【2ー2】怒姫ヴェラ・ルーシー
まだ昨日の今日だと言うのに、指名依頼を出していない事にお怒りのヴェラをなんとか宥め、話を聞いてもらう。
とりあえず俺の護衛と模擬戦をしてくれないかと頼んだのだが、タダでは嫌らしい。
まぁ銀等級の冒険者の時間を拝借するのだ、タダというのは虫が良すぎるのかもしれないが……ほんと守銭奴みたいなやつだ。
お金を払うと言ったら目の色を変えたからな。
「ここならいいわね、人もいないし」
「……冒険ギルドに訓練場みたいな所はないのか」
「ある訳ないでしょ? 日頃から訓練する連中なんて騎士団くらいよ」
やってきたのは街外れの広場。周りに商店や住宅もないためか人気がない。こんな殺風景な場所で模擬戦とか、俺の護衛の事を殺すつもりとかじゃないよな。
「さぁ、じゃあ始めましょうか? 二対一でも構わないわよ?」
そう言いながら長槍を構えるヴェラ・ルーシー。構えは美しく、素人の俺が言うのもなんだが隙はないように見える。
二対一と言っていたが、いくらなんでも俺の護衛を舐めすぎじゃないか? 護衛の力を知りたいからお願いしたのだ、ここは一対一でやってもらおう。
「(僧侶ちゃんゴー! 殺さないでね? あと大怪我もさせないように)」
「――――」
そう念じると無表情の僧侶ちゃんが一歩前へと進み出た。重そうなメイスを片腕で持ち上げ、今からお前を叩き潰すッといった感じの構えを取る。
殺さないでねと言ったが……あのメイスで手加減とか出来るだろうか? あ、ダメな気がしてきた。
「(僧侶ちゃんストップ! 戻って来て!)」
「――――」
「なによ? 怖気づいたの?」
「いや悪い、ちょっと待ってくれ」
構えを解いて戻った僧侶ちゃんにヴェラが軽口を叩く。そんなヴェラに少しだけ待ってもらい、俺はオッサンと変わってもらう事に。
一撃必殺っぽいメイスの僧侶ちゃんと、手数で圧倒するっぽいスタイルのヴェラでは相性が悪かろう。
まだ手斧を持つオッサンの方が相性が良さそうだ。まぁどちらにしても脳筋だから、流石に厳しいとは思うが。
「(じゃあオッサン、頼むよ)」
「――――」
僧侶ちゃんに変わり前に進み出たオッサンが軽く構えを取る。
僧侶ちゃんのような威圧感はないが、鈍器と刃がついた得物とでは戦い方も変わって来るだろう。
「準備はいいわね? ルールだけど、致命傷を与える攻撃はなし。ミドルポーションがあるからある程度の怪我は治せるけど、出来れば使いたくはないわ」
「分かった」
「じゃあ……――――いくわよっ!」
そういうや否や、ヴェラは地面を強く蹴り一瞬でオッサンに接敵する。
そして勢いを落とさずそのまま一突き。とても俺には反応できないような速度だが、オッサンは難なくヴェラの初撃を回避して見せた。
本当に俺のステータス基準なのか? あんな攻撃を回避できる気がしないんだが……単純にギフトレベル上昇の効果が高いのだろうか。
「へぇ、その図体で躱すんだ? ノロマかと思っていたけど結構やるじゃない、もう少し早くても大丈夫そうね」
「――――」
初撃に動じた様子もなく、ヴェラの口撃に腹を立てている様子もない。一切の感情を持たないマーダーマシンが、ヴェラの首を刎ねようと手斧を振るった。
しかしヴェラには掠りもしない。ほんの少し体を捻り危なげなく攻撃を躱す。
見ているこっちはヒヤヒヤもんだが、ヴェラにも焦った様子は見られない。
「――――ッシ」
「――――」
初撃のような一撃必殺の攻撃ではなく、素早い槍の突きを連続で繰り出すヴェラ。それを往なしつつ斧を振るうオッサン。
初めは拮抗していたかのように思われたが、徐々に差が表れ始める。
槍の間合いというのは凄まじいのだな。
まるで力量は計り終えたとでも言いたげな余裕な表情になったヴェラに、オッサンは全く近づく事が出来なくなってきている。
が、ここで人間と護衛召喚との差が出始める。
「……ちょっとアンタ、そんな動きしてたら死ぬわよ?」
「――――」
護衛が被弾する事を厭わない行動に出始めたのだ。簡単に言えば、ヴェラの攻撃に被弾しながら接敵し攻撃し始める。
普通の人間であればあんな危険は冒さない。あんな捨て身の攻撃を、命ある人間には早々出来るものではない。
被弾しても怯まない、全く表情を変えない男に今度はヴェラが押され始めた。
槍の間合いなど関係ないとばかりに接敵するオッサンに表情を曇らせる。
「アンタ、いくら依頼者の命令だからって……――――ッ!?」
そしてついに攻撃がヴェラに届く。届いたと言っても、服の一部を僅かに切り裂いた程度ではあるが。
それが引き金となったのか、ヴェラの表情が変わった。
どこか余裕があった表情は引き締められ、鋭い目つきでオッサンを睨みつける。
「……この服、高かったんだけど?」
「――――」
「さっきからアンタ気持ち悪いのよ……いいわ、もう手加減はしない――――身体強化ッ!」
ヴェラの体に赤いオーラが纏ったかと思うと、次の瞬間にはオッサンは吹き飛ばされた。
斧でヴェラの攻撃を防いだように見えたが、あまりの力に吹き飛ばされてしまったようだ。
そしてヴェラは追撃を行おうと、吹き飛ばしたオッサンを追い走り出す。
身体強化とはギフトだろうか? なんてデタラメな……動きがまるで違うぞ。
「避けないと本当に死ぬわよ!?」
槍の連続突きは最初に見せたものより格段に速かった。もはや俺には槍が三本にも四本にも見える。
そしてオッサンはその大部分を防げていない。腕や足に次々と被弾していくが、それでもオッサンは怯まずヴェラに斬り掛かっていく。
「……なによこれ、どうなってるの?」
「――――」
「さっきから手応えが……! ほんっと気持ち悪いわねッ!」
ここで怒姫が顔を見せる。
怒りに任せてしまったのだろうか? 繰り出した鋭い突きはオッサンの右腕を貫通し、辺りには夥しい血が……流れなかった。
そういえば一切血を流していない。あれだけ被弾していたのに……と思った次の瞬間。
――――ぼふんっ――――
「オ、オッサーーーン!?」
オッサン、黒い靄となって霧散する。俺氏、とても悲しい。
「んげっ!?」
ヴェラ嬢、目を見開き恐怖に顔を引きつらせる。とても可愛い女の子が出していい声じゃない。
「――――」
僧侶ちゃん、全く動じていない。少しくらい仲間とのお別れを悲しんで欲しい。
どうやらHPが尽きてしまったようだ。模擬戦に命かけんなよオッサン……。
まぁ命令したのは俺だ。模擬戦を行えと命令したけど、模擬戦を止めろとの命令は出していない。
「な、ななな……どうなってんのよ!?」
こうして、模擬戦は終了した。
――――
「――――護衛召喚? なにそれ、聞いた事ないんだけど」
模擬戦終了後、ヴェラにお金を渡し俺の護衛はどうだったと質問をした。
どうだったも何も、その護衛がいなくなってしまった事を説明しろとヴェラが言うため護衛召喚のスキルギフトについて話したのだが、ヴェラから意外な反応が返ってきた。
「知らないのか? 御者のスキルギフトだよ」
「そんなギフト聞いた事ないわよ! 御者のギフトって眠気をなくすやつとか運行補助みたいなギフトばかりなハズよ!?」
「えぇ? なにその御者、つまんな」
「御者ってそういうもんでしょ!? 自分で護衛を召喚する御者がどこにいるのよ!?」
ここにいるんだが。
商売あがったりじゃない! なんていうヴェラだが、冗談ではなく護衛召喚というギフトは異常らしい。
異常というか聞いた事がないという話なので、ヴェラが知らないだけという可能性もあるけど。
「それで、どうだったんだ俺の護衛は」
「二度と戦いたくない。痛みも恐怖も感じない化け物、魔物が可愛く見えるわ」
「いやそうじゃなくて、俺の護衛は外でもやっていけんのか?」
「……強さは十分よ。この国の周辺であれば問題ないわ」
よかった、それなら安心だ。凄腕とされる銀二等級冒険者様の言葉だ、信用に値する――――
「――――まぁ、魔物にあの戦闘スタイルが通じるかは分からないけど。魔物が恐怖を感じるのか分からないし」
「は……? 分からないって何だよ」
「あたしは魔物の専門家じゃないの。知りたいなら野蛮な傭兵にでも聞く事ね」
ふざけんなよコイツ、金返せ。
護衛を失い、曖昧なお墨付きしかもらえなかった俺はヴェラを睨む。
くそ可愛い。俺は傭兵ギルドにも行ってみようかと思案しつつ、そんな事を思った。
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