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【2ー8】青銅級の冒険者は貧乏である






「ご利用ありがとうございました。冒険ギルド前、冒険ギルド前で~す。お降りの方はお忘れ物をなさいませんようご注意ください」


 青銅一等級パーティーの……なんてパーティー名だったか忘れたが、四人を無事に冒険ギルドまで送り届ける。


 なんだかんだあったが、初めて客を乗せて馬車を運行した訳だ。彼らの反応から、俺の御者としての仕事っぷりは悪くなかったとは思う。



「ヨルヤ……だったか。ありがとうな、助かったよ。今度また礼をさせてもらうぜ」


 そう言いながら馬車を降りたタゴナの肩を掴む。もらうぜ、じゃねぇんだよ。なに爽やかに別れようとしているんだか。


 ゴブリンの危機があった時は百歩譲って仕方がなかったが、その危機を排除した後に俺はちゃんと聞いたよな?


 乗っていくんですかって。乗りますと言ったのはお前達だろ、つまり客なのだ。


「いやお客さん、お金払ってもらわないと困りますぜ?」

「か、金? なんでだよ? 俺達はたまたまあの場所に居合わせて、王都に戻るこの馬車に便乗させてもらっただけだぜ?」


「便乗だろうがなんだろうが四人も乗ればガソリン……じゃなくて馬が消耗するんだぜ? それに馬車も痛むぜ! この分だと消臭処理も必要になるぜぇ!?」

「…………払います」


 若干渋った様子だったが、少し語尾を強めてみると素直に従ってくれた。俺の近くに寄ってきた二人の護衛の影響もあるだろうが。


 ゴブリン数十体を難なく撃退して見せた二人だ。逃げ惑っていた彼らに勝てる相手ではないだろう。



「いやでも今は持ち合わせが……」

「……金がないだと? 金がないのに馬車に乗ったってのか? そもそも馬車代程度も持ってねぇのかお前らは!?」


「か、必ずお支払いします! ですが今日の所は……!」


 まぁ正直、そういう事なら払わなくてもいい。今日は試運転目的だったし、馬車の評価を貰いたかったから乗せたという事もある。


 金がないと言うのであれば仕方がない。だがしかし、他の事で役に立ってもらおうじゃないか。



「では金はいらないので、この馬車の噂を広めてもらえますか? バドス商会の馬車は性能が高く快適で、護衛も腕利きだから安全、料金もリーズナブルで御者はイケメンだと」


 ほぼ嘘は言っていない、ほぼ本当の事だ、ほぼ。


 性能がよく快適で、護衛が腕利きなのは彼らが身をもって知っただろう。


 広告にはヴェラの名前も載せるつもりだし、最初は料金も低めに設定するつもりだ。


 なんと言っても、馬と護衛代が他の商会と比べて掛からないからな。コストダウンの分を客に還元できる。



「わ、分かった、確かにいい馬車だったしな」

「じゃあ宜しくお願いします。それとこれはオマケです」


 インベントリから回復材(N)を四本取り出してタゴナに渡す。大量に獲得できたものだし、怪我をしている彼らには必要だろう。


 金がないみたいだしな。青銅級というのは下から二番目のランクらしいので、彼らも大変なのだろう。


「ローポーション……いいのか?」

「えぇ、たくさんありますので。ただそれ、売らないで下さいよ?」


「売らねぇよ、ありがたく使わせてもらう」


 そう言ってタゴナは回復材……もといローポーションを飲み干した。他の三人もタゴナに倣ってローポーションを飲み干す。


 やっぱり飲むのか。実は俺も使ってみたのだが、アイテム一覧から使用すると念じただけで使えてしまったからな。


 その後、彼らとは軽く談笑してから別れた。


 ダンジョンの踏破はあと一歩の所で出来なかったようだが、また必ず挑戦するらしい。


 その際、護衛馬車の事を話すと彼らは興味深いと話を聞いてくれた。金が貯まったらお願いすると言って、彼らは冒険ギルドの中へと消えていった。


「冒険してるねぇ、それでこそ冒険者だ」


 冒険者に必要なのは飽くなき探求心と諦めない心、根気強さ。


 彼らなら銀等級や金等級になれるのかもしれないな、と思いながら俺はバドス商会へと馬車を走らせた。


 ……いやごめん、金等級は無理かも。




 ――――




「――――お帰りなさい! どうでしたかって馬が四頭になにその髭!?」


 さっそく髭を弄られるピンクイケメン。黒髪エルフも珍しいと思うのだが、ピンク泥棒髭のイケメンインパクトには勝てないか。


 これがあと二十時間ほどでお別れとは悲しいな。ここまでインパクトのある護衛は二度と作られないのかもしれないのに。



「馬車は問題なかったよ。ただまぁ、もしかしたらどこか折れたかもしれんけど」

「お、折れた? かなり頑丈な木で作られた馬車なんですけどね」


 スピードを出し過ぎてしまって折れたとは言えん。それを隠した俺は破損個所を確認しようと、フェルナと共に馬車に近づいた。


 見た感じは……あぁ、馬と馬車を繋いでいる箇所がひび割れていた。この部分だけを修復なり交換すれば大丈夫そうだ。



「くさっ!? えっ!? なんですかこの匂い!? 魔獣でも乗せたんですか!?」


 馬車の扉を開けたフェルナが鼻を摘まみながら大声を出した。やはり水洗いした程度ではダメだったのか、確かに馬車内から異臭がする。


 俺はフェルナに冒険者パーティーを乗せた事、魔物を解体した事などを伝える。



「なるほど……このままじゃお客さんを乗せられませんね。掃除と換気をしなきゃ」

「悪いな。でもちゃんと見返りをもらったから。バドス商会の良い噂を広めるようにって」


「……でも青銅級なんですよね? せめて鉄級なら噂にも信憑性が出てくるかと思いますが……」

「いやまぁ……青銅一等級って言ってたから、あと一歩で鉄級じゃん?」


 どうにも青銅級以下の冒険者というのは、一般人からも低い評価しか貰えていないっぽい。


 鉄級から一人前と言われているらしいが、誰しも最初は初心者で半人前なんだ。ランクだけで判断されるのは可愛そうな気がするが、仕方ないか。



「悪い奴らじゃなかったし、ないよりましでしょ? それより広告はどう?」

「あっはい。ヴェラさんの名前とかも記載して、手直ししてみました!」


 フェルナに渡された広告を見てみる。


 中央にはこの商会唯一の馬車の絵がデカデカと描かれており、その隣や下部に護衛の有能さやヴェラ・ルーシーの名が記されていた。


 もちろんヴェラには承諾を得ている。後は料金を書けばほぼほぼ完成であろう。


「……いいね。後は料金と目的地を決めようか?」

「はい! そろそろお母さんも帰って来ると思いますので、話しましょう!」


 その後、戻ったヒュアーナを交えて色々な事を決めていった。


 そういえば戻ってきたヒュアーナの恰好がやけに煽情的だったのだが、一体なんの仕事をしているのだろうか?


お読み頂き、ありがとうございます

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