【2ー3】ダンジョン攻略には金がかかるらしい
「ねぇそれより指名依頼、なんで出してないのよ?」
「昨日の今日だぞ? こっちもやっと仕事が決まった所なのに……」
模擬戦後、傭兵ギルドへと向かう道中の会話である。
ヴェラは傭兵ギルドに付いて来るつもりはないと言っていたのに、なぜついて来るのかと思ったら仕事の催促だった。
熱心なものだ。冒険者なのに冒険するのではなく、依頼で金を稼ぐというのがなんか勿体ないが。
なんか冒険者とか言ってるのに冒険しない冒険者ばっかりなんだよな。 魔物倒してばっかりの奴とか。
「なぁ、なんでダンジョンに潜らないんだ? あんなに強いルーシーさんなら余裕だろ?」
「アンタ、ダンジョンを何だと思ってるの? 戦闘能力だけで踏破できるならとっくにやってるわよ」
「何って……ダンジョンを進んで魔物を倒しつつ宝箱を見つけて、一番奥にいるボスを倒せばクリアーだろ?」
「あのね……散歩に行くんじゃないんだから、そんな上手くいく訳ないでしょ?」
呆れ顔をするヴェラに訳を聞くと、自分がどれだけゲーム脳なのかが分かった。ゲームでは当たり前に行われている事だが、ここは現実世界なのだ。
まずダンジョンに潜るという事は、通常は何日もかけて行われるという事。
ゲームではないのだから慎重に行動する必要があり、それで時間がかかれば体力が消耗する。
食事を取る必要もあるし睡眠も必要だ。それらを行っている時の警戒や、食事や体力を回復させるためのアイテム、つまり物資の運搬も必要である。
「とても一人じゃ無理よ。ダンジョン攻略はパーティーを組む事が必須だわ」
「そんなに広いのか、ダンジョンって」
「初級のダンジョンならまだしも、中級以上となると宝箱を開ける者やダンジョンをマッピングする専門職も必要になる、普通は大所帯になるのよ」
当然だが、大所帯となると分け前が減る。快適とは言えない環境で、大勢の者と何日も寝食を共にする……それが嫌な者は普通にいるだろう。
ヴェラがソロで活動する理由の一番は報酬が減るから。しかしソロとなるとダンジョン攻略は難しくなる。
「一攫千金を求めて挑む場所じゃないの。ダンジョンはお金を掛けて挑む所なのよ」
「なんて夢がねぇんだ……」
ダンジョンに挑む新米パーティーなんていなかったのか。
そういやあの青銅級の四人パーティーは大丈夫かな? まぁ初級ダンジョンって言ってたし、大丈夫か。
「だからあたしは、依頼をこなしてお金を稼いでいるの。あなたのような金づ……じゃなく商人さんの依頼は報酬が高めだし」
「おい金づるってなんだよ?」
「うるさいわねぇ……だから指名依頼を出してよ? 少しくらいなら安くしてあげるわ」
「……そういう事なら、ちょっと相談があるんだがいいか?」
とある馬車商会に御者として雇われ、外を走らせる馬車を運行する事になった事をヴェラに話した。
こういう言い方はなんだが、やはりヴェラは集客に使えるのだ。
銀二等級という実力者で、見た目もいい冒険者が護衛してくれるとなれば無名の商会に箔が付く。
「なんで雇われ御者のアンタが護衛を探してるのよ? そういうのは普通、商会の方が手配するもんでしょ?」
「雇われである事に間違いはないけど、色々と任されてんだ」
「というかあなたは立派な護衛を呼べるじゃない。なんであたしなのよ?」
「そりゃ実力があって可愛いからだ」
そう言うと、僅かに驚いたように目を開くヴェラ嬢。しかしその仕草も一瞬で、次の瞬間にはジト目で俺の事を睨んでいた。
「……昨日も思ったけど、よく恥ずかし気もなくそういう事が言えるわね?」
「本当の事だからな」
「あのね、あたしだって女だし可愛いって言われるのは嬉しいけど、言われて嬉しい人もいれば嫌な人もいるのよ?」
「つまり俺から言われるのは嫌だって事か……そりゃ悪かった」
「べ、別にアンタに言われるのが嫌だなんて言ってないでしょ! 全く、雇われ御者に雇われるとか依頼料は大丈夫なのかしら……」
なんか急にツンデレを発揮したヴェラだが、最後の方はなんて言ったのか聞こえなかった。
その後詳しく話していくと、ヴェラは意外にも乗り気になってくれた。
聞くと現在は割りのいい依頼がないため、手が空いているとの事だが……恐らくこの依頼も割りに合わないと思う。
「それで、いくらで依頼してくれるのかしら?」
「5万……?」
「……は? 今なんて?」
「い、いや! その……そうだ出世払いというのはどうだろうか!? 今はその……確約出来ないんだ」
怒姫の怒気が膨らんだのを確認した俺は、慌てて適当な事を宣ってしまう。
現在のバドス商会は火の車どころか、燃え尽きかけているボロ車状態。
上手くやれるのか分からない、どれほど稼ぐ事が出来るか全く分からないのだ。
仮に上手くいったとしても、バドス商会には多額の借金があるため高給は期待できない。
だからこの場で約束出来るのは、王様に貰える日給5万だけなんです。
しかしそんな事はヴェラには関係ない。バドス商会の事も俺の事も、助ける義理なんて彼女にはない。
だから正直断られると思っていた。しかし意外にもヴェラは出世払いに反応する。
「なによ、出世払いって」
「お、俺は将来独立するつもりだ! その時は好待遇で君と専属契約を結ぶと約束する!」
「専属契約……」
考え込む仕草をするヴェラ可愛い……なんて思っている場合じゃない、攻めるならここだ。
恐らく迷っているのだろう。今は安飯を食らい未来のご馳走を待つのか、ある程度の飯で今すぐに腹を満たすのか。
更に馳走を追加すれば落ちる。そう考えた俺は後先考えずに燃料を追加した。
「ダ、ダンジョン! そうダンジョン! 君がソロでもダンジョンに潜れるように手を貸す! 物資は俺が準備するし、護衛も付ける! 宝は全て君の物だ!」
「……本気で言ってるの? それなりに掛かるわよ?」
「いいんだ! 俺は君が欲しい! 頼む、力を貸してくれ!」
「ちょっと言い方……! ま、まぁいいわ、そういう事なら引き受けようじゃない」
こうして銀二等級冒険者、怒姫ヴェラ・ルーシーと契約する事に成功した。
これで護衛問題は百点満点解決。三人目の護衛は最高の人材を迎え入れる事が出来た。
ヴェラ様々である、流石はマイヒロインだ。
「あ、日給5万は貰うわよ?」
くそ守銭奴が。ほんとに俺のヒロインかよ。
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