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【2ー28】繋がり始める人脈






 体調不良で休んだあの日から、数日が過ぎていた。


 あれ以降は体調管理に気を付けて運行しているため、多少の疲れは感じるが体調に問題は出ていなかった。


 馬車を整備して御者見習いとして働くベンセルは大変だろうが、見習いなんだから頑張れと若干パワハラ気味ではあるが叱咤激励をしている。


 まぁ彼は御者席で居眠りして回復しているようだから大丈夫だろう。流石に疲れて寝ている所を起こしてまで見習いさせようとは思っていない。


 それに今日は、嬉しい報告もあったので疲れも吹き飛んだ事だろう。


「あと数回の定期運行で、差し押さえ分のお金が貯まります!」


 そう売り上げを管理しているフェルナから教えられた。


 ヤクザに差し押さえられた商会唯一の馬車、それを買い戻すための金が期日までに準備できそうなのだ。


 もう何の担保だったのかとか、余計な事は考えない事にした。馬車を取り戻して奴らと縁を切る、それだけを考えよう。


「よし……じゃあ行こうか、ヴェラ、ベンセル」


「えぇ」

「了解っす!」


 ヴェラとベンセルを連れて、今日はフウドナーへ向かう。フウドナーから客を連れて戻れば、いよいよ目標額に届く。


 期日を待たずして目標額達成。あっと言う間だったが、凄く長く感じられたバドス物語もいよいよ終盤である。




 ――――




 フウドナーへの往復運行も無事に終え、王都ハイオールへと戻ってきた。


 客を降ろし、ヴェラと別れた俺とベンセルはバドス商会へと戻った。


 今日の酒は旨いだろうなんて思いながら商会に戻ると、いつも通りフェルナが出迎えてくれ……なかった。



「……なんか暗くないか?」

「そうっすね。いい時間なんで、寝てるんじゃないっすか?」


 ベンセルの言う通り、もう寝ていてもおかしくはない時間である。


 しかし一度たりともフェルナは、俺が戻る前に寝ていた事はない。ヒュアーナさんは普通に寝ているが。


 違和感を覚えながらも、俺とベンセルは真っ暗な商会内に入った。



「くらっ……ベンセル、火魔石」

「はいっす!」


 ベンセルに火魔石を使わせ、明かりを確保する。


 明るくなった商会内を見渡してみるが、やはりフェルナの姿もヒュアーナさんの姿もない。


「フェルナ~! 寝てんのかぁ~!?」

「馬鹿かお前は? ほんとに寝てたらどうすんだよ」


 考えなしに大声を出すベンセル、ほんと馬鹿。


 本当に寝ているのなら起こす必要はないというのに、迷惑以外の何物でもない。


「ちょっと見てくるっす!」

「あっおい馬鹿っ……もう、ほんっと馬鹿だな」


 馬鹿は俺の言葉も聞かずに、二階へと駆け上がっていった。


 確かに婚約者なら寝室への入室も許可されているだろうが……またビンタされるぞ。


 ベンセルが行ってしまったので、俺は売り上げを管理するため受付に置いてある金庫に近づいた。



「……あれ?」


 ない、金庫がない。この商会で馬車を除けば、一番高額な金庫がなくなっている。


 結構な額を貯める事になった時、キリールに頼んで作ってもらった鉄製の金庫が綺麗になくなっていた。


 まさか……と冷や汗が流れた時、二階からドタバタと足音を響かせながらベンセルが戻ってきた。



「フェルナいないっすねぇ。こんな時間にどこ行ったんだか」

「……金庫がなくなってる」


「……へ?」

「だから、金庫がなくなってるんだよ」


 重い金庫を持ってフェルナ達が出掛けるとは思えない。


 だとしたら、他の場所に移動させたのか……盗まれたかだ。


 俺は念のためベンセルにフェルナ達の寝室を調べさせる。俺もその間に商会内を探し回ってみたが、金庫は見つからなかった。



「アニキ、部屋にはなかったす」

「こっちもだ」


「やっぱ、盗まれたっすか……?」

「多分な……くそっ!」


 このタイミングで金庫がなくなるなんて、犯人はあのヤクザ達で間違いないだろう。


 迂闊だった。あれから全く接触がなかったので油断していた。


 問題はフェルナとヒュアーナの所在だ。金庫と一緒に盗まれたのか、それとも犯人を追って出て行っちまったのか。


 もし前者であれば、ウダウダしてはいられない。



「……なぁベンセル。お前、この商会の馬車が差し押さえられてんのは知ってるか?」

「こ、この前フェルナに聞いたっす」


「その差し押さえた奴らに心当たりは?」

「…………」


 やはり知らないか。まぁフェルナ達も知らない事だ、ベンセルが知っている訳がないか。


 どうする? とりあえずヴェラに助言を……いや、こういう時は警察に通報か?


 警察……あんなクズ共の組織に頼らなければならないってのかよ!



「……そうだ、思い出した! おいベンセル、緑鬼の傭兵って知ってるか?」

「はい? りょくきのよーへー……? りょくき……ああ緑鬼!」


「二つ名か何かなんだろ? そいつがこの前、商会で暴れたんだ」

「二つ名っていうか、傭兵のランクっすよ。確か白鬼から始まって、青、黄、緑……とかだったような」


 そっちか……! 冒険者でいう等級のようなもの。だとしたら個人を特定するのは難しいかもしれないが、これしか手掛かりはない。


 奴の顔は覚えている。特徴をギルドに伝えれば、何か分かるかもしれない。



「傭兵ギルドに行って来る」

「お、俺も行きます!」


「お前はここで馬車を守ってくれ。フェルナ達が戻るかもしれないし。それと、明日の運行はキャンセルだ。客たちの対応を頼む」

「りょ、了解っす」


 念のため一体の護衛を召喚し、ベンセルに説明を行ったのち商会を飛び出した。


 初めから護衛を待機させておけば……と後悔するが、今そんな事を言っても仕方がない。




 ――――




「元緑鬼の傭兵で、右頬に傷がある男?」

「はい。ご存知ありませんか?」


 こんな夜中でもガヤガヤうるさい傭兵ギルドに来ていた俺は、顔馴染みである受付の筋肉マンにゴロツキの事を聞いていた。


「緑鬼といやぁ中々に有名なはずだが……右頬に傷か」

「もしかしたら傷は傭兵時代にはなかったのかもしれませんが……」


 いきなりやって来た俺に嫌な顔一つせず、考え込んでくれる受付漢。


 少し考えた後、受付漢は酒盛り中の傭兵達に大声を張り上げた。


「おう誰かッ! 元緑鬼で右頬に傷がある男の事を知っている奴はいないかッ!?」


 ものすごい声量であった。近くにいた俺はあまりの大声に驚いてしまう。


 一瞬、シン……とギルド内が静まるが、すぐさま騒がしくなった。


 情報を持ってない奴は再び酒盛りに戻ったようだ。そんな中、一人の男が酒を片手に近付いてきた。



「そいつ、百八十を越える大男じゃなかったか?」

「なんだゲオルグ、知ってるのか?」


 ゲオルグと呼ばれた傭兵は、傭兵というにはスラッとしたモデル体型で、爽やかな顔をしている男だった。


 すげぇモテそう。こんな傭兵もいるんだな……すげぇ酒くせぇが。


「確かに大きな男でした。俺より高かったので、百八十は越えていたと思います」

「恐らくダヴィドだな。ベスパイア帝国で傭兵をやっていた時に見た記憶があるぜ」


「そういやお前、ベスパイア帝国の出身だったな」

「今は身も心もファルエンド王国民だぜ? 王国の女は美人ばかりで最高だ、来て良かったよ」


 その容姿に体型ならさぞ楽しい事だろうよ。女性にモテて仕方がない事だろう。


 傭兵というからには強いんだろうしな。強くてカッコよくて陽気とくれば、モテない要素がない。


 だが今はそれどころではない。女性を口説く方法は今度教えてもらうとして、ダヴィドという男の話だ。



「そのダヴィドって奴の居場所は分かりますか?」

「いや、知らねぇな。もう傭兵も辞めてんだろ?」


「恐らくは。元って言ってましたし」

「それならギルドも把握して……ねぇよな、やっぱ」


 受付漢に目配せするゲオルグ、その視線受けた受付漢は首を振った。


 名前は分かったが所在が分からない。傭兵は辞めているようなので、ギルドも居場所は把握していないようだ。


 ここまでか……と思った時、ゲオルグが興味深い話を聞かせてくれた。



「これはただの噂なんだけどよ。あいつ、帝国から王国に逃げて来たらしいんだよ」

「はぁ、そうなんですか?」


「噂だけどな? なんかの犯罪に関わってたらしくて……そうそう! 皇女誘拐未遂事件だ!」

「皇女……そりゃ大犯罪ですね」


 あくまで噂らしいが、その誘拐未遂にダヴィドが関わっていた噂があるという。


 それを聞いた受付漢が、腕を組みながら思い出すように語り始めた。


「あ~あったなぁ。何年前だったか……王国でも大騒ぎだったぜ? 新聞にも載ったしな。そういや犯人が捕まったっていう話は聞いた記憶がねぇや」

「まぁ他国の事でも要人を誘拐未遂とか騒ぎに……新聞? 新聞に載ったんですか!?」


「お、おぉ。確か載ったはず……だよな?」

「知らねぇよ。新聞なんて見ねぇからな」


 諦めかけていたが、なんとか繋がった。


 なんとも頼りない細い糸のような繋がりであるが、この糸を辿るしかない。


「ありがとうございますゲオルグさん、筋肉マン!」


「お~! 今度会ったら酒奢れよな~!」

「はい! 必ず!」


「筋肉マンって俺の事かぁ!?」

「すみません! 今度お名前教えて下さい!」


 俺は二人に礼を言い、傭兵ギルドを後にした。


 次に向かうはボクス商会。新聞記者、クルーゼ・ローリィの元に向かう。



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