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【2ー21】パッピーエンドのその先は

ちょっと長くなりました






 ヒーメルンまで残り数時間といった所で、最後の休憩をとる事にした。


 約半日ほど馬車に揺られた事もあり、流石に体を伸ばしたりしている客の姿が見られるが、それでも表情は笑顔であった。


 ここでの休憩も簡単なもので、そう長くしない内に出発する予定だったのだが、客の中にはここで野営を行うのだと思った者もいるようだ。



「ここで野営をするのですか? もしよければ、何かお手伝いしましょうか?」


 新婚旅行中のカップルの男性がそう聞いてきた。


 王都からヒーメルンまでは二日ほどかかると言うのが常識であり、少なくとも一回の野営は当たり前である。


 今ここがどの辺りなのか把握しているのは冒険者くらいなのだろう。冒険者以外の面々は、ここで野営を行うのだと思っているようであった。


「いえ、今回野営は行いません。ヒーメルンまで残り二、三時間という所まで来ていますので」

「……え?」


 俺の言葉に意味が分からないと言った表情をする男性、他の客達も聞き間違いをしたかといったような感じで首を傾げている。


 興味を惹かれたのか数名の客達が腰を上げて俺達の元へ集まってくる。その者達に向けて俺は丁寧に説明を行った。



「信じられん。高速馬車より早いと言うのか……」

「立派な馬だとは思っていたけれども、凄いねぇ」


「あり得ない……半日でヒーメルンに行ける馬車……快適でサービスもよくあの値段だと……?」


「と、都会の馬車は随分と凄いんだね……」

「そ、そうね。私達、田舎者だからね……」


「……ワープでもしたのか? 転移魔法か?」

「転移魔法って……ロストマジックじゃん?」

「それ、実在したのかも怪しい魔法ですけど」


 分かりやすいように、単に馬たちの能力が高いから実現できた事だと説明する。もちろん嘘ではなく、この早さで到着できるのは大部分が従馬の性能によるものだ。


 馬を休憩させる必要がないので、大幅に時間を短縮できる。


 もし客の負担を考えず一切の休憩なしで、馬車も速度に耐えられる設計なのであれば、ヒーメルンまで数時間で辿り着く事も出来るだろう。



「しかしもう陽は落ちた。残り数時間で到着と言っても、この暗闇の中を走行するのは危険ではないか?」

「そうだよねぇ。道は見づらいだろうし、夜は魔物の動きも活発化するし」

「安全を取るならば、ここで野営するのもありだと思います」


「なるほど……少し待っていてください」


 冒険者達の発言を受け、俺はヴェラと相談する事にした。やはり夜は魔物の脅威が上がるため、走行しないというのが常識らしい。


 とはいっても俺は正直、大丈夫なんじゃないかと思っている。まぁしかしヴェラの意見を聞いてからにしようと思う。



「ヴェラ、冒険者達はああ言っているけど、どう思う?」

「そこはあたしじゃなくて、あなた次第だわ」


「どういう事だ?」

「夜目が効くのかって事。確か御者のスキルギフトにあったと思うけど、取得しているのかしら?」


 そんなスキル、初耳なんだが。少なくとも今の時点でそういったスキルは表示されていない。


 電気があるのが当たり前の世界に慣れた俺が、夜目なんて効く訳がない。


 いくら暗闇には慣れていくと言っても、高速の馬車を操縦できるほど見える訳もないだろう。


 しかしまぁ、大丈夫じゃないだろうか? だって俺の馬、普通じゃないし。試運転の時に夜道の走行が問題ない事も確認済みだ。



「大丈夫じゃね? 俺が見えなくても平気だよ」

「そうね、あたしもそう思うわ。あんたの馬、異常だもの」


「なんなら目を瞑っていても走行できると思う」

「そうね、あたしもそう思うわ。あんたって、異常だもの」


 俺は異常じゃない、そう言いかけたが、ヴェラの目が本気だったのでスルーして客に向き直った。


 護衛達へ確認した結果、問題ないと思われる事を説明。だがそれでも不安だと思われる方がいるのであれば、野営を行うつもりだった。



「ワシはどっちでも構わんよ」

「えぇ、私もです」


「そもそも野営をすれば安全という訳でもないでしょう?」


「あの、みなさんに従います……」

「うん、みなさんに従います……」


「……御者の判断に従おう」

「あたしもそれでいいよ~」

「私もそれで構いません」


「じゃあ……ヒーメルンに向かいましょうか? もう少し休憩したら出発しますので、馬車にお戻りください」


 そう言うと何人かの客は馬車へと戻り、また何人かは焚火の周りで暖を取り始めた。冒険者の三人はヴェラの元へと向かったようだ。


 フェルナには馬車に戻って準備をしておくように伝える。俺は今の内に、トイレでも済ませておこうかと考えた時だった。



「ヨルヤ・ゴノウエさん。ちょっとよろしいでしょうか?」

「……はい、なんでしょうか?」


 話しかけてきたのは例の男。ヴェラが動向には注意しろと言っていた、あの一人で利用している三十歳ほどの男性だった。


 客の目が引け、護衛なども離れたタイミングでの接触。嫌でも緊張感が高まった。


「ちょっとお聞きしたい事があるのですが……」


 そう言いながら男は胸元に手を入れて、何かを取り出した。


 取り出した銀色っぽい棒状の物は、月明りに反射して不気味に輝く。


 ナイフだ、まずい……! 脳がそれを判断し、大声でヴェラに助けを求めようとした、その時だった。


「私、ボクス商会の新聞記者なのですが、色々とお話をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「し、しんぶん……記者……?」


 何か俺は、俺達は盛大に勘違いをしていたのかもしれない。懐から取り出したのは、ただのペンであった。





 ――――





「実は我が商会の編集長が、今は亡きハイセル・バドスの古い友人なんですよ」


 話を聞いて行くと、彼は本当に新聞社の人間のようだった。王都では有名な新聞社らしいが、なぜそんな有名所がウチをと聞くと、そう答えが返ってきた。


 以前に聞いた事がある。ハイセル・バドスとはフェルナの亡き父であり、バドス商会の元代表だ。


「バドス商会の広告を見て、バドス商会が復活したと編集長は大喜びだったのですが……護衛の事や、料金の事がどうにもキナ臭くてですね」

「あ~、それで実際に乗って調べてみたと?」


「そ、そうですね、黙っていてすみません。バドスの名を騙ったり汚されたりするのが嫌だったそうで……」


 なにか良からぬ輩がバドスの名を使い、何か企んでいるのではないか? そう思った編集長は彼、クルーゼ・ローリィに調査を命じたようだ。


 しかし言ってはなんだが、潰れかけの商会を利用して何が出来ると言うのだ? そう思ったのだが、何やら色々とあるようだ。



「まぁバドス商会……ハイセル・バドスは昔に色々とありましたからね」

「色々……ですか? ギャンブル狂とか?」


「あ~まぁ……それもありますかね」


 どことなく歯切れが悪いクルーゼ。自分で言いだしたくせにこの話題を逸らしたいようで、それ以上は語らずに別の話題を出してきた。


 まぁそのギャンブルが原因で身を滅ぼした訳だから、話しやすい話題でない事は確かだけど。



「それで、ゴノウエさんが噂のお婿様なのでしょうか? 今は他商会で御者の修行をしているとお聞きしましたが」

「いえ、自分は雇われ御者ですよ。バドス商会に雇われているだけです」


 噂になるお婿さんってどんなのだろう?


 どうやらそのお婿さんは、バドス商会を立て直すために修行に出ているらしいが、そんな話は聞いていない。


 どうやら俺がストーリーを開始させなくても、バドス物語には別ルートがあったのだな。


 バドスを救う主人公は俺ではなく、その婿殿だったのだろう。


 しかしそういう事なら……もしかしたら俺は、余計な事をしてしまっているのかもしれない。


 重要な事が頭から抜けてしまっていた。面白おかしくストーリーだなんだだとゲーム化するものだから、完全にゲーム脳で考えてしまっていた。



「……あの、今まで話した事なんですけど、記事にするんですよね?」

「えぇ、出来ればさせて頂きたいと思っております。それに、その方がバドス商会にとっても良い事かと」


「……俺の話を伏せてもらう事は出来ますか? それに馬車や馬の性能も、出来る限り抑えて頂けると……」


 本当に申し訳ない話だが、俺はずっとバドス商会にいるつもりはない。


 商会がある程度復活し、そのお婿さんとやらが修行を終えて戻ったらお役御免だろう。


 しかし俺が抜けたらバドス商会はどうなるだろう?


 こんな事を考えるにはまだ早いだろうけど、いずれ訪れる問題だった。


 下手にバドスの馬車は凄いという噂を広めてしまうと、俺が抜けた後にフェルナ達が困るかもしれない。


 こんな新聞記者が現れるまでその事に気づかなかったのは、完全に俺のミスだ。



「……訳あり、ですか?」

「そうですね。正直に話しますと、ここまでこの馬車が早かったり、快適性が高いのは俺のギフトのお陰だと思うんですよ」


「なるほど、ギフトですか。しかしなにか問題がありますか?」

「俺、いずれはバドス商会を離れて独立するつもりなんです。でも俺が抜けたら、バドス商会の馬車の性能はきっと落ちます」


 従馬召喚の性能が如何せん良すぎるのだ。その婿殿が従馬召喚や高レベルの御者ギフトを取得できていれば問題はないだろうが。


 ヴェラやフェルナから聞いた感じ、従馬召喚はレアギフトの可能性がある。取得は難しいのかもしれない。



「なるほど、独立ですか。確かにゴノウエさんがこの性能を生み出しているのであれば、あなたが去った後のバドスは大変かもしれませんね」

「…………」


 俺が主人公のゲームであれば、バドスを救ってハッピーエンドで終了となるのかもしれない。


 しかしそれはあくまで、俺の物語がハッピーエンドという事だ。


 その後も、俺が関わらなくなった後もバドスの物語は続いて行く。彼女らの人生はゲームではない、現実なのだ。


 そんな彼女らの人生にゲーム脳で関り、異常な力を持って物語をかき乱している。


 今は結果として救われているのかもしれないが、俺は自分の物語の終局しか考えていなかった。


 自重した方がいいだろう。彼女らには今後も手を貸していくが、あまり過剰に関わらない方が良さそうだ。


 商会に戻ったらヒュアーナとフェルナに話をしよう。そう思いながら、クルーゼと新聞掲載について話を進めていった。


お読み頂き、ありがとうございます

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