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【2ー23】異世界でもお酒は二十歳になってから






 事前に手紙でやり取りをして宿の確保を行っていた俺達は、予定通りヒーメルンで一泊し翌朝に王都に向けて出発するつもりだった。


 初めは泊まらなくてもいいけど……なんて思っていたのだが、試運転の時とは違って予想以上に疲れたので、宿を確保したのは正解だったようだ。


 夕食に関しては各々好きなように、としていた。更に経費節約のために俺は大部屋、女性には一人部屋を二人で使ってもらう事にしている。


 見知らぬ人との相部屋はそこまで苦ではない。今だって学生たちと相部屋だし、そもそもそこまで繊細な人間ではないからな。



「だけど、うるせぇな……」


 部屋の隅で宴会を始めた様子の男達の声が部屋中に響き渡る。


 大部屋は苦ではないが、ハズレを引くとこのようになるので金があれば避けたい所。


 考えたい事もあった俺は大部屋を出て、宿の受付付近までやって来た。


「あっ! ゴノウエさん! 良かった、探しましたよ」

「ローリィさん?」


 受付までやって来ると、そこには新聞記者のクルーゼ・ローリィの姿があった。


 俺を探していたとの事だが、何か用事があるのだろうか?



「ゴノウエさん、次はいつ王都に行かれるのでしょうか?」

「明日には王都に向けて出発しますが……」


「本当ですか!? もし座席に空きがあるのなら、私も利用したいのですが」

「あぁそういう事ですか。いいですよ、空いてますので」


 そう言うとホッとしたような顔をするクルーゼ。


 思えば彼はヒーメルンには用事がなく、バドス商会の調査に来ていただけだったな。


「ついウッカリ確認し忘れてしまって、探しましたよ。それにもっとお話を聞きたかったですし」

「話し、ですか? でももうあまり話すような事は……」


「バドス商会の事ではなく、ヨルヤ・ゴノウエという御者の話を聞きたいんですよ!」

「お、俺の話ですか?」


 聞くと俺のギフトの事や独立した後の事などの話を聞きたいらしい。


 まだバドス商会で働き始めたばかりなのに、もう独立した後の事を考えるのはなんか嫌なんだが。



「ゴノウエさんが独立した後も取材をさせてもらえないでしょうか?」

「あはは、気が早いですよ。それに男にケツを追いかけられるのは嫌だなぁ」


「で、では女性記者を付けますので! どうかお願い出来ないでしょうか!?」

「いや、冗談ですよ、冗談……」


 冗談を言ったつもりが真剣な返答をされてしまった。


 新聞記者とはみんなこうなのだろうか? 随分と熱が入っているように思えるが、まだ何の実績もない俺に取材とは。


 それほど今回の馬車運行が異常だったのか。やはり、それはバドス商会には良くない事だよな……。



「軽くでもお聞かせ頂けませんか? もちろん、取材料はお支払い致します」

「取材料……ですか?」


 正直、バドス商会の記事についてはもっと念入りに打ち合わせを行いたいと思っていた所だ。


 王都に戻ってから新聞社を尋ねる予定だったのだが、ここで打ち合わせを行ってしまえばその手間は省ける。


 少し俺の話をした後にバドス商会の記事について打ち合わせをする、そして取材料を頂く。


 なんのデメリットもないじゃないか。



「じゃあ……その取材料で酒でも飲みながら……その、お話を……」

「おぉ! いいですね! いいお店をご紹介しますよ!」


 きた、接待である。これで酒が飲めるぞ。


 もうほんと、人間としてダメな気がするけど、今日は本当に酒が飲みたい気分なのだ。


「やはり女の子がいるお店の方が話しやすいですよね?」

「デュフフ……そ、そうですね、女の子がいた方が話やす――――」


「――――女の子がなんだって?」


 聞き覚えのある声に緩んだ顔が引き締められた。


 恐る恐る顔を声がした方に向けてみると、二階から降りて来るヴェラの姿があった。


 なんか不機嫌そう。まさか、接待の話が聞こえていたんじゃ……?



「いえ、なんでもないです……ローリィさん、行きましょう」

「そ、そうですね。では、行きましょうか?」


「ちょっと、こんな時間からどこに行こうってのよ?」

「……ちょっとご飯を食べに行って参ります」


 そう言ってヴェラから遠ざかろうとした時だった。ヴェラとすれ違う際に腕を掴まれ、動きを止められる。


「あたしも行く。女の子がいた方が話しやすいんでしょ? もちろん普通のお店に行くわよ」

「くっ……」


 やはり聞こえていやがった。ヴェラは俺の耳元で、連れて行かないと全てをフェルナに報告すると呟いた。


 そのフェルナは部屋で爆睡しているらしい。疲れている様だったので、邪魔にならないように一人で部屋を出たそうだ。



「これでも俺は……! なんてさっきはマジな顔してた癖に、ほんっと男ってさ」

「すみません……」


「あ、あはは……では、行きましょうか? 普通のお店、ですね」


 こうして俺とヴェラ、クルーゼの三人はバドス商会の事、俺の独立後の事について話をするために街へと繰り出した。


 まぁいい、取材は今回で最後という事はないだろう。いつかクルーゼに普通じゃない店に連れて行ってもらおう。




 ――――




「魔物観光馬車……それ、いいですね! 絶対にウケますよ!」

「まあ、どっかの酒好き王子のアイディアなんですけどね」


 酒と料理を食べながら、俺とクルーゼは色々な事を話した。


 色々とは言っても、バドス商会の記事の話と、俺が考えている独立した後の事業に関する事が主だが。


 クルーゼは随分と気の良い人で、御者と記者という垣根を超えて仲よくしてもらいたいと思い始めている。



「……ちょっと、その魔物観光馬車の護衛って誰がやるのよ?」

「俺の専属護衛はヴェラ・ルーシーさんじゃなかったですっけ?」


「ヴェラ・ルーシーが専属護衛!? こりゃまたネタになる……」

「ちょっと! まだ決まった訳じゃないわよ!? 変な事は書かないでよね!?」


 そう言いながら酒を飲むヴェラ。相変わらずよく食うしよく飲む奴だ……っておい、お前たしか未成年じゃなかったか?


 なんか自然に注文して自然に飲んでたから気が付かなかったが、この世界って未成年の飲酒オッケーなのか?



「おいお前……なんで飲んでんだよ? いいのか未成年……」

「未成年だけど、別にいいでしょ? 年齢で飲酒管理なんて馬鹿みたい」


「おまっ!? 目の前にいるのは新聞記者だぞ!? 銀二等級の未成年冒険者が飲酒……スキャンダルじゃねぇかよ!?」

「あ、あははは……今日はその、ヨルヤさんの取材ですので」


 そう言いつつも手を動かして、何かを手帳に書き記していくクルーゼ。


 一切手帳に目を落とさず書くと言う芸当を披露している。


 あそこにヴェラの法律違反の事が書かれたのだろうか? 一応だが、念押ししておかないと俺に飛び火する。



「クルーゼさん、この事はどうかご内密に……」

「あはは。未成年の専属護衛の飲酒発覚とか、雇い主のヨルヤさんも責任が追及されますね」


「くっ……俺は、どうすれば……?」

「なぁに簡単ですよ。これからも私と懇意にしていただければ……私は恐らく、色々な事を忘れてしまうでしょう」


 なんて冗談っぽく悪い顔をするクルーゼだが、半分くらい本気な気がする。


 とりあえずクルーゼとは長い付き合いになりそうだ。


「その時はあたしを切り捨てればいいだけでしょ? そんな大げさな……」

「いや、俺はそんな事でヴェラを手放すつもりはない」


「……あっそ。すみませ~ん、おかわりお願いしますっ!」

「ルーシーさん? まだ半分以上グラスに酒が残ってますが……」


「う、うっさいわね! 事前に次のを頼んでおくのは常識でしょ!?」


 酒のせいなのか何なのか、珍しく頬が真っ赤だ。


 こいつもカールと同じく酒を飲むペースが早いが大丈夫だろうか? 怒りっぽい奴だし、殴られたりしなきゃいいけど。



「とりあえずクルーゼさん。俺の独立に関する記事は差し押さえでお願いしますよ?」

「えぇもちろんです。しばらくは私の頭の中にしまっておきます」


「それと、バドス商会の記事の事も……」

「そちらも、ヨルヤさんの意思を尊重しますよ」


 バドス商会の事を記事にはするが、性能については曖昧な表現をしてもらう事で合意した。それだけでも宣伝としては効果絶大であろう。


 考えすぎるのはヴェラの言う通りやめにする。俺はこの事をヒュアーナとフェルナに話し、どうしていくかは二人に決めてもらうつもりだ。


 俺はヴェラの言う通り、最善を尽くす事だけを考えればいい。


 最善を尽くした結果は、最高であるはずなんだ。



「ありがとな、ヴェラ」

「えっきも……なにその笑顔」


「お前ほんっと可愛くねぇな!」


 そこからはただ食って飲んでの宴会だった。


 どんな事を話したのか、どんな事で言い合いをしたのかも曖昧にしか覚えていない。


 ただまぁ、次の日の朝に挨拶をした時のヴェラの表情が少しだけ柔らかくなっていたのは……気のせいだな。


お読み頂き、ありがとうございます

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