【1ー21】就活前の一悶着
「馬道はあっちだぞ。この道がいくら空いているからって、ルールは守れ!」
「は、はい、すみません」
そんなルール知らなかった……なんて言えんな。何度か行き交う馬車を見かけたが、確かにみんな馬道と呼ばれる道を走らせていた。
俺は歩道を車で走ってしまったのか。そう聞けば、なんてヤバイ事をしてしまったんだと思えてきた。
「罰金刑だ、身分証を提示しろ」
「へい……」
バスの運転手であった俺が交通ルールを違反してしまうとは……申し訳ございません。
ここは大人しく従おう、悪いのは俺だ。そう思い俺は警官に身分証を手渡した。
「お前、商人かなにかか?」
「いえ、一応御者ですが……」
「御者か……まぁいい。その身なりで金がないって事はないだろう」
「いえ、大して持ってないですよ……」
もしかして収入とかで罰金の額が変わるのだろうか? だとしたら金持ちだと思われるのは非常にマズい。
罰金はもちろん払うつもりだが、払える額にしてもらえないと払えない。そろそろこの服装、止めようかな。
「交通違反で2万の罰金だ、さっさと出せ」
「2万か……」
まぁ妥当な罰金か。異世界料金とかじゃなくて助かったが、それにしても今の俺にとったら大金だ。
しかし違反は違反。ここでごねて面倒な事になるのも嫌だし、俺は素直に銀貨二枚を取り出し警官に渡した。
「それとお前は……そうだな、迷惑料で5万だ」
「……はい? 迷惑料?」
「俺達の手を煩わせたんだ、そのくらいは払うよな?」
「は……?」
なに言ってんだコイツ、本気か? 半グレかよ、そんなこと言う警察官がどこにいるってんだ?
冗談か何かかとも思ったが、奴の表情がそれを否定していた。ニタニタと、まるでカツアゲでもしているかもような表情だ。
「分かるだろ? 面倒な事になりたくなきゃ、払っておいた方がいいと思うが?」
「……なんだそれ、それでも警官かよ」
「なんだと……? お前、いい度胸だなッ!」
つい愚痴が出てしまったが、それが奴は面白くなかったのだろう。
眉間に皺を寄せたと思ったら、俺の胸倉を掴もうとしたのか近寄ってきた。
ガタイのいい警官に胸倉を掴まれ、俺は地面に組み伏せられた……とはならず、伸びてきた手は俺の胸倉を掴む前に護衛の手に阻まれた。
「ぐっ!? お、お前! 放せッ!」
「――――」
オッサン護衛が警官の腕を掴み力を入れる。みるみる青くなっていく手を見ると、相当な力が込められているのが分かった。
冗談じゃなく腕が千切れてしまいそうだ。力の加減などしないのだろう、オッサンは俺に脅威が迫ったと判断して行動したのだ。
「オ、オッサン、もういい。放してやってくれ」
「――――」
そう言うとすんなり手を放したオッサン。その表情は相変わらず無表情だが、それが逆に不気味で強者感が出ている。
だがしかし、下手に警官に手を出すと俺達の世界では罰金なんかでは済まない。
護衛には黙っていてもらおう。通じるか分からないが、俺は頭の中で警官達に手を出すなと命じる。
「くっ……お前ら、こんな事をしてッ!? 俺は世界警察の人間だぞ!?」
なんて、どっかの貴族の馬鹿息子のような発言をする警察官。
世界警察という組織がどれほどこの世界に影響を及ぼしているのか知らないが、生憎と俺は異世界出身者だ。
「おい、こいつの身分証……」
「なんだよッ!? なっ……特級の身分証だと!? 王家の関係者か!?」
このままでは終わらなさそうな雰囲気が漂っていたのだが、俺の身分証を確認していたもう一人の警官の言葉で雰囲気が変わった。
特級と言っていたが、身分証にもランクがあるのだろうか? 王城発行の身分証だし、結構いいのかもしれない。
「くそッ! おい、行くぞッ!」
そう悪態を付きながら、二人の警官は去って行った。
なんだアイツら、本当に警察官か? そりゃ色々な警察官がいるのかもしれないが、あれは酷すぎだろ。
ともあれ俺が違反したのは事実。俺は馬を降り、馬道と呼ばれる所へ移動した。
「アンタ災難だったな。でもポリスに逆らっても良い事ないだろ? 全くヒヤヒヤしたぜ」
「ポリス……ですか?」
馬道に移動した所、一部始終を見ていたという男に話し掛けられた。
話を聞くと奴らの事をポリスと呼ぶらしい。まぁまんまだが、世界警察を作ったのが異世界人なら納得だ。
「下手にジャッジまで出てきちまったら牢獄行きだぜ? 関わらねぇ方がいい」
「あ、はい。ありがとうございました」
ジャッジというのは馴染みない言葉だが、ポリスより上位の存在のようだ。
警官がいて、治安はいい世界と思っていたのだが……まさか警官側が問題だとは。
ともあれ世界警察、ポリスには関わらない方がいいというのは常識らしい。
俺は教えてくれた男性に礼を言い、再び従馬に乗って馬道を進み始めた。
――――
「ここか」
一悶着あったものの、とりあえず辿り着いたバドス商会。
ここで面接か何かを受け、見事採用されれば俺は晴れて御者となれるのだろうが。
「ここ、本当にやってんのか……?」
酷い外観である。今にも潰れそう……というレベルを越え、もう潰れている外観である。
ここがもし飲食店や物売り商店であれば、色々な意味で客など来ない。
それほどまでに酷い見た目であるのだが、馬や馬車も通れそうなほど大きな入り口は開いていたので、一先ずは入ってみる事に。
「中は意外と……すみませ~ん、どなたかいらっしゃいませんか~?」
意外にも中は外観から想像される汚なさではなかった。椅子やテーブル、カウンターにガタがきている感じはするが、掃除はされているようだ。
そして部屋の隅には馬車が一台置かれていた。この商会の物とは思えないほど異様に立派である。
「なんでこの馬車だけ――――」
「――――あ、あのっ! その馬車だけはやめて下さい! それだけは許して下さい!」
馬車を見てみようと近づき始めた時、カウンターの奥から女の大声が聞こえてきた。
急な大声に驚き振り向くと、顔が引きつりながらも力強い目をした可愛らしい女性がいた。
なぜそんな怖がっているのだろう? 体も声も震え、今にも泣きそうになっているのはなぜだ?
ちょっと無表情で凶悪な武器を持った護衛がいて、ちょっと身動き一つ取らない大きな馬がいるだけなのに。
いや怖ぇか。そんな集団がいきなりやって来たら。
「あのっ! 借金は必ずお支払しますので、どうか馬車だけは……どうかっ!」
どうやら借金取りだと思われているらしい。
身なりのいい男に物騒な武装をした護衛が二人、そして馬。確かに、そう見えなくもないかもしれない。
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