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【2ー39】知らない方が幸せなんて……






「ハイセル・バドスは、中々にやり手な男だった」


 フェルナの乱入で更にイベントが進行していく。物語は過去の話、今回の騒動の根幹についてである。


 ヤクザの言う通り知らない方がいい話なのかもしれない。それを聞いた時にフェルナ達がどう思うのか、俺には分からない。



「奴には商才があった。そして金を稼ぐために馬車商会を興した」

「金を稼ぐためって、そんな言い方……」


「事実だろ? 生きるためだろうが遊ぶためだろうが、家族を養うためだろうが、どんな理由であれ人は金を稼ぐために働き、知恵を回す」

「…………」


「俺達もそうだ。全ては金のために動いている」

「……それがお父さんと何の関係があるって言うんですか」


「ハイセル・バドスの馬車商会は、実に順調に売り上げを伸ばしていた。そのまま行けば、なに一つ不自由なく暮らせるだけの金が手に入った事だろう」

「…………」


「だから俺達は目を付けた。ある程度の金と成功の経験があり、家族がいるハイセルにな」

「……意味が分かりません」


「お前達の商売、ある時を境に急に上手く行かなくなったんじゃないか?」

「どういう事……? まさか……」


「そう、俺達の仕業だ。バドス商会にちょっかいを出し、商売の邪魔をし始めたのさ」

「なんで……そんなこと……」


 それがブラク商会のやり方。金の稼ぎ方は他者を落とし、騙し、毟り取る。


 事業が上手く行っていたバドス商会に近づき、こっそり商売の邪魔を行う。


 その邪魔のせいで、商売は徐々に上手く行かなくなっていった。


 ハイセル・バドスは状況打開のため知恵を絞る。馬車の性能が悪いのかと、借金をしてまで新しい馬車を購入したりした。


 しかしそれでも上手く行かない。ハイセルは悩むが、打開策は生まれない。


 ここで立ち止まる者は多い。下手に動いて借金が膨らんでしまったら、目も当てられないからだ。


 しかしハイセルは立ち止まらず動き続けた。なまじ成功していた経験と、家族という守る者達がいたからである。



「そして俺達は奴に接触し、策を授けてやった」

「なにを偉そうにっ……!」


「ギャンブルで金を稼げばいい。そこで得た金で商会を立て直せばいいと」

「そんな話に、お父さんが乗るはずがないっ!」


「もちろん、普通は乗らない。だけど言っただろ、策を授けてやったって」


 ギャンブルに高確率で勝てる方法という、なんとも怪しい話。


 初めは怪しんで断っていたハイセルだが、ある時息抜きを兼ねてギャンブル場に足を運んだそうな。


 表向きは有名な大商会であるビクス商会の賭場。違法な賭博場ではないと誰もが思う。


 しかし実際にハイセルがギャンブルを行ったのは、ブラクが運営する賭場であった。


 そこでブラクはイカサマをしてハイセルを勝たせる。勝率は実に八割。


 悪いとは思いつつも、ハイセルはイカサマギャンブルで徐々に金を稼いでいった。


 しかし夢を見せるのはここまで。


 今度は逆に敗けの割合を多くして、ハイセルの資金を回収する。



「資金が減り出し焦り始めたハイセルに、俺達は一つの提案をした」

「……大勝負」


「そうだ。勝てば借金の全てがチャラに出来るほどの金を手にするが、敗ければ……」


 その大勝負、不足分の担保となっていたのが馬車だった。


 持ち金の全てと馬車を担保に、ハイセルは大勝負に出る。


 成功しない商売を捨て、ありもしないギャンブルに勝てるという方法に縋ってしまった。


 全てをリセットするため。再び馬車商会として成功し、家族を守るために。


 しかし早々上手い話などない。もちろん全てがブラクによって仕組まれていた。



「奴は大負けし、全てを失う予定だったんだが……」

「…………」


「こっちにミスがあって、アイツは勝っちまったんだよ」

「それで……お父さんを殺した……?」


「ハッハハハハッ! 殺すまでもねぇ。アイツが心臓発作で死んだのは本当だよ! 勝ったのに間抜けだよなぁ? お陰でいい迷惑だったぜ!」

「ふざけないで! そもそもあなた達が……!」


 殺された訳ではないようだが、そもそもの原因はブラク商会である。


 勝った瞬間、心臓発作で死んでしまった瞬間を店に来ていた何人かの客が目撃した。


 その者達によって噂が拡散される。ハイセル・バドスはギャンブル狂で、大勝負に勝ったのに死んでしまった間抜けである。


 しかし勝ったのは事実。ブラク商会は馬車に手を出せなくなってしまった。


 勝ったのに馬車が差し押さえられたと世間が知れば、面倒な事になってしまうからだ。


 だから数年待った。バドス商会が潰れ行くのは時間の問題、潰れかけの商会から馬車がなくなっても誰も不思議に思わない。


 しかしここで思わぬ介入があった。


 死に行くだけの商会に、光を与える邪魔な存在が現れたのだ。



「世界警察を買収して勝ち分も押さえたってのに、まさかバドスが息を吹き返すとは思ってもいなかった」

「俺が来たから、計画を早めたのか」


「商業ギルドの絡みもあってなぁ。世界警察より面倒な連中だからよ。怪しまれないように念入りに手を回し、慎重に動いたんだぜ?」


 ハイセルが負けたとしても馬車を差し押さえるつもりなどなく、借金だけを背負わせる計画だったようだ。


 商才があるハイセルなら、邪魔が入らなければ再び金を稼ぎ出すだろう。


 その稼いだ金をブラクが毟り取る予定だった。だがハイセルは勝ってしまい、死んでしまった。


 計画を変更する。馬車を手に入れ売り払う、ついでに娘を娼婦にして金を稼がせようかと。


 しかしすぐには動けない。周りに怪しまれないタイミング、関心がなくなる時を待った。


 そこに俺が現れた。俺の正体や現れた理由など、様子を見るために期日を数日伸ばした。


 たかが数日期日を伸ばした所で間に合うはずがない。期日が来たら金と馬車、娘を頂くつもりだった。


 そしてあの日、ブラクの命令でヒュアーナの元に向かった時、思いもしないほど金を稼いでいる事が判明した。


 即座に計画を変更する。それほど金を稼ぐ能力があるのなら、稼いでもらえばいい。


 当初ハイセルにやらせようとした事を、俺にやらせようとしたのだ。


 奴らにとって計画外だったのは、フェルナに金を盗む所を見られてしまった事。


 そして俺が、銀等級の冒険者と世界警察のジャッジを引き連れて現れた事だ。



「数年も待ったんだ。商業ギルドに怪しまれようが何だろうが、このまま終わらせられねぇんだよ」

「予想以上のドクズだったな……」


「こっちにこの書類がある限り、まだどうにかなるんだよ。悪いがお前達には死んでもらうぜ? 俺は正当防衛でお前らを殺すって筋書きだ」



『第三者の介入により、バトルシステムをリアルタイムアクションバトルに変更します』



 そうアナウンスが流れると、ヤクザは歩き出した。


 倒れている用心棒に近付いて落ちている剣を拾い、切っ先を俺に向ける。


 どうやらイベントは終了か。第三者の介入とは恐らくフェルナの事だろう。



「……フェルナ。大丈夫か?」

「…………」


「フェルナ、まだ終わってない。こいつらに報いを受けさせるんだ!」


 そんなフェルナは座り込み意気消沈している。彼女に移動してもらうのは厳しいか。


 アクションバトルだろうが何だろうが、やるしかない。


 こいつを倒して、世界警察でも何でもいい、絶対に報いを受けさせるんだ。



お読み頂き、ありがとうございます

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