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【2ー17】平坦なストーリーでもいいじゃないか






「私、ラリーザ・イシルスって言います。魔術ギルドで受付嬢やってま~す」

「初めまして、ヨルヤ・ゴノウエです。バドス商会で御者やってま~す」


 昼食後に始まった自己紹介タイム。お互いの名前に始まり、職業、年齢、趣味などを交互に言い合っていく。


 どこか既視感を覚えるやり取りだが、とりあえず言いたい事はもう魔術ギルドのイメージなどどうでもいいようだ。


「じゃあヨルヤくんって呼びますねぇ~」

「じゃあラリーザちゃんって呼ぶねぇ~」


「ちゃん付けって歳じゃないよ~」

「そう? 全然十代に見えるけど」


 歳は二十四との事なので俺の一つ下であった。しかし冗談でも世辞でもなく、十代と言ってもいいほどに若く見える。


 魔女だからな、なにか若さを保つ秘訣をご存じなのかもしれない。



「御者さんが魔術ギルドに来るのは珍しいね?」

「噂の美人受付嬢、ラリーザさんに会いたくてね」


「噂になってるの? 私、先月から働き始めたのだけど」

「そうなんだ。受付嬢の前は何の仕事をしてたの?」


「あ~まぁ……冒険者をやってたよ。でも稼げないから辞めちゃった」


 どこか言いづらそうに教えてくれたラリーザだが、冒険者時代に何かあったのだろうか?


 初めはポンコツ美人かと思っていたが、話してみると中々に大人の女性だった。


 会話のやり取りや雰囲気などから、フェルナやヴェラとは違った印象を受ける。


 見た目は十代の少女で通用するが、なぜか大人の色気がヤバイ。



「ラリーザさんも火魔石を作れるんですか?」

「一応これでも魔術師だからね。小魔石や中魔石の魔力返変換なら片手間で出来るよ~」


「……片手間で出来る事に五百ゴルドも取るのか」

「だって商売だもの。出来る人には出来る、出来ない人には出来ない。需要と供給、適材適所……は違うか」


 言わんとしている事は分かるが、片手間とか言われるとな。とりあえず、魔石作成は魔術師にとって訳ない行為のようだ。


 まぁ俺にとって魔術師はその道のプロだ。いくら簡単な作業だろうが、たとえ友人であろうがプロの仕事が無料という事はないか。



「火魔石の需要は凄いからねぇ。カイロ代わりにもなるし、魔力の流し方によっては爆弾みたいにする事も出来るから、冒険者や傭兵にも人気なんだよ?」

「爆弾……」


 火魔石というより熱魔石じゃねぇかよ、そんな風に思っていたのだが使い方によっては効果のほどが変わるらしい。


 耐冷目的で作られたり、単純に火を生み出す様に変換したりするとラリーザは教えてくれた。


 やはり魔石変換はプロの仕事だな。片手間で出来るのは、そのプロの腕がいいからという事なのだろう。



「そろそろ出来上がる頃だと思うよ? ギルド内で待っていた方がいいんじゃないかな?」

「そうだな、そうするよ」


「あ、正直もうどうでもいいんだけど、ここでの事は内緒にしてね?」


 そう言って人差し指を口元に持って行き、内緒だよっといった仕草を見せるラリーザ。


 ヤバイ惚れそう、なんだこの美人。絶対に分かっててやっていやがる。自然に行われたその仕草は男を簡単に手玉に取るだろう。


 俺? 俺は取られてねぇよ舐めんな。そういうあざとい女には引っ掛からないって婆ちゃんと約束したんだ。


「じゃあまたねヨルヤくん。また遊びに来てね?」

「は~い、またねぇ」


 はぁ、くっそ可愛い。また会いに行こう。


 あ? 手玉になんか取られてねぇよ舐めんなよ。





 ――――





「あっヨルヤさんお帰りなさい! へーベル工房のキリールさんがいらしてますよ!」


 魔術ギルドで火魔石と水魔石を作成してもらった俺は、バドス商会へと戻っていた。


 戻って早々、フェルナからキリールの来訪を告げられる。朝にキリールと会ってから三時間も経っていないと思うが、まさか完成したのだろうか?



「ヨルヤさん、さっきぶりです! ご依頼の品が完成したのでお持ち致しました!」

「本当に出来たのか、凄いな」


 当初の完成予定日は明日という話だった。それを一日以上も短縮して完成させたのだから、やはりキリールは腕がいいのだろう。


 それに睡眠時間を削って作業したようだから、キリールには頭が上がらない。


「ご確認ください。どこか期待に添えていない所はありますでしょうか?」


 キリールから渡されたクッションやブランケットの確認を行っていく。


 数は十分。更に柄や質感など、注文通りに出来上がっている事が確認できた。


 このクッションであれば負担を軽減させる事ができるだろうし、空調がない馬車内で寒さを感じてもブランケットがカバーしてくれるはずである。



「うん、いいね、完璧だよ」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


「凄いなキリールは。こんなに早く、これほど上手に加工できるなんて」

「いえいえ、クッションやブランケットは比較的加工が簡単ですから! 他の物はこう上手くはいかないですよ」


 その簡単な物を作るのに一週間かかるとか言っていた職人がいた気がするが……忙しかったのだな、きっとそうなのだろう。


 キリールからクッションなどを受け取った俺は、加工料として金貨一枚、十万ゴルドを支払った。



「……ほんとに十万でいいのか? なんか、申し訳なくなってきたな」

「いえいえ、見習の僕には十分です! ありがとうございました!」


 とはいっても、その十万の内いくらかは工房に入れなきゃならないのだろう。キリールの取り分がいくらになるのか分からないが、雇われている以上は仕方がない。


 なら俺はせめて、キリールの売り上げに貢献してあげたいと思う。今の俺には何もできないが、未来の俺がきっと。


「なぁキリール。俺の専属職人になってくれよ」

「せ、専属職人……ですか?」


「そう。俺はこれからも色々な加工をお願いすると思う。その依頼は全て、キリールが受けて欲しいんだ」

「は、はいっ! ありがとうございます! 頑張りますっ!」


 正式な契約ではないが、俺は本気でそのつもりだ。


 顔に隈を作りながらも目を輝かせ始めたキリールを見て、俺もしっかり稼げるようにならないなと思った。


 彼はきっと大成するだろう。独立して、自分の名の看板を掲げた工房で楽しそうに仕事をする、そんな姿が目に浮かぶ。


 そんな事を、商会から出て行ったキリールの頼もしい後ろ姿を見ながら思った。



「さて、じゃあ備品の確認と、三日後について話し合おっか」

「はい! いよいよですね、ヨルヤさん!」


 こちらもキリールと同じように、目を輝かせている看板娘のフェルナ。


 父が亡くなってから数年。再び客を乗せた馬車が三日後に出発する。


 それはバドス母娘の悲願であり、バドス商会の夢である。


 ストーリー的には中盤の盛り上がり所と言ったところだろうか?


 しかし山があれば谷もある。このまま全てが上手くいく……なんていう事がストーリー的にあり得るのだろうか?


 いやいらないんだけどね、谷なんて。鬱ストーリーなんて絶対に嫌だからな。


 そんな展開になったら、流石に運営にクレームを入れまくってやる。


 でも確かあらすじにあったんだよなぁ。光を取り戻していくが……ってなんだよその点々。光を取り戻した、でいいじゃねぇかよ。


 はぁ、何も起きなきゃいいなぁ。


お読み頂き、ありがとうございます

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