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【2ー5】なんとも言えない初馬車運転






「よしっと」


 ゴブリンとスライムを倒した時に上がったレベルアップで得たステータスポイントを、全てGPに割り振った。


 これで俺のGPは60。従馬なら六頭、護衛なら四人呼べるようになった訳だ。


「従馬召喚」


 従馬召喚を行い、二頭の従馬を呼び出した。現れたのは昨日と同じ大きさの黒毛の馬と白毛の馬、対照的な色になってしまったがまぁいいだろう。


 広告の作成作業をフェルナに任せた俺は、とりあえず馬車を走らせてみる事にした。


 父親が亡くなってから整備は欠かさず行っていたらしいが、もう数年は走らせていないため試運転が必要だと考えたのだ。



「よしっと……すげぇな、初めてなのに出来てしまった」


 馬車と馬を繋げる作業が簡単に出来てしまった。知識も経験もないのに、いざやろうとすると何故か分かるのだから不思議だ。


 これがジョブギフトの力なのか。という事は剣士などのジョブギフトを取得すれば、俺はいきなり剣が振れるようになるという事だろうか?


 でもジョブギフトの一覧には御者しかなかったんだよな。何か解放される条件があるのかもしれないが、今の所は取得するつもりはない。



「従馬召喚いいなぁ、私も欲しい……」

「そういや馬に嫌われるんだっけ? 確かにこいつらに好き嫌いはないと思うけど」


 馬に嫌われるという特異体質のフェルナが、羨ましそうな目をしている。


 俺の召喚した従馬を撫でる事が出来ると分かると、広告作成をそっちのけで撫でまくっていた。


 念のため、従馬には蹴ったりしないように命令をしている。フェルナが触ろうとした時、微妙に馬の目つきが鋭くなった気がしたのだ。


「数年前に授かった私のジョブギフト、調教師だったんですよ。だから嫌われるんですかね?」

「え……いや、調教師なら普通は好かれるんじゃ……?」


「その……授かった経緯と言いますか、実はお金を稼ぐために数か月だけ、女王様をやっていた時期があるんです」

「はい? 女王様をやっていた時期……? いや、もうやめよう。じゃあ、行ってきます」


 なんか怖くなった俺は何かを言いたそうにしているフェルナから目を逸らし、従馬に命令してバドス商会を後にした。


 まぁ、色々と大変だったんだな。あんな大人しくて清楚な感じの子が女王様とは。


 ギフトを授かったという事は、どうやら天職だったらしいが。


 恐らく調教師とは馬の調教ではなく人の調教ゲフンッゲフンッ! そりゃなんか馬も嗅ぎつけるわ、馬って賢いから。


 せっかくの初の馬車運転が微妙なものになってしまった。もっとこう……未来に向かっての第一歩的に期待に胸を膨らませて出発したかったのだが。


 俺はなんとも言えない気分になりながら、馬道を走らせそのまま王都の外へと出た。




 ――――




「ん~、平和だな」


 小一時間ほど街の外を走らせてみた。


 今の所は馬車には何の問題もない。石畳がなくなっても問題なく馬車は進み、俺は心地よい風を受けながら御者仕事を満喫していた。


 馬に命令して自動操縦化し、客を乗せるスペースに数十分ほど腰かけてみたが、まぁこちらは可もなく不可もなくといった感じだ。


 やはり最低限クッションは欲しいな。しかし先日乗った路線馬車に比べると、こちらの馬車の方が乗り心地が良いし速度も速い。


 俺の御者としての力なのか従馬の力なのか、それとも単純に馬車の性能がいいのか分からないが。



「そういや馬ってどのくらいで休憩させればいいんだ? 見た感じ、全く疲れてはなさそうだが」

「――――」


 まるで問題ないと言わんばかりの表情……まぁ馬の表情って普段の表情が分からないけど、速度は全く落ちていないし項垂れる事なく頭も上がっている。


 やっぱ馬ってカッケェなぁ。鎧とか着せたら本当にもうカッコいいだろうなぁ。



「もうちょっとスピード出してみよっか? あの森の入口までェェへェェェェ!?!?」


 そう命令するや否や、物凄いスピードで馬車を走らせ始めた従馬二頭。俺は心のどこかで、最高速を出してみよう! なんて思ってしまったかもしれない。


 二頭はまるで双子のように完璧に呼吸を合わせて馬車を引く。馬車は一切ブレることなく、真っすぐに突き進んでいく。



 ――――ガタガタガタガタベキッガタガタガタガタ――――



「ス、ストップ! 今なんか聞こえちゃダメな音が聞こえた! ば、馬車が壊れるっ!」


 命令に従い、従馬は停止した。全く息を切らしている様子がない所を見ると、もしかすると体力無限だったりするのかもしれない。


 心臓や筋肉なんてないだろうし、疲れるという概念がないのかも。


 だとしたら休憩など必要ないのだろうが、流石にそれは都合良すぎだろうか?


「こりゃ高速馬車でもいけるな……いやでもあのスピードはダメか」


 客への負担を考慮する必要がある。早ければなんでもいいという連中を運ぶのであればいいが、老人や子供などを乗せて出していいスピードじゃない。


 そもそも馬車がもたん。石畳がある場所ならまだしも、こんな凸凹した道をあのスピードではサスペンションの性能的にも厳しい。



「ま、そういう事は後で考えよう。さて、そろそろ帰る――――」


「――――そ、そこのアンタ! 逃げろぉぉぉ!!」


 そんな金切り声が、背後の森の奥から聞こえてきた。俺は再び馬を停止させ、何事かと思い馬車を降りて後方を確認してみる。


 森の奥から数人、こちらに必死な形相で走って来るのが見えた。どうやら数は四人、一人は気を失っているのか大きな男に担がれている。


 というかアイツら、見覚えがある。いつぞやの、初級ダンジョンに潜るかと言っていた青銅級パーティーじゃないか。



「人が慌てるって、やっぱ怖ぇな……」


 この世界では普通なのだろうか? 日本にいた俺にとって、あんなに慌てて人が逃げ惑っている時は何かがある時。


 プリ○スミサイル、地下鉄のジョー○ー、無差別テロなど、凡そ非日常的な事が起きているのだ。


「グ、グリーンゴブリンの群れだ! ホブゴブリンも数体いる!」


 ……なんだゴブリンかよ、驚かせんな。


 って、こんな事を思ってしまう俺は異世界に染まってしまったのだろうか?


 ゴブリンから逃げ惑う冒険者なんて情けない……なんて強者風を吹かせた俺は、強者である護衛を二体召喚してゴブリン達を待ち構えた。


 護衛召喚がなかったら、俺も秒で逃げてたけどね。


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