そして思う、やはり間違いない。


 剣が重いのだろう、奴は剣を振り下ろす事しか出来ないようだった。重力に逆らった斬り上げや、体を持って行かれる横薙は出来ないっぽい。


 それならいける、焦らず動けば回避できる。


 振り下ろした剣が地面を撃った後、持ち上げるまでに大きな隙が生まれている。


 素人の俺でも分かる反撃のタイミング、狙うならそこしかない。



「逃げてんじゃねぇぇッ!」

「――――クッ……ここだッ!!」


「ガッ!?」


 再び振り下ろされた剣を冷静に回避すると、予想通り隙が生まれた。


 その隙にすかさず攻撃を加える、奴の顔面にパンチをくれてやった。


 態勢が悪かったので力が入りきらない殴打となってしまったが、何度か繰り返せば奴は倒れてくれるはず。


「チッ……ふざけやがってッ!」

「鼻血でてるぞ? 大丈夫かよ?」


「ウルセェェェェッ!!」


 再び上段に剣を構え迫って来るヤクザ。学習しない奴だと、再びその剣筋の見切りに入る。


 これでも元バスの運転手。目の良さと反射神経には自信があるんだよ!



「死ねェェェェッ!」

「そう簡単に死ぬかよ! 次は鼻の骨を――――んなっ!?」


 振り下ろしを躱そうと足を動かした瞬間、視界が回った。


 何が起きたのかと考える前に俺は地面に倒れ込む。即座に視線をヤクザに戻すと、奴は剣を振り上げたまま俺を見下ろしていた。


 足払いだと……!?


 足になにか衝撃を感じた途端に視界が回った。剣先にばかり集中していて、足の動きなんて見ていなかった。


「ハハハ、確かに俺は剣もまともに振れねぇ非力だがよ……馬鹿じゃねぇんだよッ!」


 ヤクザは俺が剣の振り下ろしを回避して、その後に反撃するという狙いを読んでいた。


 視線が剣先に固定されている事にも気づいたヤクザは、再び同じ行動を取る愚か者のように見せかけて、疎かになっている足元を狙ってきた。


 非力で戦闘能力に乏しいが、奴には狡猾な頭がある。何度も見切られているのに、考えなしに突っ込んでくるはずがなかったのだ。



「ヨルヤさん!? ダメッ! やめてッ! やめてぇぇぇっ!!」


「うるせェな? 次はてめぇだから安心しろよ? んじゃあ……あの世でハイセルによろしくな? あばよ御者ァァッ!」


 倒れている俺を目掛けて剣が振り下ろされた。重力に従ったその剣は、真っすぐに俺の頭に迫って来る。


 死の脅威が迫る。頭では分かっているのに、体が回避の行動を取ってくれない。


 死ぬ……? こんな呆気なく死ぬのか……? そんな事を思える余裕があるほど、その瞬間はスローに感じられた。


 無意識に目を瞑ってしまう。それは死から逃げたいから行われた行為なのか、自分の死を見たくないからなのか。


 どちらにしろ、俺は自分で幕を降ろしてしまったのだ。



「――――うッ!?」


 逃れようがない死の剣戟。その痛みはどんなものなのか? まさに身を引き裂かれるような激痛なのか、それとも痛みなどなく即座に意識がなくなるのか。


 少なくとも、誰かに襟を引っ張られ、息が出来なくなって苦しくなる……などという今のような感じではないだろう。


 そう、俺に剣戟は届かなかった。誰かが俺の襟を引っ張って助けてくれた。


 そしてその者は俺の代りに死の剣戟をその身に浴び、靄となって消えていった。


「ご、護衛……? ヒュアーナさんの所の……?」


 消える前に少しだけ見えた背中、服装はヒュアーナの安全のためにと召喚した女護衛のものに見えた。


 靄となって消えた事からも、俺の護衛という事は間違いない。


 だとしたらヒュアーナはどうした? いやその前に、まずは体を起こして態勢を整えなければ、護衛の行動が無駄になる。



「てめぇ……まだ護衛を隠してやがったのか。だが残念、お前を助けるだけで精一杯だったようだなぁ」

「……ほんと俺は、護衛がいないと何もできないな……」


 護衛がいなけりゃ何回死んでいた事か。まぁそもそもいなければ、ここにいる事もなかったんだろうが。


 なんであれ護衛が繋いでくれた命。もう二度と自分から幕を降ろしたりはしないと誓う。


「まだ隠していねぇだろうな? 面倒な事になる前に終わらせるぜ」

「くっ……」


 だがしかし、状況は変わらず不利だ。


 奴の攻撃オプションは一つと言っても、その一つが致命の一撃。下手に動いたら簡単に殺されてしまう。


 せめてもの救いは奴が剣の扱いに慣れていない事。俺にも奴のような剣があれば、なんとかイーブンには持ち込めるのだが。



「ヨルヤさん! これを使って下さいっ!」


 そんな事を考えていると、背後から女性の声が聞こえてきた。この場にいる女性はフェルナのみだが、フェルナの声ではない。


 振り向くと、そこにいたのはヒュアーナだった。


 無事だった事に一先ず安堵する。相変わらず煽情的な格好で目のやり場に困るが、女王様プレイが終わって駆けつけてくれたのだろうか?


 そんなヒュアーナから何かが投げられ、俺の足元に転がった。


 なぜこんな物を……と思ったが、俺はないよりマシかとそれを拾う。


 なんでこんな手に馴染むんだよ……? 俺は女王様じゃねぇぞ……ってそうか、御者だからか?



「……てめぇ、舐めてんのか?」

「いや、舐めている……わけじゃないんだが……」


「そんな玩具でどうするってんだ!? ふざけてんじゃねぇぞ!?」

「ふ、ふざけてねぇよ! 立派な武器だろうが! ドラ〇エにも登場すんだぞ!?」


 ヨルヤはSMプレイ用の皮鞭を装備した。


 いやうん、分かるよ? 鞭って確かにそっちのイメージだけど、聞いた話だと拷問用の鞭とかは皮が剥がれるほど強力らしいし。


 まぁこれはどう見てもSMプレイ用だが。


 いやちょっと待てよ? まさかこれ、あの小太りのオッサンに使用した鞭じゃないだろうな?


 すっげぇ嫌なんだけど。これ一応、ラストバトルだよ?


お読み頂き、ありがとうございます

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