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【2ー16】魔術ギルドはイメージを重んじる






「おはようございますっ! ヨルヤさん!」

「おはようキリール、朝から元気だな」


 見習い職人キリール・シュクレイ。馬車備品のクッションとブランケットの作成を依頼している。


 今日はこのキリールに、魔石の加工を行ってもらおうと足を運んでいた。



「クッションとブランケットですよね。すみません、あと数時間ほどで出来上がると思うのですが……」

「あと数時間……? まだ二日しか経ってないぞ?」


「あはは、ちょっと張り切りすぎちゃって」


 そういうキリールの目の下には立派な隈が出来ていた。


 もしかしたら寝ていないのだろうか? まだ時間には余裕があるし、そんなに急がなくても大丈夫なのに。


「ちゃんと寝てるか? そんなに急ぐなよ、心配だ」

「だ、大丈夫です! 商品はちゃんと作っていますから!」


「商品の心配じゃなくて、お前の心配をしてるんだよ」

「あっ……はい、ありがとうございます! でも本当に大丈夫なんです!」


 初の客という事もあってハイ状態にでもなっているのだろうか。


 本人が大丈夫だと言うのであればこれ以上は何も言えないが、他の仕事もあるのだろうから体は大事にしてほしい。


 キリールとはこれからも長い付き合いになりそうだしな。



「クッションとかは本当に明日以降でいいんだけど、ちょっと聞きたい事があってさ」

「はい? なんでしょうか?」


「魔石なんだけど、加工ってできる?」

「魔石……ですか?」


 荷物内から数個の魔石を取り出してキリールに見せてみる。冒険者のタゴナ達が言うには何の変哲もない小魔石らしいが、売れば小遣い程度にはなるらしい。


 とはいっても数が数なので、ある程度加工してもらったら他は売り払うつもりだ。



「えっと……宝石として使用したいということでしょうか?」

「いや、火魔石とか水魔石とかに加工して使いたいんだ」


「それは魔術ギルドの魔術師か錬金術師に、変換処理を行ってもらわないといけませんよ」

「魔術ギルド……そんなのもあるのか」


 聞くと俺が持っている無色の魔石は純魔石と呼ばれるもので、ただ魔力が籠っているだけの魔石という話だ。


 この純魔石に、火や水などの魔力変換処理を施さないといけないらしい。


「誰かお知り合いに魔術師でもいらっしゃれば、その方が変換処理を行えるかもしれませんが……」

「魔術師の知り合い……テトくらいしか思い浮かばないな」


 ともあれ工房で出来る魔石加工は、削って形を整えてアクセサリーにしたりするとか、その程度らしい。


 俺はキリールに礼を言って、とりあえず魔術ギルドと言う場所に足を運んでみる事にした。




 ――――




「おぉ……魔女だ、魔女がいる」


 魔術ギルドにやって来て、最初に思ったのがそれだった。


 受付に座っているお姉さん。黒いローブにトンガリ帽という、いかにもな魔女スタイルをしている。


 他のテーブルの上には水晶が。奥の方には大きな壺があり、その中では何やら怪しげな液体が煮込まれて怪しげな煙を立ち上らせていた。


 魔女の家だ、魔術師の巣窟だ。何故か、今まで訪れたギルドの中で一番ワクワク感がそそられる。


 冒険ギルドは明るい、傭兵ギルドは騒がしい、商業ギルドは忙しない、そして魔術ギルドは怪しい、といったイメージだ。



「いらっしゃいませ。本日はどのような?」

「魔石の変換処理を行いたいのですが」


「畏まりました。では魔石をご提示ください」


 抑揚のない喋り方、目元はトンガリ帽に隠されて見えず、身動ぎする様子も全くない。


 怪しい人、そんな感想しか出てこない……奴は素人である。


 俺には分かる。声は綺麗で、魔石を持つ手は白く美しい。髪は艶々で、ローブでは隠し切れない豊満なバスト。


 この人、絶対に美人である。



「純小魔石の魔力変換処理は一つにつき五百ゴルド頂いております」

「…………」


「……? 申し訳ございませんが、料金の交渉は出来かねます」

「あ、あぁいえすみません。えっと……では銀貨二枚分、火魔石と水魔石をニ十個ずつお願いします」


「承りました。小一時間ほどお待ち頂きます」


 なんとか顔を見てやろうと必死になっていたら、返事するのを忘れてしまっていた。


 俺が返事をしなかった時に僅かに顔を上げたようだが、鼻筋が少し見えただけであった。


 しかし確信する。あの鼻筋、絶対に美人である。


 とはいえ顔を見せてなんてナンパをする訳にはいかないので、いつの日か見れればいいなぁなんて適当な事を考えながら、一時間ほど待っていられる場所を探す。



「あなたの前世は……あら、カエルだわ」

「カ、カエルゥゥ!?」


「今年は諦めた方がいいですね。来年になれば運気が上昇します」

「そ、それ、去年も言ってませんでした……?」


「相性は最悪ですが、その方が運命の人ですよ」

「それ、微妙に矛盾してません?」


 どうやらこの区画は占いコーナーのようだ。あちらの区画はスクロールのようなものに値札が張られているので、物品販売コーナーといった感じか。


 待機場所みたいな所がない。室内はお香でも焚いているかのような独特な匂いがしており、長く留まると頭が痛くなりそうだ。


 仕方がないので魔術ギルドを出て、ギルドの裏手に回って壁にもたれて時間を潰す事にした。



「しかし一時間て微妙だな……他の所に行くには短すぎる――――」


「――――はぁ~つっかれた~、さぁお弁当お弁当♡」


「…………」

「うわ~、やっぱりお弁当に匂い付いちゃってるよ~……なんであんなくっさいお香焚くのかなぁ?」


 魔術ギルドの裏手で時間を潰していたら、急にもの凄い美人がギルドの裏口から現れた。


 ハーフアップにしている蒼色の髪は艶々と煌めいていて、鼻筋がスッと通った日本人のような顔立ちの美女。


 どことなく聞いたような気がする声色の美女は、弁当片手に俺の方に向かってきた。もの凄く楽しそうなテンションで。



「おっべんとおっべんと嬉しいな~」

「…………」


「お腹が空いた~腹減った~、さぁ今日のお弁当はなに…………え?」

「…………どうも」


 お弁当片手に固まる美女。俺の顔を見た途端ビクっとした彼女は、ギョッとした目をしたまま完全に停止した。


 楽しそうなテンションも完全に消える。そんな彼女は後ろに手を回したかと思うと、次の瞬間に見覚えのあるトンガリ帽が現れた。


 どこから出したあんなデケェ帽子。そのデケェ帽子を被ると、彼女は何事もなかったかのように俺に話しかけてきた。



「……お客様、ギルドの裏手は立ち入り禁止でございます」

「…………」


 抑揚のない声で話しかけてくる彼女。この声色も聞き覚えがあった。


「……さっきの受付さん?」

「なんの事でしょう? 分かりかねます」


 クールでミステリアスな雰囲気の受付さんだと思っていたが、さっきの歌とテンションで全て崩れ去った。


 彼女としては見なかった事にして欲しいようだが、いくらなんでも無理がある。



「……お弁当、なんでしょうね?」

「い、言わないでぇぇ……」


「やっぱりさっきの受付さんですよね?」

「うぅ……イメージがぁ……怒られるぅ……」


 話を聞いていないようだが、もう間違いないだろう。


 なにやら魔術ギルドはイメージを大事にしているようだ。怒られると言う発言から、組織ぐるみで行っている事だと推測される。


「はぁ……もういいや、どうでも。おべんと食べよ」

「切替早いですね……」


 もう隠せないと悟ったのか、ついに曝け出し始めた彼女。


 トンガリ帽を取り、再び後ろに手を回すと帽子が消えた。もしかしてアレだろうか? マジックバッグ的なファンタジー鞄。



「お客さんも座りますか? 魔石変換を待っているんですよね?」

「は、はぁ、じゃあ……失礼します」


「あ、お弁当はあげませんよ~?」

「あはは……」


 急に砕け始めた美女。目の前に男がいる事など気にせず、大きな口を開けて弁当を貪り始めた。


 まぁその姿を見てもなお、美人だなという感想しか出てこないのだけど。


 だけどもう、ミステリアスといった感じは一切ない。


 ミステリアスでクールな魔女の中身は、親しみやすい近所のお姉さんといった感じだった。


お読み頂き、ありがとうございます

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