【2ー31】己の選択で物語は変化する
ラリーザからダヴィドの話を聞いた俺は、目的の場所へ向かうために従馬を走らせていた。
結論から言うと、ラリーザはダヴィドの居場所などは把握していなかった。
しかし王都にある魔術ギルドを冒険ギルドの職員に紹介された時、ダヴィドの話がでたそうなのだ。
数年ぶりにダヴィド・イシルスの姿を見た。とある工房で、何かの荷物を馬車に運び入れている姿を見たそうだ。
今までどこに姿を隠していたのか、ずっと王都にいたのか、その日たまたま王都に来ていただけなのか。
そういった事は分からないらしいが、奴には身を寄せられる場所があるようだったと。
そのとある工房というのが……なんとキリールが働いている、ヘーベル工房だったのだ。
「あっ!? ヨルヤさんこんにちは! 今日はどうされたんですか?」
「やぁキリール。ちょっと聞きたい事があってさ」
ヘーベル工房前を掃除していたキリールを見つけると、俺が話しかける前に気が付いたキリールが近づいて来た。
まさかこの工房に、キリールに繋がるとは思ってもいなかった。
ダヴィドが身を寄せているというのはこの工房なのか、それともたまたま訪れていただけなのか……俺はキリールに問いかけた。
「なぁキリール。ちょっと聞きたい事があるんだけど、いいか?」
「はい! なんでしょうか?」
「少し前に、この工房にダヴィド・イシルス……いや、チェイス・ノーブルって奴が来なかったか?」
「チェイス・ノーブルさん……ですか? 僕の記憶にはないですけど、ちょっと待っててもらえますか?」
そう言ってキリールは工房へと駆けて行った。そして待つこと数分、急いだ様子のキリールが戻ってきた。
「す、すみません、お待たせしました」
「いやいや、大丈夫だよ。それで、何か分かった?」
「えっと、台帳を調べたんですけど、ヨルヤさん以外の個人の客様はしばらく来ていませんね」
「そうか……じゃあ誰かの付き添いで来ていたのか」
工房がダヴィドを匿っている線はなくなった。少なくともキリールは知らないようだな。
ダヴィドの特徴をキリールに伝えるも、見た記憶はないそうだ。
俺が困り顔をすると、キリールは俺の役に立ちたいのか様々な質問をしてきた。
しかし俺だってそんなに情報がある訳ではない。
「ほ、他になにかありませんか? なんの注文をしたとか……」
「いや、それが分からねぇんだよな……馬車に何かの荷物を積み込んでいたとしか聞いてないんだ」
「……馬車にですか? それは珍しいですね」
「何が珍しいんだ? 馬車に荷物って普通だろ?」
「そうではなくてですね。うちの工房って、基本的にお客様の元へ完成品を届けるんですよ。お客様が直接取りに来るのは珍しいんです」
「そうなのか……でもそれで、何か分かるのか?」
「分かります! 納品が配送なのか引き取りなのかは台帳に記載されてますので! ちょっと見てきま――――」
「――――おいキリール! なに遊んでやがんだ!? さっさと掃除を終わらせろ!」
キリールの言葉で光明が見えた時、キリールの行動を遮る怒号が工房の中から聞こえてきた。
目を向けるとそこには何時ぞやの、態度が悪く作業スピードが遅い事で有名な、あの職人の姿があった。
「あっす、すみません……後でちゃんとやっておきますので、今は台帳を……」
「台帳だぁ? 客のいねぇお前が、なんで台帳を確認する必要があんだよ?」
相変わらず口も態度も悪い職人だ。
工房内での事であれば口を挟むつもりはないが、ここは工房の外で今は俺の目もあるというのにお構いなしか。
どこの世界、どこの業界にもこういう奴っているんだな。
「キリールに客はいるぞ? 俺の専属職人なんだからな」
「ん……? なんだ、どこかで見た気がすると思えば、この間の貧乏人じゃねぇか」
「……随分な口の利き方だな? お前の方こそ、そんなんで客なんているのか?」
「いるに決まってんだろ! てめぇふざけんじゃ――――」
「――――おいっ! なんの騒ぎだ!? 店前で騒いでんじゃねぇぞ!」
口の悪い職人との間に一触即発のような空気が流れたが、大きな怒号によってその空気は掻き消された。
また新たな職人の登場かと面倒に思っていると、工房の中から随分と異様な雰囲気を纏った……小さなオッサンが出て来た。
小さいのに存在感がデカい。小さな体に大きなハンマー、立派な顎髭に粗末な頭髪……いや粗末は失礼か、失礼した。
「お、親方……」
「おうキリール、こりゃなんの騒ぎだ説明しろっ!」
どうやら工房主だったらしい。それならその雰囲気も納得である。
その工房主にキリールは事情を説明する。説明の間、俺と口悪職人は黙っていた。流石にこの職人も親方の前では大人しい。
「商品を引き取りに来た客の事が知りたいだぁ? 客の情報を客に教えるってのか!?」
「いえ……その……」
親方の言う通りか。店に来た客の情報を簡単に漏らすなんて、店の信用にかかわる大問題だ。
流石にキリールの立場をこれ以上悪くする訳にはいかないと、俺が間に入って事情を説明しようとした時、なぜか口悪職人が慌て始めた。
「引き取り客……そ、そうだぞ! 個人情報を外部に漏らすなんて絶対にダメだ! 絶対にダメだぞ!」
「うるさいわっ! お前は黙ってろ!」
口悪職人以上に親方の声の方がうるさかったが……そんな事を言われては黙るしかなく、口悪職人は閉口した。
それを確認した俺は事情を説明しようと、親方に近づいたのだが。
「くだらねぇ事で騒いでんじゃねぇ! 知りたいなら教えてやればいいじゃねぇか! おいキリール、台帳持ってこい!」
「は、はいっ!」
「お、おい待てキリール! 持って来るんじゃない!」
「だからうっさいわボケッ! 黙ってろ!」
「い、いいんですか親方!? 台帳を見せるなんて……情報漏洩ですよ!?」
「見られてマズい情報なんてあるかいッ! そもそも台帳なんざ商業ギルドの連中がいつも見てるだろうが!」
商業ギルドが確認するのとは訳が違うと思うが……それって、税金の関係で確認しに来ているんだろうし。
どうやら頭の方はちょっとアレな親方のようだ。俺にとっては助かるが、もうちょっと情報の扱いには気を付けた方がいいと思う。
「お、お待たせいたしましたぁ……」
工房に台帳を取りに行ったキリールはすぐに戻ってきた。その手にはもの凄い分厚い台帳があり、相当重いのだろうかヨロヨロしている。
手ごろな所に台帳をズドンっと置いたキリールは、台帳を確認し始めた。
俺はソワソワしながら、親方はイライラしながら、口悪はアワアワしながらキリールが確認し終わるのを待った。
「あっ……ありました! 引き取りのお客様の記載、ここ最近で何回かあります!」
「おう、どこの客だ?」
「えっと…………ん? ンベベ商会……?」
「あん? なんだって? ンンベベ商会?」
「いえ、ンベベです……ンべべ商会……」
「なんだその言いづらい商会は? そんな商会あんのか?」
「いえ、僕は聞いた事ないです……」
「……担当職人は誰だ?」
「えっと……」
キリールの目は口悪職人を見た。どうやら担当職人は口悪男のようだ。
目を向けられた口悪は、顔を引きつらせながら目を逸らす。
それを見ていた工房主が口悪職人に向かって問い掛けた。
「おう、ウベベ商会はお前の客か? どこにある商会で、どんな商いをしている?」
「いや……その……」
「……てめぇまさか、架空の商会を作って……あれよ、あれ…………何か悪い事でもしてんのかッ!?」
「い、いえ! そんな事は!」
「だったら答えろッ! ウンベベ商会なんて聞いた事もねぇぞ!? 本当にあるんだな!?」
親方に問い詰められる口悪は、顔色を悪くしながら後退った。
工房主の追及は止まらない。調べれば分かる事だという言葉が効いたのか、口悪は隠していた事を白状し始めた。
「その……じ、実は商店名を偽って記載しておりまして……」
「あぁん? なんでそんな事しやがんだ! 本当はなんていう商会名なんだよッ!?」
「……ブラク商会です」
「ブラク商会だと!? てめぇ! あそこの商会はなんか怪しいから、仕事は受けるなって何度も言ったよな!?」
「す、すみません親方! 金払いがよくて……か、勘弁してください!」
「ふざけんじゃねぇッ! 金で客を選ぶなと何度言えば分かるんだ!? てめぇ、ちょっと来いッ!」
口悪職人の言葉など聞かず、親方は男を引きずって工房内に消えていった。
どうやらこの工房において、ブラク商会との付き合いは御法度らしい。
しかし金払いの良さに目が眩んだ口悪が、工房の決まりを破ったと。
しかし小さい体なのになんて力だ。大の男を片手で引き摺るとか、流石は親方か。
「……すげぇな、あんな小さいのに」
「ドワーフ族ですからね。でも親方に小さいとか言ったらダメですよ!? 本気で殴られますから!」
「ドワーフ……! あれが異世界不思議種族か!」
生で初めて別種族を見た。護衛召喚でエルフの事は見たが、生で見るとやはり感動する。
生のエルフを早く見たいな。
いやそれよりも、ブラク商会だ。ブラク商会がダヴィドを匿っている。
ついに居場所を突き止めたぞ!
「キリール、ブラク商会って知ってるか? 場所とか、どんな商会なのかとか」
「ブラク商会は馬車を運行させているって聞いた事がありますが……相当ブラックという話で有名です」
「馬車にブラック……どこかで聞いたような」
少し考えて思い出した。御者の求人票を確認した時、そんな名前の商会があったはず。
まさかバドス商会に行く前にブラク商会が物語に登場していたとは。
恐ろしいな、ゲーム化ストーリー。
というかあの時、ブラク商会を選択していたら俺のストーリーはどうなっていたのだろうか?
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